ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで存在感を増すショパール。画期的な自社ムーブメントを存分に使って着実に進化を続ける「L.U.C」、そしてスポーティーエレガンスの新世代をリードする「アルパイン イーグル」、ふたつの代表的コレクションが今年も注目の的だ。マニュファクチュールの高度な技術とショパールの洗練された美意識。それが隅々にまで行き渡るデザインが、時計愛好家を魅了してやまない。

Photographs by Yu Mitamura
菅原茂:文
Text by Shigeru Sugawara
加瀬友重:編集
Edited by Tomoshige Kase
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]
自社製ムーブメントを搭載した「L.U.C」

今やスイス時計産業の偉大なレガシーのひとつに数えられるのが、ショパール マニュファクチュールが開発した自社ムーブメントだ。1996年にムーブメント単体でL.U.C 1.96(当時の名称)を発表してから早くも来年で30周年。L.U.C 1.96と並んで、同時代の他社からも注目を浴びたのが98年に開発されたL.U.C 1.98(当時の名称)である。世界初の四重香箱を搭載し、毎時2万8800振動で、驚異的な約216時間(約9日間)のパワーリザーブを実現したこの手巻きムーブメントは、加えてCOSCによるクロノメーター認定とジュネーブ・シール取得という、まさしく高性能と審美的な仕上げにおいて群を抜く傑作なのだ。開発者がこれと同等の現代ムーブメントは他に存在しないだろうと自負していたのを覚えている。
特許取得のクアトロテクノロジーを特色とする自社ムーブメントL.U.C 1.98を搭載して2000年にデビューしたのが初代「L.U.C クアトロ」。そして今年、傑作の誕生25周年を記念する新作は4代目にあたる「L.U.C クアトロ-マーク Ⅳ」だ。初代から進化した画期的なムーブメントはもとより、以前にも増して魅力を高めているのが、フルモデルチェンジとも言うべきデザインである。

ケース素材は18Kエシカルローズゴールドとプラチナ950の2種類が揃う。とりわけ印象的なのは、スティールやシルバー、ホワイトゴールドとは違う、クールで高貴な白い輝きによって格別なエレガンスが漂うプラチナ製モデルである。高密度で腐食や摩耗に強く、化学的安定性に優れるプラチナは、古くから「貴金属の王」と呼ばれ、初代クアトロにも使われた。ショパールが時計に用いるのは、純度95%のプラチナ950のみ。稀少なプラチナ製モデルに識別マークとして蜜蜂のモチーフを手彫りすることも新たにスタート。L.U.C クアトロ-マーク Ⅳにも早速、ミドルケースにそれが刻まれている。小さな蜜蜂であっても、意味するものは大きい。勤勉、誠実、謙虚な蜜蜂は、協調的な努力と結束の要を表し、19世紀の創業者ルイ-ユリス・ショパールの時代からメゾンの価値観を語るシンボルになってきた。だからこそ、単なる記号ではなく、意味深い蜜蜂を選んだのだろう。
L.U.C クアトロ-マーク Ⅳの意匠で最も魅力的な点は、控えめさと贅沢さを併せ持つところ。プラチナ自体がこれに当てはまるわけだが、この素材で作られた新開発のケースもそうだ。直径39mm、厚さ10.40mmと以前よりコンパクトサイズに刷新されたケースは、縦方向に繊細なサテン仕上げを施したミドルケースがベゼルからケースバックに向かって緩やかに絞られてゆく、いわゆる水盤のようなカーブを描き、この微妙なラインに合わせて別体のラグがケースにロウ付けされている。正面からはシンプルに見えても、実際は緻密な設計と加工技術が求められる非常に凝った造形なのである。

ダイアルも同様だ。「クアトロ」のシグネチャーを演じてきたパワーリザーブ表示をダイアルから取り除くというシンプル化、フロステッドテクスチャー加工とスカイブルーとの絶妙な融合、文字盤のブルーカラーと、18Kエシカルホワイトゴールド製の針やアプライドインデックスとのコントラストなどにも、控えめさと贅沢さが同時に表現されている。また、ケースと同じ水盤型で操作しやすい形状のリュウズや、インターチェンジャブルシステムを新たに取り入れたストラップも見逃せない。
この腕時計が細部に秘めた魅力をひとつひとつ発見してゆくことは、時計愛好家にとってこの上ない楽しみだろう。これぞクワイエットラグジュアリーの神髄を体現するショパールの傑作に他ならないのだから。

第4世代は歴代で最もシンプルなダイアル意匠を持つ。パワーリザーブ表示はムーブメント側に移動、スモールセコンドと日付表示を合わせた6時位置のサブダイアルもスカイブルーダイアルに溶け込み、時針と分針のみを際立たせる。COSC 認定クロノメーター。ジュネーブ・シール取得。手巻き(Cal.L.U.C 98.09-L)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約216時間。Pt950ケース(直径39mm、厚さ10.40mm)。30m防水。722万7000円(税込み)。
スポーティーエレガンスを体現する「アルパイン イーグル」
ショパールのスポーティーエレガンスを体現する新世代コレクションとして2019年に誕生。以降、アイコニックなデザインを貫きながら進化を遂げてきたのが「アルパイン イーグル」である。開発を提言したのは、ショパール共同社長カール-フリードリッヒ・ショイフレの息子、カール-フリッツ・ショイフレだ。彼の若い感性が徐々に製品に反映されつつある。
それを象徴するのが「アルパイン イーグル 41SL ケイデンス 8HF」だ。25年の最新作を携えて来日したカール-フリッツ・ショイフレによれば、コレクション史上最も軽量で、技術的にも極めて凝ったモデルであるという。


精悍でハイテク感が漂うグレーのアンスラサイトカラーに包まれたケースとベゼルを形作るのは、セラマイズドチタンと呼ばれる素材である。航空宇宙や自動車産業向けに開発されたこのセラマイズドチタンは、超軽量かつ高硬度で、L.U.C GMTやL.U.C フル ストライクなどにも使用されたことがある。同素材を毎時5万7600振動という特許取得の高速調速機構を特色とするCal.Chopard 01.14-Cの地板と受けにも取り入れ、ムーブメントの軽量化も実現した点にも注目してほしいと彼は言う。ショパールはこの超高振動ムーブメントの原点となるCal.L.U.C 01.06-Lを12年のL.U.C 8HFに搭載して以降、さまざまな改良を施してきたが、今回のムーブメントは従来とは似て非なる最新版だ。

軽量化の試みは、メタルブレスレットに替えてラバーストラップを組み合わせたところにも表れている。チタン製の外装と同ムーブメントを搭載して一昨年発表された前作よりもさらに先へと歩んでいることが分かる。アルパイン イーグル特有のデザインを活かしつつ、そこにショパールが積み重ねてきた技術革新のエッセンスを盛り込み、次へとつながる腕時計を創作したセンスは秀逸というほかない。

シリコン素材を採用した特許取得の脱進機による高振動ムーブメントの系譜に属する最新作。今回の進化版は、ケースやムーブメントにセラマイズドグレード5チタンを用い、同コレクションで最軽量のSL(スーパーライト)を実現した。COSC認定クロノメーター。自動巻き(Cal.Chopard 01.14-C)。28石。5万7600振動/時。パワーリザーブ約60時間。Tiケース(直径41mm、厚さ9.75mm)。100m防水。世界限定250本。376万2000円(税込み)。
アルパイン イーグルの新作でもうひとつ魅力的なモデルといえば「アルパイン イーグル 41XP CS プラチナ」である。その名称がすべてを語っているように、ケース直径は41mm、XPすなわち超薄型の8mm、CSすなわちセンターセコンド、そしてプラチナ製である。先に述べたように、ショパールが時計に用いるのは最高純度のプラチナ950のみだが、新作はこの高貴な素材で作られた初のアルパイン イーグルだとカール-フリッツ・ショイフレは説明する。確かに、今までありそうでなかったモデルに違いない。ケースの直径や薄さは、22年に発表された「アルパイン イーグル フライング トゥールビヨン」の構造がベースになり、ルーセントスティール™がプラチナに置き換えられた格好だ。そして、もちろんプラチナ製の証しとしてケース左側に識別マークの蜜蜂が彫られている。

さらに注目すべきは、これも初となる新形状のブレスレットだろう。カール-フリッツ・ショイフレはこう説明する。アルパイン イーグルの幅広ブレスレットは、インスピレーション源となった「サンモリッツ」のイメージを反映して創作されたのだが、プラチナ製モデルをよりエレガントに演出するために、バックルに向かってしだいに細くなるテーパー状のデザインを採用したのだと。確かに彼の言葉通り、超薄型ケースの造形美がこのブレスレットによって一段と引き立てられている。それにしても、構造が複雑で、繊細な仕上げ分けに高度な職人技が求められるアルパイン イーグル独特のブレスレットをプラチナで完璧に再現するのは、さすがに貴金属加工に長けたショパールならではである。


メッセージを込めたダイアルもアルパイン イーグルの特色だ。ブルーグラデーションは、地球温暖化の影響で危機に瀕しているアルプスの氷河の色の変化から着想したという。環境への配慮や持続可能性への取り組みはショパールの理念である。それもまた腕時計に特別な魅力と価値を生み出しているのだ。


コレクションでは初となるプラチナ950のモデル。薄型ケースと一体型ブレスレットに用いられたデザインも初。高貴なプラチナと印象的なブルーグラデーションダイアルが美しいハーモニーを成す。COSC認定クロノメーター。ジュネーブ・シール取得。自動巻き(Cal.L.U.C96.42-L)。31石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。Ptケース(直径41mm、厚さ8.00mm)。100m防水。ブティック限定。1665万4000円(税込み)。