IWC/パイロット・ウォッチ

FEATUREアイコニックピースの肖像
2019.11.03

BIG PILOT’S WATCH Ref.5002 [2002]

2002年に市販されたファーストモデル

ビッグ・パイロット・ウォッチ Ref.5002
2002年初出。Cal.5000系の改良版であるCal.5011を搭載する。ムーブメントの開発責任者はクルト・クラウス氏。当初は3日間のパワーリザーブであったが、故ギュンター・ブリュームラインの要求により、7日間に延長された。近年のIWCらしく、外装の仕上げも良好。旧作のエッセンスを巧みに抽出した傑作である。自動巻き(Cal.5011)。44石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約168時間。SS(直径46.2mm)。6気圧防水。IWC所蔵。

 1980年代後半に復活したパイロット・ウォッチ。しかしそこに航空用クロノメーターの後継機が加わることはなかった。搭載できるムーブメントがなかったためである。確かに当時のIWCは、いくつかの懐中時計用ムーブメントを持っていた。しかしこれらは繊細に過ぎたし、製造コストも高く付いた。

 状況が変わったのは、2000年のことだ。IWCは自社製自動巻きのキャリバー5000を発表したのである。「懐中時計用ムーブメントの自動巻き版」を謳うこの大きなムーブメントは、航空用クロノメーターにこそ、うってつけであった。しかし航空用クロノメーターの復活には、紆余曲折があった。最初期型の5000系はシングルバレルのトルクが強すぎて、精度が安定しなかったのである。対してIWCの技術陣はトルクを抑えるため、いくつかの改良を加えた。そのセンターセコンド仕様がキャリバー5011である。精度の安定を確認したシャフハウゼンの経営陣たちは、ようやく「航空用クロノメーター」の復活に踏み切った。

 新しいビッグ・パイロットの意匠は、かつての航空用クロノメーターを思わせる。ラグや文字盤、針の造形は旧作に近いし、インナーケースに軟鉄製の耐磁ケースを内蔵するのも同じだ。しかしケース構造はマークシリーズと同じ2ピースに改められ、ムーブメントも7日間という長いパワーリザーブを持つ自動巻きに改められた。

 ムーブメントと時計全体の品質をいえば、このモデルよりも、現行モデルの方がもう一段優れている。しかしオリジナルの雰囲気を残したRef.5002は、好事家にとって大変魅力的な時計である。とりわけこのモデルに、高振動化された自動巻きを載せた後期型(ごく少数生産された)は、コレクターズアイテムのひとつといって間違いない。

Ref.5002

2002年から05年まで製造されたRef.5002。(左上)「航空用クロノメーター」を踏襲したダイアル。地に荒らしたブラックを引くのもオリジナルに同じ。ミリタリーテイストを強調するためか、1940年製のモデルほどではないが、近年のモデルとしては例外的に粗い表面を持つ。なお1999年以降、IWCは夜光塗料としてトリチウムではなく、スーパールミノヴァを採用している。(右上)ねじ込み式に改められた裏ブタ。軟鉄製のインナーケースを内蔵することで、約3万2000A/mという耐磁性能を誇る。(中)ケースサイド。マークXVに同じく、ベゼルとミドルケースが一体の2ピース構造となった。なおRef.5002のリュウズは、魚マークの刻印がオリジナル。“Probus Scafusia”の刻印は、現行モデルからの転用だ。(左下)ダイヤカットが施された長短針と、立体的な秒針。カウンターウェイトを持つのも、1940年製のモデルと同様だ。(右下)12時位置から見たケース。2002年当時、IWCは全生産数の約半分にあたるケースを自製していた。ビッグ・パイロットのケースもシャフハウゼン製。ただし現行モデルに比べて、各所の切削はやや甘い。なお2005年に製造された最終版のRef.5002は、1万8000振動/時のCal.5011ではなく、2万1600振動/時のCal.51110を搭載する。