グランドセイコーの白樺モデルこと「SLGH005」を着用レビュー。すべてが滑らかな仕上げの素晴らしさに、改めて感嘆する

FEATURE本誌記事
2022.12.27

2020年に発表されたグランドセイコーの新世代ムーブメントCal.9SA5は革新的なデュアルインパルス脱進機とツインバレルを搭載。3万6000振動/時のハイビートと約80時間のロングパワーリザーブを実現した。そしてそのCal.9SA5を搭載した初のレギュラーモデルが通称、白樺モデルことSLGH005だ。目下、全世界で大人気の同モデルの魅力を探ってみた。

GS-SLGH005

星武志:写真
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
福田豊:取材・文
Text by Yutaka Fukuda
[クロノス日本版 2023年1月号掲載記事]


「エボリューション 9 コレクション SLGH005」インプレッション項目

エボリューション 9 コレクション SLGH005

エボリューション 9 コレクション SLGH005
搭載されるCal.9SA5は直径を大きく、水平輪列構造にすることにより、画期的な薄型化を実現。そのためケース厚は手巻きムーブメント搭載モデルに匹敵する11.7mmを実現した。自動巻き(Cal.9SA5)。47石。3万6000振動/時。パワーリザーブ約80時間。SS( 直径40mm、厚さ11.7mm)。日常生活強化防水(10気圧)。104万5000円。

1、ケース
リュウズは引きやすく、回しやすいか? : ◎
リュウズを引き出した際、左右のガタはないか? : 〇

2、ブレスレット&ストラップ
バックルは外しやすいか? : ◎
ブレスレットの遊びやストラップの曲がり・穴のピッチは適切か? : 〇

3、文字盤、針、風防
強い光源にさらされた際、インデックスと針が文字盤に埋没しないか? : ◎
文字盤と針のクリアランスは過大ではないか? : 〇

4、ムーブメント
針合わせは滑らかか? : ◎
ローターの回転音は耳障りではないか? : 〇

グランドセイコーのSLGH005"白樺モデル"がGPHG2021「メンズウォッチ」部門賞を受賞
https://www.webchronos.net/news/71874/


すべてが滑らかな仕上げの素晴らしさに、改めて感嘆する

 インプレッションに参加するのは今回が初。なので不慣れなところも多々ある。担当したのは「グランドセイコー エボリューション9 コレクション SLGH005」。いわゆる「白樺」のメカニカルハイビートムーブメント、キャリバー9SA5を搭載したモデルである。

「SLGH005」は「44GS」で確立された「セイコースタイル」をより進化させ、針とインデックスを大きく、より立体的にしているのが特徴。白樺ダイアルはグランドセイコースタジオ 雫石の近くの白樺林を表現したもの。深い凹凸と煌めくような白の輝きが唯一無二の美しさと魅力だ。

 ご承知のように、同モデルは2021年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ(Grand Prix d’Horlogerie de Geneve=GPHG)でメンズウォッチ部門賞を受賞するなど海外での評価も高く、目下、品薄の状態が続いているという。そのため貸し出し可能のモデルはサンプルのみ。よって今回は日常使用での動態精度の計測は行わないこととし、実測値は改めて実機を借りた際にクロノス日本版編集部で行い、別の機会に報告する予定となった。と、まぁ、不慣れなところにもってきて、端から想定外の展開だが、インプレッションは続行せよとのこと。さぁて、お仕事開始だ。

すべてが滑らかに仕上げられているのがグランドセイコーのスタイル。ブレスレットもこのように隅々まで滑らかに仕上げられており、そのため腕にしっくりとなじむ。ポリッシュとサテンのツートーン仕上げの美しさも秀逸だ。

 SLGH005を手にするのは、もちろん、初めてではない。だが新鮮な気持ちで見て、触って、第一印象を述べると、すべてが滑らかであることに改めて感嘆する。滑らかな仕上げは、この価格帯の高級機のどれもが持ち合わせているものだが、しかし同モデルの滑らかさは抜きんでている。その理由は「44GS」により確立された「セイコースタイル」と、そしてグランドセイコーの卓抜した仕上げ技術によるものだろう。とにかくケースも、ブレスレットも、隅々までが滑らかで、腕に着けてもまったく気に障るところがない。だからまるで昔から着けていたようにしっくりとなじむ。こういうのはほかにはロレックスぐらいだろう。

 では、使用感はごく快適で、まったく気になるところがなかったかというと、そうでもない。最初は気付なかったのだが、しばらくして感じ始めたのが、重心の高さだ。

 というと、疑問を持つ方がおられるかもしれない。20年に発表された新世代ムーブメント、キャリバー9SA5は、ムーブメントの直径を大きく、水平輪列構造にすることにより、画期的な薄型化を実現したとされる。そのため同キャリバー搭載のSLGH005は重心が低く、着け心地がよい、とされているのだ。

 筆者も、当然、そのことは知っていた。だから重心を高く感じたのに疑問を持ち、改めて調べてみたのである。するとキャリバー9SA5は直径31.6㎜、厚さ5.18㎜。これは確かにキャリバー9S85よりは薄い。3万6000振動/時のハイビートや、約80時間のロングパワーリザーブを備える高性能ムーブメントとしても優れた薄さだ。しかしETA 2892A2の直径25.6㎜、厚さ3・65㎜に比べるとはるかに大きく、厚く、(おそらく)重い。

デュアルインパルス脱進機やツインバレルなど、語りどころが満載のCal.9SA5。ムーブメントの構想段階から設計チームにデザイナーを加え、見た目の美しさを追求したのも、大きな特徴だ。フリースプラングの採用やテンプの受けをダブルブリッジにしているのも注目点。美麗なストライプ模様の「雫石川仕上げ」も魅力だ。

 またムーブメントの搭載位置も、リュウズの高さを見ると、さほど低くはない。つまり大きく、厚く、重いムーブメントが腰高に設置されている。加えて、ケースも重くボリュームがある。だから腕を振ると大きく揺れる。ヘッドが重く感じられるのだ。

 ではブレスレットとのバランスはどうか。ケースが重ければブレスレットも重くしてバランスを取るというのは確かに正しい方法だ。オーデマ ピゲ「ロイヤル オークオフショア クロノグラフ」はその代表。大きく厚いケースを厚いブレスレットと合わせることで着け心地をよくしている。

 だが、個人的にはその真逆の方法も好みだ。例えば、大型のミリタリーパイロットウォッチにNATOストラップを合わせる。ケースが重い分、ストラップを軽くして、軽快に着けられるようにするのである。だからこのモデルも、動きに余裕のあるブレスレットではなく、ジャストサイズのレザーストラップでしっかりと腕に巻くとよいのかもしれない。もし次回もう一度機会があれば、ぜひ試してみたい。

針を多面カットにすることで、美しく煌めかせるとともに、視認性を高めるのが「セイコースタイル」だ。SLGH005はそのセイコースタイルを進化させ、より大きく立体的な針を採用。より一層の美しさと、見やすさを実現している。時針に映り込んだ歪みのない秒針に、磨きの質の高さが見て取れる。

 さて、それではここからはインプレッション項目に従って記していく。まず、大きめのリュウズは操作性がよい。手巻きしたときの感触も良好。ジャリジャリッという軽快な音が気持ちよく、もっと手で巻き上げたくなる。リュウズ周りのガタつきはなし。針合わせは正確、針飛びも起きない。

 1/10秒を刻む秒針の動きは見応え抜群。ただし同じ白樺にスプリングドライブモデルがあるのが悩ましい点。あの流れるような運針は特別だ。

 視認性は素晴らしく良い。一大特徴の白樺林を模したダイアルは、雪のような白い輝きが大きな魅力だ。だからその白い輝きに、多面カットの針とインデックスの組み合わせは、一見すると、白地にクロームで見にくいように思うかもしれない。しかしキラキラと煌めきつつマットなダイアルに、ダイヤモンドカットの針とインデックスは、コントラストがくっきりと直射日光や強い照明の下でも見やすい。太くされた針は好みの分かれるところだが、さらに見やすくなったという点では文句なしだ。

 自動巻きのローターの回転音については、一読者として以前から疑問だったのだが、どの程度を耳障りというのだろうか。音の大きさはセリタのキャリバーSW200やETA 2892A2と同じぐらい。キャリバーSW200やETA 2892A2が渇いた音なのに対し、キャリバー9SA5は滑らかな音がする。いずれにせよ、日常の使用で音が気になることはほとんどない。しかし、オーデマ ピゲのキャリバー2121のような無音ではないので、◎ではなく〇にした。

 最後に、この時計を欲しいかというと、チャンスがあれば手に入れたい。もう少し長い時間付き合うと、さらに新しい発見がありそうで、そこが楽しみだからだ。とまれ、よい時計なのは、間違いない。


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