モンブラン/ミネルバ クロノグラフ Part.3

FEATUREアイコニックピースの肖像
2020.07.21

星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
広田雅将(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)

今や、語りどころのあるムーブメントを見つけることは容易になった。しかし、ムーブメント単体だけで語り尽くせる時計は、どれほどあるだろうか?その数少ない例が、Cal.MB M13.21こと、旧ミネルバのCal.13-20CH系を載せたクロノグラフだ。約100年前にリリースされたこのクロノグラフムーブメントは、希有な変遷を経て、今なお、時計愛好家たちを魅了し続けている。


COLLECTION VILLERET 1858 VINTAGE PULSOGRAPH
2011年にリビルドされたワンプッシュクロノグラフ

コレクション ヴィルレ 1858 ヴィンテージ パルソグラフ
原点回帰を果たしたコレクションの第1弾。発表は2011年。名前の通り、医師の使うパルスメーターを備える。手巻き(Cal.MB M13.21)。22石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KRG(直径39mm、厚さ12.5mm)。3 気圧防水。世界限定58本。時価(参考価格4万580ユーロ)。

 ミネルバの買収が完了した2007年、リシュモン グループは同社を、ミネルバ・オート・オルロジュリ研究所( Institut Minerva de Recherche en Haute Horlogerie)に改組し、モンブランの名の下に、ミネルバ製のムーブメントを搭載した4つの新作「コレクション ヴィルレ 1858」を発表した。メインを飾ったのは、言うまでもなく、腕時計用クロノグラフのキャリバー13-21こと、MB M13.21を載せたクロノグラフである。正直、当時の筆者は、デザインを含めてミネルバの在り方に懐疑的だったが、休眠状態だったメーカーが表舞台に戻ってきたのだから良しとすべきなのだろう。年産20万本にまで成長したモンブランは、ミネルバを委ねるには最適だった。

 以降、モンブランはブランドの核をより高めるべく、このムーブメントをさまざまなモデルに搭載してきた。路線が大きく変わったのは、2011年のことである。アヴァンギャルドなデザインを与えられてきたコレクション ヴィルレ 1858は、往年のミネルバを思わせる、クラシカルなデザインに回帰したのである。とりわけ、この年発表された「ヴィンテージ パルソグラフ」は、極めて凝った仕上げはそのままに、ブラックエナメルを文字盤にあしらった、好事家向けの1本となった。加えて価格も、内容を考えれば法外ではなくなったのである。

 2013年にモンブランのCEOとなったジェローム・ランベールは、古典的な時計作りを守るミネルバの価値を知悉していた。そんな彼はミネルバを、単なるアイコンに留めるのではなく、実際手に入るコレクションとして打ち出そうと考えたのである。それが意味するのは、かつてのミネルバが目指した路線への回帰だ。新しい方向性を象徴するのが、19年の「モンブラン ヘリテイジ パルソグラフ リミテッドエディション 100」だった。

(左)2007年のリバイバル以降、コレクション ヴィルレ 1858は内側をえぐったコンケーブベゼルを採用してきた。シリンダーケースを持つ本作が、平板に見えない一因である。(右)本作の大きな特徴が、2011年当時は極めて珍しかった、ブラックエナメルの採用である。その上から、ペイントでインデックスなどを描いている。歩留まりの悪いブラックエナメルだが、本作の採用したものは面の歪みが小さく、オニキスのような仕上がりを見せる。

ケースサイド。標準的なシリンダーケースだが、厚みを感じさせないよう、巧みに立体感を加えている。なお、ミネルバの13-20CHを特徴付けるラグ側に寄ったプッシュボタンは、2007年以降、標準的な位置に戻された。

(左)トランスパレントバックからのぞくMB M13.21。かつてとの大きな違いは、地板と受けが真鍮から洋銀に変更された点。もっとも、ロジウムメッキが施されているため、経年により黄変はしない。極めて優れた仕上げは、既存のモデルに同じである。(右)金色の時分針と、赤のペイントが施されたクロノグラフ針。高級機らしく、針の側面まで完全に色が回っているのが分かる。ただ個人的な好みを言うと、クロノグラフ針はもう少し長い方が良い。


MONTBLANC HERITAGE
PULSOGRAPH LIMITED EDITION 100
ミネルバのデザインコードを受け継ぐサーモンカラー

モンブラン ヘリテイジ パルソグラフ リミテッドエディション100
1940年代から50年代風のデザインを持つクロノグラフ。見た目は地味だが、驚くべきムーブメントを搭載する。手巻き(Cal.MBM13.21)。22石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SS(直径40mm、厚さ12.6mm)。5気圧防水。世界限定100本。326万円。

 2019年、モンブランは枝分かれしすぎたプロダクトラインを「ヘリテイジ」「1858」「タイムウォーカー」「スターレガシー」の4つに統合した。そして、クラシカルなラインを担う前者ふたつの最上位ラインに、ミネルバ製ムーブメントを与えたのである。ミネルバとして切り分けるのではなく、既存のラインの延長線上に置く。「モンブラン ヘリテイジ パルソグラフ リミテッドエディション 100」は、そういった方向性から生まれた新作だった。搭載するのはMB M13.21。傑出した仕上げも従来に同じである。しかし、ケース素材にはSSが採用され、価格帯は300万円台まで引き下げられた。今のミネルバであるから量産機ではないが、相対的に手が届きやすくなったことは間違いない。そして、デザインも、1940年代から50年代のミネルバ製クロノグラフを思わせるシンプルなものに改められた。正直、この時計に傑出したムーブメントが入っているとは想像できないが、それはまさに、昔のミネルバに同じである。

 正直、昔からのミネルバを知る人にとっては、その価格は高すぎるだろう。しかし約100年前に設計されたクロノグラフムーブメントが、かなり近代的な製法になってしまったとはいえ、ほぼ同じ形と、より優れた仕上げで手に入るのである。しかもアンティークと異なり、日常の使用にも堪えうるのだ。

 かつてモンブランのCEOを務めたジェローム・ランベールは、当時、傘下にあったミネルバを「宝」と評していた。まさにその通りだろう。もしあなたが、古典的で良質なムーブメントを探しているのならば、ミネルバ入りのモンブランクロノグラフは、真剣に検討すべき価値を持っている。世に自社製クロノグラフは数多くあれど、感触、仕上げ、ヒストリー、その復活の経緯など、これほど好事家を刺激する存在は希なのだから。

(左)控えめになったリュウズ。飛び出しを抑えた結果、クラシカルな印象を与える。巻いた感じも、防水パッキンが入っているとは思えないほどクリック感がある。とはいえ、今の高級機らしく、リュウズを引いた際のガタはない。(右)1940年代のモデルよろしく、アラビア数字とドットを混在させたインデックスを備える。文字盤はプレスで下地を荒らしたユニークなもの。極上というわけではないが、十分良質である。モンブランの旧ロゴを採用することで、ヘリテイジコレクションはよりクラシカルなイメージを持つ。パルスメーターに使われるスカイブルーも古典的だ。

ケースサイド。風防がドーム状になった結果、1940年代のモデル同様、ミドルケースを絞ったデザインを再現できた。なお、2011年のパルソグラフ同様、プッシュボタンの位置はリュウズに近くなっている。

(左)見応えのあるムーブメント。基本は2011年モデルと同じだが、積算計押さえバネの形状などが変更された。(右)時分針には、インデックス同様、アンスラサイト仕上げが施されている。また、クロノグラフ針は黒いペイントである。側面まで色が回っているのはいかにも高級機だ。また、文字盤自体をボンベ仕上げにすることで、針と文字盤のクリアランスも大きく詰まった。


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