5人の有名オークショニアとChrono24に聞く「時計の資産価値」緊急アンケート

FEATURE本誌記事
2022.12.28

一部のラグジュアリースポーツウォッチを含むスポーツウォッチが、高級時計の二次流通市場で高騰している。コロナ禍で行き場を失ったマネーのひとつの到達点だと説明されると、腑に落ちないわけではない。だが、さらに視野を広げ、有名オークショニアや世界最大の時計売買プラットフォームのウォッチスペシャリストたちに「時計の資産価値」について緊急アンケートを行った。その結果を報告する。

[クロノス日本版 2021年7月号掲載記事]


CHRISTIE’S(クリスティーズ)

アレキサンドル・ビグラー

アレキサンドル・ビグラー[時計部門アジア地区ヘッド]
スイス生まれ。2005年、大手オークションハウスでキャリアをスタート。10年、ジュネーブのクリスティーズに加わる。急成長する中国、東南アジアの時計市場でウォッチスペシャリストを歴任した後、14年にシニア・コンサルタントとしてバンコクへ赴任。19年6月より現職。

Q1. コロナ禍における各国中央銀行の金融緩和政策の影響による世界的な“カネ余り”状態を背景に、高級時計の資産価値に注目が集まっていますが、そうした状況下におけるオークションでの“売れ筋”は何ですか?

A1. 我々のクライアントに、投資のための購入は勧めないが、時計コレクターが購入前に検討すべき“売れ筋”の特徴は以下の通りである。

  1. 極めて稀な型番と限定版のタイムピースは、その稀少性ゆえに常に探し求められていて、大抵の場合、オークションまたは個人的な販売に登場する。
  2. 特にロレックスやパテック フィリップのような伝説的なマニュファクチュールのヴィンテージタイムピースも、時計コレクションを完成させるためになくてはならないものである。
  3. 目を見張るようなデザインと稀少な素材(色付きの文字盤、エナメル、手彫り、宝石の装飾)は、時計市場においてますます人気が高まっている。


Q2. オークショニアとして、現在の時計の落札価格や資産価値を見たとき、いわゆる“バブル”と呼ばれる状況だと思いますか?

A2. 時計市場にバブルは見られないが、販売総数の非常に堅調な伸びと、近年のグローバルな競売場やオンラインオークションの至るところで、安定した強力な販売率(多くの場合、80%を超える)を目の当たりにしている。

  1. 伝説的なブランドや独立系ウォッチメーカーによる年間生産量は、パンデミック以前から常に非常に限られていた。彼らの作るタイムピースの需要は、当然のことながら、安定して強いだろう。
  2. パンデミックにより、一部のブランドは一時的にファクトリーの閉鎖を余儀なくされたかもしれない。しかし、コレクターは非常に迅速に対応し、最新のコンプリケーションが再び市場に出る前に、ヴィンテージデザインにシフトするであろう。市場はありのままに反応し、進化する。
  3. 時計は非常に興味深く、独特なカテゴリーである。一般的に、時計コレクターは長期にわたって投資し、購入前の市場調査に努め、性急に購入したり、翌日転売したりすることはめったにない。
  4. 卓越した、稀少で唯一無二の限定版タイムピースは、常に時の試練に耐え、市場において一時的な流行で終わることはめったにない。


Q3. 現在のオークション市場を俯瞰した際に、資産価値という観点から、注目すべき時計ブランドやモデルは何ですか?

A3. 近年のクリスティーズの時計オークションの結果から、パテック フィリップ、ロレックスが常に高い価格を意のままにしていることがわかる。F.P.ジュルヌ、オーデマ ピゲ、ブレゲ、A.ランゲ&ゾーネなどのブランドも、市場で急成長している。



Q4. 今後のオークション市場における高級時計の動向をどう予想しますか? コロナ禍における動向と、コロナ後の展開ついてご意見をお聞かせください。

A4. 高級時計は、その卓越したクラフツマンシップと長年にわたる伝統、社会的地位、唯一無二のブランド価値により、オークションで急騰し続けるであろう。私は時計市場の将来について、非常に楽観的である。

時計コレクターたちは現在、パンデミックの“ニューノーマル”な生活に慣れ、オークションでの実際の購入や、小売店やオンラインでの購入が珍しくなくなっている。したがって、我々は、クライアントとのより親密な交流のために状況が許す限り、多忙なうえに身体的制約もあるが、タイムピースの購入を楽しみたいという新たに生まれつつあるコレクターが参加できるよう、高級なクリスティーズのオンラインオークションを維持しながら、ライブオークションやプレビューを主催し続ける。


SOTHEBY’S(サザビーズ)

サム・ハインズ

サム・ハインズ[サザビーズ シニアディレクター 時計部門グローバルヘッド]
ロンドン生まれ。ニューヨーク大学卒業後、1997年にサザビーズに入社。その後、同じくオークションハウスのクリスティーズに移り、時計部門共同ヘッドに就任。さらに、フィリップス時計部門のヘッドを経て、2018年よりサザビーズに戻り、時計部門グローバルヘッドに就任。

Q1. コロナ禍における各国中央銀行の金融緩和政策の影響による世界的な“カネ余り”状態を背景に、高級時計の資産価値に注目が集まっていますが、そうした状況下におけるオークションでの“売れ筋”は何ですか?

A1. コロナ禍前後にかかわらず、パテック フィリップやロレックスは元来、“ブルーチップ”なブランドとして認知されている中で、より顕著になったのは入手困難なモデル(ロレックスではデイトナなどステンレススティール製のスポーツタイプ、パテック フィリップではノーチラスなど)に一層の関心が集まっていると見受けられる。

また、生産数のごく限られたリミテッドモデルやコンディションが際立ったヴィンテージウォッチに集まる関心は引き続いている。



Q2. オークショニアとして、現在の時計の落札価格や資産価値を見たとき、いわゆる“バブル”と呼ばれる状況だと思いますか?

A2. 私自身は、バブルとは呼ばず、世界中で若い世代の新しいコレクター層が増えたことにより活性化された、業界にとって健全で有望な展開と表現したい。過去の金融危機後を思い起こすと、高級品や携帯できる資産となる物品の価値は上昇する傾向にあると見受けられるが、今回のコロナ禍では、世界的に行動が制約され、時計コレクターたちが旅行に出られず、これまでレジャーに充てられていた余暇資金が手元に残っているという一過的な側面もあることは追記すべきだ。

自宅でじっくりと好みの時計を探したり、購入や売却について十分に検討したり、また自身でもリサーチする時間もあるという点は、時計をはじめ、美術品など蒐集対象の嗜好品に注目が集まる要因となっていると感じる。



Q3. 現在のオークション市場を俯瞰した際に、資産価値という観点から、注目すべき時計ブランドやモデルは何ですか?

A3. 具体的な回答を差し控えるが、元来入手が難しい時計は、オークション市場で小売価格の2~3倍以上になる場合も見受けられる。



Q4. 今後のオークション市場における高級時計の動向をどう予想しますか? コロナ禍における動向と、コロナ後の展開ついてご意見をお聞かせください。

A4. 落札価格という点では、特定のブランドにおいては横ばい、または冷却があるはずだが、弊社オークションではコロナ禍でも、またどの開催地においても本当に多くの新しいコレクターの参入が見られる。

技術力が高くまた魅力的な時計が登場し、個々の時計コレクターの知識が豊かであるという強みを持つ時計市場において、さらに多くの若い次世代のコレクターがこの分野に興味を持ち、参入しているという点で、未来は明るいと思っている。


PHILLIPS(フィリップス)

トーマス・ペラッツィ

トーマス・ペラッツィ[時計部門ヘッド、アジア]
イタリア系スイス人。アンティコルム・イタリア時計部門、サザビーズのヨーロッパ時計部門副部長、クリスティーズ時計部門ヨーロッパのヘッドを歴任した後、2017年11月、フィリップスへ入社。現在、香港をベースに活動。インターナショナル・オークショニアでもある。

Q1. コロナ禍における各国中央銀行の金融緩和政策の影響による世界的な“カネ余り”状態を背景に、高級時計の資産価値に注目が集まっていますが、そうした状況下におけるオークションでの“売れ筋”は何ですか?

A1. オークションには多種多様な高級時計がある。最近、オークションで販売されている最も人気のあるブランドとモデルは、ロレックスのエクスプローラー、F.P.ジュルヌのトゥールビヨン、オーデマ ピゲのロイヤル オーク、パテック フィリップのノーチラスなど。これらはアジアおよび日本の時計コレクターの間で特に人気がある。

6月5~6日に開催されるフィリップスの香港時計オークションXIIでは、これらの人気モデルを紹介する。



Q2. オークショニアとして、現在の時計の落札価格や資産価値を見たとき、いわゆる“バブル”と呼ばれる状況だと思いますか?

A2. もちろん違う。私は10年以上の間、時計コレクションへの関心の高まりを見てきた。毎年、多くの新しいプレーヤーが時計コレクションマーケットに参入しており、特にデジタルトランスフォーメーションによって成長し続けたのだろう。そして、これからも時計マーケットはさらに大きくなっていくだろう。

例えば、最近のジュネーブ・オークションでは、フィリップスの歴史上で最も多い記録的な数のオンライン参加者がいた。



Q3. 現在のオークション市場を俯瞰した際に、資産価値という観点から、注目すべき時計ブランドやモデルは何ですか?

A3. 独立時計師、ウルベルクやドゥ・ベトゥーンなど。



Q4. 今後のオークション市場における高級時計の動向をどう予想しますか? コロナ禍における動向と、コロナ後の展開ついてご意見をお聞かせください。

A4. コレクターは最高のクォリティとレア度を備えた時計を探すだろう。シーズンごとに、私たちのオークションのオンライン入札者の数は増え、新たなステージに達している。先日のジュネーブ・オークションでは2500人以上の入札者と、1万人以上のオンライン視聴者を迎えた。

オークションは素晴らしい時計を手に入れる機会と見なされることに加えて、今や成長するコレクターのコミュニティーが集まり、時計に対する共通の情熱を共有するための必見のランデブーを体現している。