日本、そして世界を代表する著名なジャーナリストたちに、ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2025で発表された時計からベスト5を選んでもらう企画。今回は1994年よりスイスの大規模時計展示会を取材し続けてきた、Gressive編集長・名畑政治氏が登場。「やっぱりシンプルが良い」と記す名畑氏が、「どうにかこうにか選んだ」5本の傑作とは? なお、掲載の5モデルはすべて同列であり、順位は付けられていない。
・パルミジャーニ・フルリエ「トリック カリテフルリエ パーペチュアルカレンダー」

手巻き(Cal.PF733)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ptケース(直径40.6mm、厚さ10.9mm)。30m防水。世界限定50本。9万2000スイスフラン。(問)パルミジャーニ・フルリエ pfd.japan@parmigiani.com
センターの時分針に加え、ダイアル下部のふたつのインダイアルだけで月と曜日と日付を表示するというシンプルなフェイスが素晴らしい。淡いブルーのダイアルとヌバック仕上げのグレーストラップのマッチングにも魅了される。
・ゼニス「G.F.J.」

手巻き(Cal.135)。1万8000振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ptケース(直径39.15mm、厚さ10.5mm)。5気圧防水。695万2000円(税込み)。(問)ゼニス ブティック銀座 Tel.03-3575-5861
あの伝説のクロノメータームーブメント「Cal.135」の復活が驚き。それをモディファイしてブリッジに模様を刻み(これは正直、どちらでも良い)、夜空を思わせるラピスラズリのダイアルを与えたことも素晴らしい。
・カルティエ「タンク ア ギシェ」

手巻き(Cal.9755 MC)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。Ptケース(縦37.6×24.8mm、厚さ6mm)。非防水。世界限定200本。970万2000円(税込み)。(問)カルティエ カスタマー サービスセンター Tel.0120-1847-00
「ギシェ」とは「窓」。その名の通り、時計の窓から時と分を数字で読み取る特殊なモデル。今回の新作ではプラチナモデルの窓が、ちょっとひねった位置に設置されている。これがなんともアバンギャルドで良いのである。
・クロノスイス「パルス ワン」

自動巻き(Cal.C.6001)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。Tiケース(直径41mm、厚さ12.75mm)。10気圧防水。世界限定100本。258万5000円(税込み)。(問)栄光時計 Tel.03-3837-0783
時・分・秒の針を独立させたレギュレーターを大胆に進化させ、マットなケースとマットなダイアルのマッチングによって古典的なモデルとはまったく異なる、ウルトラモダンなレギュレーターを提示してみせたことに驚いた。
・ショパール「L.U.C クアトロ‐マーク IV」

手巻き(Cal.L.U.C 98.09-L)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約216時間。Ptケース(直径39.00mm、厚さ10.40mm)。30m防水。予価722万7000円(税込み)。ショパールブティック限定販売。(問):ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922
9日間のロングパワーリザーブを実現した「L.U.C クアトロ」をスイスで取材して四半世紀という事実に驚く。これを記念する最新作は39mmの小ぶりなケースの美しいモデル。ライトブルーのダイアルとグレーのストラップの組み合わせも素敵だ。
総評
新型コロナ禍を経て、時計の新作発表のスタイルが大きく変わり、それぞれのモデルに合わせて最適な時期にリリースされるようになった。とはいえ、やはり春は新作時計の季節。今年のWatches & Wonders Geneveでも、多くのブランドから多彩な新作が発表された。そこから「5モデルだけ選べ」というのは実に残酷な要求だが、いつもと同じく「自分が素直に欲しいと思えるもの」という基準で5つのモデルをどうにかこうにか選んだ。
これらのモデルを総覧して思うのは、「やっぱりシンプルが良い」という私の指向。もちろん複雑時計は素晴らしいと思うが、自分で身に着けるなら最終的にはシンプルモデルだと考えているということが、このセレクトから改めて浮かび上がった次第である。これらのモデルの中で「お金さえあれば是非、手に入れたい」と思うのがゼニスの「G.F.J.」。個々の解説にも書いたとおり、ゼニスの技術を結集して天文台クロノメーターコンクールに挑戦した伝説の「Cal.135」がまさか復活するとは思っていなかったし、こんな美しい外装で新たに製作されるとは想定外であった。オリジナルの「Cal.135」搭載モデルを手にしながら、何度も買い逃してきたことを思えば、本当にできることなら手に入れたいドリームウォッチですね。例によって、すべて同列、順位なし。
選者のプロフィール

名畑政治
ブランド腕時計の正規販売店紹介サイトGressive編集長にして、日本における時計ジャーナリストの第一人者。1994年よりスイスの大規模時計展示会を取材し続け、得た見識は業界随一だ。クロノス日本版では特集記事の執筆のほか、巻末の「Chronos Top10 Ranking」で選考委員を務める。近年は犬派から猫派に転向(もちろん犬も好き)。共著に「カルティエ時計物語」。