フランク ミュラー/カサブランカ

FEATUREアイコニックピースの肖像
2021.05.01

CASABLANCA 5850 4th Generation Model
現在も第一線にある最新のマイナーチェンジ版

カサブランカ 5850
カサブランカの最新版が、2014年頃から生産されている第4世代である。切削を多用するようになった結果、ケースの磨きはさらに良くなった。装着感も改善されている。自動巻き(ETA2892A2)。21石。2万8800振動/時。SS(縦45×横32mm)。3気圧防水。105万円。

 初期フランクを思わせる第3世代に対して、よりモダンテイストを強調したのが、2014年頃にリリースされた第4世代のカサブランカである。基本的な構成は変わっていないが、第3世代以降、時計としての完成度はさらに高まった。大きな理由は、フランク ミュラー ウォッチランド グループの垂直統合が進んだためである。もともとフランク ミュラー ウォッチランドは、傘下に針やリュウズなどを製造するジェコ社、ケース製造などを行うフランク ミュラー・テクノケース社などを擁していた。後には文字盤を製造するフィル・ダーノルド・リンデール社を加えたほか、06年にはケースを製造するジェテック社と業務提携。結果、外装の質感を高めることに成功している。

 それを端的に示すのが、文字盤に施された赤の印字だろう。普通、黒い文字盤に赤色を載せるのは禁忌とされている。透過性の高い赤は、何度重ねても鮮やかな色を出しにくいためだ。しかしフランク ミュラーは色を何度も転写することで、鮮やかな色を、しかも印字に歪みを生じさせずに与えた。ケースも同様だ。1994年の時点でさえ、カサブランカのケースは見事な面と立体感を両立させていた。しかし最新の工作機械を多用するようになった第3世代以降、ケースの仕上がりはさらに改善された。確かに3針で約100万円という価格(しかもムーブメントは汎用機である)はかなりのものだが、ケースの鏡面に顔を映せば、その値付けには納得させられる。

 第3世代、第4世代でさらにクォリティを高めたカサブランカ。余力を得たフランク ミュラーが取り組んだのは、愛好家をくすぐるディテールの採用、言い換えるなら原点への回帰であったのだ。

(左上)さらに拡大されたインデックスとロゴは、フランク ミュラーの他モデルと整合性を取るためか。ただ時計全体のバランスを考えると、長短針はもう少し太くすべきだろう。(右上)湾曲した針と文字盤。写真が示す通り、6時位置の赤の発色はかなり鮮やかだ。文字盤を製造するフィル・ダーノルド・リンデール社を傘下に収めて以降、フランク ミュラーは文字盤上でさまざまな色味に挑戦するようになった。なお文字盤の下地処理も第1世代とわずかに異なる。荒れを抑えた塗装面を見る限り、少なくとも黒文字盤の表面には、薄くクリアを載せているとみるべきだろう。(中)ケースサイド。造形は第1世代とほぼ同じだが、第3世代以降のケースは、写真のようにラグと文字盤方向に向けてわずかに絞り込まれ、裏ブタの“えぐり”も大きくなった。なおトノウ・カーベックスの意匠が特許を得たのは、2005年8月25日(スイス特許131721)。特許資料に記載されたケースの図面は、明らかに第3世代以降のものだ。(左下)カサブランカの特徴である、盛り上がった蓄光塗料。塗装した文字盤を曲げて成形した後、手作業で夜光塗料を盛っていく。(右下)刻印が施された裏ブタ。少なくとも第3世代以降、刻印の変更はほとんど無くなった。もっとも、ロットによって深さなどは異なる。