アイコニックピースの肖像 IWC/ポルトギーゼ

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.05.28

PORTUGIESER HAND-WOUND EIGHT DAYS Ref.5102 [2013]
8日巻きに進化した新しいハンドワインド

ポルトギーゼ・ハンドワインド・エイトデイズ Ref.510203
8日巻きの手巻きムーブメントを搭載したモデル。ロングパワーリザーブのためか、手巻きポルトギーゼでは初となる、日付表示が備わっている。緩急針のないフリースプラングや2万8800振動/時というハイビートにより、精度はかなり優れているはずだ。サイズ感などを含め、非常にバランスの取れた時計。筆者は非常に好きである。手巻き(Cal.59215)。30石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約192時間。SS(直径43mm、全長51mm)。112万5000円。

 1993年に復活したポルトギーゼ。その手巻き最新モデルが、8日巻きの「ポルトギーゼ・ハンドワインド・エイトデイズ」である。

 当初のオリジナル・ポルトギーゼは、懐中時計用のムーブメントを搭載した高精度機であった。しかし現代のポルトギーゼは、その大きなムーブメントサイズを生かして、長大なパワーリザーブも持つに至った。2000年の通称〝ポルトギーゼ2000〟もそうであったし、このモデルもやはり例外ではない。

 搭載するキャリバー59215は、ポートフィノに積まれた59210の改良版である。大きな違いは文字盤側から裏側に移植されたパワーリザーブ表示。それ以外の特徴である、緩急針のないフリースプラングや、巻き上げヒゲといった要素は59210に同じだ。

 個人的な意見をいうと、かつての手巻きポルトギーゼは、ムーブメントの外観をジョーンズキャリバー風に変えたジュビリーに過ぎず、精度を謳ったポルトギーゼの在り方からすると、いささかベクトルが違っていた。対してこの新作は、振動数を高め、緩急針のないフリースプラングを載せることで、ポルトギーゼに相応しい高精度を取り戻そうとしている。ムーブメントの意匠はかなり素っ気ないが、疑似古典に改められたキャリバー98系よりはずっと好ましい。加えて手巻きポルトギーゼの美点である優れた装着感は、このモデルでも損なわれなかった。直径43㎜、厚さ12㎜というケースサイズは、その向上したスペックを考えれば十分に許容範囲だ。

 ようやく内外のバランスを回復した「ポルトギーゼ・ハンドワインド・エイトデイズ」。近年の手巻きポルトギーゼを必ずしも是としなかった筆者にとって、これは素晴らしい時計である。30年代にIWCを訪れたふたりのポルトガル人が今にありせば、大喜びしてこのモデルを発注するのではないだろうか。

(左上)ポルトギーゼを特徴付ける立体的な時分針。袴座の下にリングを噛ませて文字盤とのクリアランスを詰める手法は、2010年に登場した旧「ポルトギーゼ・オートマティック」以降のものである。間延び感を解消し、立体感を加える非常に優れたアイデアだ。スモールセコンドの彫りの深さにも注目。一見プレーンな造形を持つポルトギーゼだが、本作に加えられた立体感への配慮はいかにも現代風である。(右上)ロゴが一新された文字盤。従来に比べて、シャフハウゼンの文字が小さくなったほか、書体も変更されている。インデックスはエンボスではなくアプライド。立体感を強めて、視認性を高めるためだろう。(中)ケースサイド。ケース厚が増したことを受けて、ラグの湾曲は一層強まっている。低い重心位置と併せて、装着感は比較的良好だ。(左下)新しい手巻きムーブメント。意匠は筆者の好みといささか異なるが、精度は卓越している。(右下)肉厚のストラップは、近年のIWCが好むサントーニ製。ケースとの間隔を詰めて間延び感をなくし、かつ装着感を改善させるのは、やはり現代風の処理である。またラグもわずかに太くされている。大きくは変わっていないポルトギーゼの意匠だが、細部は時代に応じてアップデートされていることが読み取れる。