ショパール/L.U.C

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.10.01

20年足らずで築きあげた熟成の集大成
[L.U.C ベーシックラインナップ総覧]

1996年の発表から20年近くを経たL.U.Cコレクション。最初に基幹ムーブメントを作り、時間をかけて熟成させるというスタンスは、このコレクションに信頼性をもたらすことになった。加えて外装の進化は、L.U.Cをいっそう魅力的なものに変えようとしている。

L.U.C XPS
薄さを強調したXPに加わったスモールセコンド付き。研ぎ上げたラッカー文字盤には完全に歪みがない。自動巻き(Cal.96.12-L)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。18KWG(直径39.5mm、厚さ7.13mm)。30m防水。174万円。

 LUCプロジェクトを始めるにあたって、ショイフレ氏はさまざまな関係者に話を聞いた。その中のひとりが、彼にこうアドバイスをしたという。

「時計作りとはマラソンのようなものだ。スプリントレースではない」。ショイフレ氏はその教えを忠実に守り、手堅くコレクションを増やしてきた。「だから私たちはグランドコンプリケーションではなく、ベーシックな基幹キャリバーからコレクションを始めたのです。それが私たちの哲学です」

 2000年に「クアトロ」、2004年に「カリテ フルリエ」、06年に「クロノ ワン」。LUCのプロダクトをタイムラインで追いかけていくと、確かにショイフレ氏は一歩ずつLUCのコレクションを拡大してきたことが分かる。

 とはいえ、LUCは一貫して少量生産を守り続けている。その年産は約4000本(うちジュネーブ・シールを取得したものは約800本)。ショパール自体の年産が約8万本と聞けば、全体に占めるシェアはわずか5%に過ぎない。では今後、生産本数を増やす予定はあるのか。ショイフレ氏は「今後も増やしたくはない」と明言する。

(左)L.U.C ルナ ツイン
1時位置にムーンフェイズを加えたのがルナ ツイン。インデックスを強調した文字盤の意匠などは、クロノ ワンの最新作に準じる。基本スペックや仕上げなどはXPSに同じ。自動巻き(Cal.96.21-L)。33石。18KWG(直径40mm、厚さ9.97mm)。30m防水。276万円。
(中)L.U.C XP スケルテック
XPSをスケルトナイズしたモデル。文字盤側の面取りを省いたのは、薄さを強調するためか。文字盤は標準的な真鍮に銀メッキではなくニッケル製である。基本スペックはXPSに同じ。自動巻き(Cal.96.17-S)。18KRG(直径39.5mm、厚さ6.98mm)。30m防水。世界限定288本。229万円。
(右)L.U.C XP トノー
Cal.97.03-Lを搭載したトノーモデル。複雑な形状のケースも、お家芸の鍛造で成形されたものだ。ムーブメントが注目されるL.U.Cだが、外装の完成度も極めて高い。基本スペックはXPSに同じ。18KWG(縦40×横37mm、厚さ7.22mm)。50m防水。212万円。

 量を増やさず、質を維持しようとするLUC。その方向性は、ショパールがフルリエ・エボーシュを作ったことによって、いっそう明確になった。事実ショイフレ氏は、筆者に対して「フルリエ・エボーシュを創業したのは、生産性を考えたため」と述べる。

 生産本数が少ないこともあってか、彼はLUCのコレクションに対して、全面的にコミットしてきた。デザイン面では、1950年代のショパールウォッチに範を取ったカリテ フルリエのデザインや、あるいはモダンな「テック」シリーズなど。ムーブメントでは、〝セイリングボートの艪〟に触発されたという1.98や、3つの積算計を可能な限り拡大した10/11CFなどが挙げられよう。これらはすべて、ショイフレ氏の指示によるものだ。

(左)L.U.C 1937 クラシック
L.U.Cにおける、いわば実用機。96系ほど華麗な設計ではないが、その分極めて堅牢だ。SSケースも魅力的である。自動巻き(Cal.01.01-L)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRG(直径42mm、厚さ10.64 mm)。100m防水。198万円。
(右)L.U.C クアトロ
4つの香箱を持つ名機L.U.C 1.98(98.01-L)を搭載するクアトロ。第一作に比べて、明らかにケースの作りなどは向上した。”Wonderful buy”。手巻き。39石。パワーリザーブ約9日間。2万8800振動/時。18KWG(直径43mm、厚さ8.84mm)。50m防水。275万円。

 20年弱の歳月をかけて、徐々に拡大してきたLUC。ではその基幹コレクションを見ていくことにしよう。現在、LUCの代名詞的存在になったのが、「XP」シリーズである。3.30㎜というムーブメント厚を生かしてケースを薄型化。また緩急針を薄いトリオビスに変えたことで、裏蓋とムーブメントのクリアランスは極端に詰められた。ケースの磨きも、近年のショパールらしく歪みが大変に少ないものだ。

 ショパールが作るケースに関しては、改めて明言する価値がある。ショパールは、一貫してケースを鍛造で作っている。これはヴィッカース硬さを上げられる反面、歪みのない面と立体感を与えるのが難しい。しかしショパールは年々金型と磨きを改善し、今や極めて良質なケースを作るようになった。「もともとショイフレ家はケースを作っていた」というだけあって、外装におけるひとつのハイライトは、いまやケースである。しかも自社で作った時計は必ず直すという哲学を持つ同社は、すべてのモデルのケース金型を保管している。当たり前のようだが、他社ではなかなか真似できないだろう。

(左)L.U.C 1963 クロノ
クロノ ワンを手巻きに改良し、L.U.C 1.96並みの仕上げを与えたムーブメントを搭載する。受けと地板はLUC EHGに同じく洋銀製。基本スペックはクロノ ワンに準じる。手巻き(Cal.03.07-L)。38石。18KRG(直径42mm、厚さ11.5mm)。50m防水。世界限定50本。461万円。
(右)L.U.C クロノ ワン
2006年初出のクロノワンも、デザインに手が加えられた。リュウズガードが加わり、インデックスも変更された。自動巻き(Cal.03.03-L)。45石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRG(直径44mm、厚さ14.06mm)。100m防水。418万円。

 06年にリリースされた「クロノ ワン」も、過去のものとはやはり違う。大きな違いはケースサイズとローマンインデックス。〝LUCは小さい〟というユーザーの声を聞いたショイフレ氏は、2000年代半ば以降、時計のサイズを積極的に拡大してきた。バランスを取るため、インデックスが大きくなるのは当然の進化といえるだろう。これは名機1.98を載せる「クアトロ」、そしてベーシックな「1937 クラシック」にも共通することだ。

 デザインの好みは分かれるが、質をいっそう高め、実用性を増したLUCコレクション。もう少し日本での知名度があって然るべき、とはいささか身びいきに過ぎるだろうか?



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ショパール〝生まれながらの高級機〟生みの親、カール-フリードリッヒ・ショイフレ


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