オメガ/スピードマスター

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.08.27

SPEEDMASTER PROFESSIONAL [Ref.3570.50]
原型機の意匠を受け継ぐ現行ムーンウォッチ

スピードマスター プロフェッショナル

スピードマスター プロフェッショナル[Ref.3570.50]
40年以上も、ほぼ変更がないまま製造される、傑作中の傑作。筆者の私見をいうと、Cal.321よりもこのモデルが載せる861系のほうが完成度は高い。手巻き(Cal.1861)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。SS(直径42mm)。50m防水。42万円。

 1990年代にリリースされたスピードマスタープロフェッショナルは、今なおオリジナルの造形をよく残している。現行の3570.50は、月面に降り立った通称フォースモデル(テストを受けたのはST105.003だが、採用されたのはST105.012であった)の現代版。搭載ムーブメントは替わったものの、デザインは60年代とほぼ同じである。また耐衝撃性を与えるためにインナーケースでムーブメントを包み込む構造も、ファーストモデルから不変だ。進化がないとも言えるが、スピードマスターのH指した初期コンセプトがいかに非凡だったかという証しでもあ沿だろう。

 もちろん細部に違いはある。まずはテンションリング。これはシーマスターの派生モデルであるという証しだったが、今や接着剤の進化により、省略しても同程度の防水性が確保できるようになった。搭載するムーブメントも17石から18石に改良され、ブレスレッドも時計の重みに相応しく、剛性感の高いものへと変更された(ただしネジ留めが標準となった最新型に比べると、このブレスレットの完成度は高くない)。スピードマスターという時計は、現在の基準からするとヘッドの重心は高いし、プレスレットの着け心地も思ったほど良好ではない。しかし視認性や操作性、そして耐衝撃性は、今なお現行のクロノグラフでは飛び抜けて優秀であり、完成度は突出している。

 80年代初頭、オメガが生産する機械式時計は、スピードマスタープロフェッショナルのみであった。そしてこのモデルは、今なお生産が継続されている。確かにプライスは大輻に上がってしまったかもしれない。しかしこの傑作が、今なおカタログに残っていることを素直に言祝ぎたい

スピードマスター プロフェッショナル

(左上)上面にアルミ製のプレートをはめ込んだベゼル。初出は1959年のCK2998-1と言われている。そもそもは視認性を高めるための手法だが、後年には テレメーターやパルスメーターにスケールを替えた“変わりベゼル”も用意された。(右上)スピードマスターの個性である、荒らした黒文字盤と白いインデックス、針の組み合わせ。インダイアルのフォントが角張っていることから、このデザインが1960年代のものであることが分かる。ただ以前に比べて文字盤の荒らし方が弱いほか、5分ごとのミニッツインデックスも短くなった。クロノグラフ針や時針の先端は曲がっておらず、テンションリングが廃された点なども異なる。(中)現行モデルとしては例外的にプレキシ風防を採用する。あくまで筆者の私見だが、サファイアガラス防のRef。3573.50に比べて重心が低いため、装賛感はまだ許容範囲にある。(左下)アポロ11号による月面満陸以降、裏蓋には「THE FIRST WATCH WORN ON THE MOON」の文字が刻まれた。エッチングで省コストを図る現行品が多い中、深く彫り込んで色を入れている。(右下)1963年のST105.012に始まった非対称ケースは、今なおスピードマスターの個性である。側面の上側を大きく面取りし、弓管に向けて落とし込んだデザインは、60年代以降にケース製法が進化したことを受けてのものだ。