ショイフレ家3代の絆が結実した、ショパール「アルパイン イーグル」

FEATURE本誌記事
2019.10.10

 ショパール「アルパイン イーグル」の誕生には、同メゾンを3代にわたって率い、発展させてきたショイフレ家の“家族の物語”が大きく関わっている。その開発物語は5年前にさかのぼる。1980年に発表された当時のベストセラー「サンモリッツ」をオーナーファミリー3代目、カール-フリッツ・ショイフレが“再発見”したことに端を発する。ショイフレ家3代の情熱と絆が結実した新たなアイコンには、次代を担うラグジュアリースポーツウォッチの可能性が秘められているのだ。

アルパイン イーグル

ショパール「アルパイン イーグル」
Ref.298600-3001。ガルバニック加工を施したアレッチブルーダイアルモデル。一般的な腕時計に使用される316Lステンレススティールの約1.5倍の耐摩耗性と、ホワイトゴールドに匹敵する輝きを放つ新開発の「ルーセント スティール A223」をベゼルとケース、ブレスレットに採用。ショパールのラグジュアリースポーツウォッチの次代を担う新アイコン。C.O.S.C.認定クロノメーター。自動巻き(Cal.Chopard 01.01-C)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径41mm、厚さ9.7mm)。100m防水。147万円。
奥山栄一:写真 Photographs by Eiichi Okuyama
鈴木幸也(本誌):文 Text by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)

THE REBIRTH OF AN ICON

 現共同社長、カール-フリードリッヒ・ショイフレの息子であるカール-フリッツは、5年前のある日、父の机の上にひとつの腕時計を見つける。カール-フリードリッヒが22歳の時、当時の社長であった自身の父親、カール・ショイフレを説き伏せて開発し、1980年に発表した「サンモリッツ」であった。

 果たして、歴史は繰り返された。いわば、父のデビュー作であり、出世作でもあるサンモリッツを見つけたカール-フリッツは、たちまちその新鮮なデザインに魅了され、数日間にわたって装着した。すると意匠だけでなく、まるで第二の皮膚のようにフィットするブレスレットの快適な着け心地を発見した彼は、現在のショパールのコレクションには存在しないこの「サンモリッツ」の個性と、それを生み出す要素を損なうことなく、独自の工夫を加えて、再解釈することを思い立った。だが、彼の父親であるカール-フリードリッヒは乗り気ではなかった。カール-フリッツは言う。「それでも私は、自分のアイデアを諦めきれず、父を説得するために、祖父に相談を持ちかけたのです。祖父と私はプロトタイプを製作し、父にプレゼンテーションを行いました」。

1963年、カール・ショイフレ3世(中央)がショパールを買収し、ショイフレ家がオーナーファミリーとなる。右が現共同社長、カール-フリードリッヒ・ショイフレ。左がその息子、カール-フリッツ。カール-フリードリッヒが創造した「サンモリッツ」をカール-フリッツが“再発見”、親子で再解釈したのが新作「アルパイン イーグル」である。

(左)「アルパイン イーグル」の時分針と秒針のデッサン画。左のスケッチから、ダイナミックにダイヤモンドカットでファッセット面が入れられた時分針の形状が分かる。中央のくぼみにはスーパールミノバ グレード X1が塗布される。右はイーグルの羽を模したカウンターウェイト付きの秒針のスケッチ。
(右)ベゼル、ミドルケース、裏蓋の3ピースで構成される「アルパイン イーグル」のケース構造のデッサン画。ベースとなった「サンモリッツ」同様、4対8本のスクリューでこれら3つの外装パーツを強固に留めることで100mの防水性を確保すると同時に、サンモリッツで確立されたデザイン要素を受け継ぐ。

 当初、自身の作品であるサンモリッツを不変のアイコンと捉え、誰にも手を触れさせなかったカール-フリードリッヒであったが、息子の真摯な提案に、新たな可能性を感じ取った彼は、かつて溢れんばかりの情熱と野心をもって父親を説得したように、今度は自分が息子の提案を受け入れ、息子とふたりで新たな〝アイコン〞の創造に取り掛かった。

 約40年前、自身がスティールにラグジュアリースポーツウォッチの可能性を見いだしたように、今回の開発プロジェクトにおいても最大のハイライトは、新たなスティールの採用であった。それこそが「ショパール ルーセント スティール A223」である。当時、「ゴールドと同じようにスティールを使ってみたい」とカール-フリードリッヒが主張したように、親子が進める「サンモリッツ」をベースにした新たなラグジュアリースポーツウォッチのリローンチにおいても、スティールがプロジェクトの成否の鍵を握ることを喝破したのだ。

1980年に発表された「サンモリッツ」の広告。時計の背景に置かれたスキー板から、この時計がスポーツウォッチを志向したものであることが分かる。このモデルは、ショパール初のスポーツウォッチであると同時に、初めてステンレススティールを用いてケースを製造したモデルでもあった。発売後、10年間にわたってベストセラーとなった。

 この新たなスティール合金は約4年前、オーストリアの鉄鋼メーカー、フェストアルピーネ社と共同開発に着手し、完成させた新素材である。ルーセントスティール A223は大きく3つの特徴を備える。まずは低刺激性の合金組成による金属アレルギーを起こしにくい金属特性。次に一般的な高級時計が使用する316Lスティールに比べて約1.5倍の耐摩耗性。さらに、極めて均質で高純度な結晶構造を持つが故に、通常のステンレススティールよりも明るく、独特な輝きを放つ。すなわち、実用性の高い金属特性だけでなく、見た目においてもラグジュアリースポーツウォッチに相応しい新合金なのだ。半面、既存のスティールよりも硬いため、従来に比べ、25%以上のツールを使用し、加工時間も25%以上多くの時間を費やしている。このように難加工材でありながら、現代の高級時計に不可欠な立体的な造形をケースとブレスレットに盛り込み、さらにポリッシュとヘアライン仕上げによって、その立体感に一層磨きをかけているのだ。

 最先端のラグジュアリースポーツウォッチの方法論を踏襲した「アルパイン イーグル」は、原点となった「サンモリッツ」に端を発しつつも、ショイフレ家親子3代にわたって受け継がれた時計への情熱と、次世代を担う若者特有の清々しい野心によって研ぎ澄まされた結果、ショパールの新たな〝アイコン〞となるべく、生まれるべくして生まれたのだ。

「サンモリッツ」のアイコンである4対8本のスクリューを踏襲しつつ、ベゼルはよりシンプルな正円に変更された。文字盤にはモデル名に採用されたイーグルの鋭い目の虹彩をイメージしたサンバースト模様をテクスチャーとして表現。

直径41mmケースのシースルーバックからは自社開発ムーブメントCal.Chopard 01.01-Cが見られる。C.O.S.C認定クロノメーターで約60時間のパワーリザーブを持つ。

「アルパイン イーグル」のブレスレット。コマの上面にヘアライン、中央のキャップと面取り部にポリッシュ仕上げを施すことで、立体感が一層際立つ。

「サンモリッツ」のデザインを踏襲した「アルパイン イーグル」のブレスレット。標準的なネジやCリングではなく、コマをひとつひとつ専用パーツで固定するリンク式を採用することで、手首に滑らかに沿うような快適な装着感を実現。両開きのバックルはプッシュボタン式ではないため、ブレスレットからはみ出すことなくエレガント。