ロレックスの「認定中古ビジネス」【第2回/全4回】狙いは二次流通市場におけるロレックスの品質と価格の適正化と安定化

今、時計業界で最大の話題といえば、ロレックスがヨーロッパの名門老舗時計店「ブヘラ」で開始した「Certified Pre-Owned(認定中古)ロレックス」(以下、CPOロレックス)という新しいプログラムによる中古時計市場への参入だ。

先週の第1回では、なぜブヘラからサービスがスタートしたのか? この新サービスでメリットを享受するのは誰か? これらの点について考察・解説した。
今回は、ロレックスが認定中古サービスを始める理由とその影響について、筆者個人の見解をお伝えしたい。

ロレックスの「認定中古ビジネス」【第1回/全4回】なぜ始めた? 日本でのサービス開始は!?
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©Yasuhito Shibuya
時計ビジネスの関係者しか入場できないスイス開催の「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ」でも、来場者の多くが真っ先にチェックするのはNo.1ブランド、ロレックス・ブースの製品展示だ。
渋谷ヤスヒト:取材・文 Text by Yasuhito Shibuya
(2022年12月24日掲載記事)


長期的な目的は「ブランド価値の維持と向上」

 さて、ロレックスはなぜ認定中古ビジネスを始めたのか? それにはいくつもの理由と目的があると思われる。そのいちばんの理由とは?

 筆者が考えるいちばんの理由は、中古ロレックス市場に「本家本元」として加わることで、中古時計市場でのロレックスの品質と価格を長期的に適正化、安定化させ、ロレックスという「ブランドの価値」を守り、高めることだ。ストレートに言えば「加熱している中古時計市場をこのまま放置すると、ロレックスのブランド価値が毀損される(損なわれる)」と判断したからだろう。

 ただロレックスは、認定中古ビジネスを開始した理由について以下のように上品に表現している。2022年12月1日に発表された公式プレスリリースを引用しよう。

日本語の公式リリースのトップ画面。このリリースが日本語でも発表されたということは「日本でもこのプログラムが開始される可能性がある」ということだろう。

(以下、プレスリリースより引用)
ロレックスは製品の耐久性を重視し、妥協のない品質基準により、長くご愛用いただける 時計を製造しています。そのため、すでに市場に流通している時計の性能を維持、保証しながら、そのセカンドライフにも寄り添っていきたいと考えています。このアプローチは 卓越性へのあくなき追求と未来の世代のための長期的な取り組みを行うパーペチュアル (永続)の哲学に沿うものです。

 時計技術者や本誌読者の方々は、ロレックスが技術的にいかに優れている時計か、ロレックスがいかに誠実な時計ブランドかをご存じかと思う。1905年の創業以来、精度や防水性など実用的な機能とその信頼性をどこよりも真面目に追求してきた。ロレックスが時計ブランドとして世界No.1の人気とシェアを持つのは当然のことだ。

 そして、正規販売店の店頭で、定価で販売される新品のロレックスについて、その製品の品質やブランド価値を疑う人はひとりもいない。ただ、「ブランドの価値を認める人」=「ロレックスを購入したい人」が世界であまりにも多過ぎて、その結果、需要が供給をはるかに上回る状況が常態化。人気モデルに関しては3年待ちから5年待ちという状況が続いている。


ロレックスの「ブランド価値」を揺るがす中古時計市場の異常

 ではロレックスの二次流通品、つまり中古時計市場で流通する中古ロレックスの「品質」と「ブランド価値」はどうだろうか?

 残念ながら、こちらはお世辞にも良いとは言えない酷い状況だ。もともとロレックスの中古価格は他の時計ブランドの中古より高値安定の状態にあった。だが2020年来の新型コロナウイルス危機以降、投機目的でロレックスに興味を持つ人の増大で、明らかに異常なことになっている。中古ロレックスの価格は、2022年秋に少しだけ落ち着いたが、それでも時計のプロの誰もが「異常」「バブル」と断言する価格高騰が続いていることに変わりはない。

 そして、この異常な状態を象徴するのが「コスモグラフ デイトナ」を中心にした二次流通市場での「新品ロレックス」の異常な価格高騰だ。オイスタースチールのデイトナの定価は172万400円(12月24日現在)。だが中古時計販売店の買い取り価格はだいたいその倍額。そして、中古時計販売店での販売価格は400万~500万円台。つまり、新品を購入直後に転売すると、転売者は購入価格と同じくらいの利益を手に入れることができる。そして、中古時計販売店はさらに上乗せした数十万〜百数十万円の利益を得ることになる。

「お金に余裕があって定価の何倍でもロレックスが欲しいという人がいる。俺たちはそのニーズにコネと才覚で応え、ビジネスチャンスにしているだけで、何も問題はない。犯罪でもないし、被害者もいないし、うまく儲けているだけで、俺たちを非難するのは不当な言い掛かり、ただの嫉妬だ」というのが“転売ヤー”を筆頭に、こうしたグレーな取引を行う人たちの言い分だ。

 だが、本当にこうした投機筋による購入の“被害者“はいないのか? ビジネスのモラルとして問題はないのか? もちろん問題だし、目に見えないが被害者は実は数多くいる。それはロレックスの本当の価値を理解し、定価で購入して一生使いたいと思っている人々や、日々、こうした人々に「お売りしたくても製品がありません」「入荷は未定です」と繰り返し言わなければならない正規販売店のスタッフたちだ。彼らの中には、心を病んでしまう人もいる。以前も紹介したが、ある老舗時計販売店のトップは「本当に欲しい方にお売りできないのが辛い」と語っている。

 そして、こうしたアンフェアなレベルにまで投機化したロレックスの中古ビジネスによる最大の被害者がロレックス自身であり、ロレックスという時計ブランドだ。