アイコニックピースの肖像 IWC/ポルトギーゼ

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.05.28

PORTUGIESER JUBILEE Ref.5441 [1993]
創業125周年に甦った復刻モデル

ポルトギーゼ・ジュビリー Ref.5441-05
IWC創業125周年記念モデル。ケースがトランスパレントバックになり、ムーブメントに記念の装飾が施された以外は、ほぼオリジナルのポルトギーゼを再現している。生産期間は1993年から96年まで。生産本数はSSが1000本、18KRGと18KWGがあわせて500本、Ptが250本であった。初出を1930年代にさかのぼるムーブメントながら、携帯精度は極めて高い。手巻き(Cal.9828)。19石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約46時間。SS(直径42.3mm、全長51mm)。筆者蔵。

 IWCの創業125周年を記念して、1993年に発表されたのが「ポルトギーゼ・ジュビリー」こと、リファレンス5441である。これはオリジナルをほぼ完全に模した復刻版であり、ムーブメントも98の改良版である9828を搭載していた。復刻の経緯を語ってくれたのは、IWCのクルト・クラウスである。「イベントで、ある参加者がオリジナルのポルトギーゼを着けていた。われわれは彼らの周りに集まり、なぜこれを復刻しないのかと語った」。

 もっとも復刻に至った理由は、それだけではなかったらしい。研究者たちの見解によると、当時のIWCは、ポルトギーゼに載せられるキャリバー98(正確には耐震装置付きの982)と、オリジナルのケースを少なからず在庫していたようだ(ケースに関しては新造されたという説もある)。当時のCEOは卓越した手腕を持つギュンター・ブリュームラインであり、彼は記念にかこつけて、時代遅れの懐中時計用ムーブメントを一掃したかったのかもしれない。ともあれ結果として、93年のポルトギーゼ・ジュビリーはオリジナルの忠実な復刻となった。筆者の聞いた情報が正しいならば、という但し書き付きだが、初期ロットには〝第3世代機〟の余剰ケースとムーブメント(ただし125周年の加飾は施された)がそのまま搭載されたという。その生産本数は、SSが1000本、18KRG/WGが500本、Ptが250本。限定というには多すぎるほどの数だったが、愛好家たちはこの時計を熱狂的に支持したのだ。

 記念年と、偶然と、おそらくは余剰在庫の処分というアイデアがもたらしたポルトギーゼの復活。しかしその完成度は、初出から20年経った今なお卓越している。ジュビリーの好調なセールスを受けて、以降のIWCはポルトギーゼのラインナップを急速に拡大していくことになるのだ。

(左上)ポルトギーゼ・ジュビリーの意匠はオリジナルの第2世代にほぼ同じ。リーフハンドの造形や、芯にスティールのスリーブを打ち込んだ点もまったく同じである。ただしジュビリーのSSモデルは、針とインデックスがRGメッキとされた。おそらくは18KRGケースにも転用するためだろう。(右上)旧字体のロゴを持つ文字盤。オリジナルモデル同様、インデックスは上からクリアを載せたアプライドである。おそらく文字盤の製造メーカーはフリッキゲル。わざわざミニッツインデックスを彫り込み、磨き上げるという手法は同社が得意としてきたものである。(中)ケースサイド。オリジナルに比べてリュウズが小さいほか、ラグが伸びていることが分かる。ただしこの形状のケースは、オリジナルの第2世代にも存在していたし、第3世代はまったく同じであった。風防は、オリジナルに同じくプレキシガラス製。(左下)トランスパレント化されたケースバック。スナップ式のため非防水となっている。搭載するのはCal.982の改良版であるCal.9828。(右下)247ページ掲載の第2世代に比べて、わずかに厚くなっていることが分かる。なおストラップの取り付け位置を下げて装着感を改善するのは、1990年代の典型的な手法。