24時間時計である、ブライトリングの「ナビタイマーコスモノート」に、プラチナ製ケースを備えた新作モデルが登場した。本作は、コスモノート製作のきっかけとなったスコット・カーペンターの生誕100周年を祝すものであり、50本のみ生産される限定モデルとなっている。
スコット・カーペンター生誕100周年。ブライトリングがプラチナ製の「ナビタイマーコスモノート」を発表
ブライトリングの「ナビタイマーコスモノート」は、針が24時間で一周する24時間時計を備えたコレクションである。1962年、アメリカ最初の有人宇宙飛行計画であるマーキュリー計画のメンバーのひとりであった宇宙飛行士のスコット・カーペンターが、「ナビタイマーのデザインを宇宙探索用に改良してほしい」という要請をブライトリングにしたことで、このコレクションが実現した。
そのカーペンターは、1925年5月1日生まれ。そのため2025年は彼の生誕100周年にあたるということで、プラチナ製ケースを備えた特別な限定モデルがリリースされたのであった。

手巻き(Cal.B02)。39石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。Ptケース(直径41mm、厚さ13mm)。3気圧防水。世界限定50本。638万円(税込み)。
「ナビタイマー」を着けて宇宙飛行を達成したスコット・カーペンター
1962年5月24日、カーペンターはNASAのマーキュリー・アトラス7号ミッションで地球を3周し、宇宙飛行を達成したふたり目のアメリカ人となった。その時彼の手首に装着されていたのは、ブライトリングが宇宙専用として特別に製作した「ナビタイマー」であった。このナビタイマーは、世界にひとつだけの特別なタイムピースである。

ナビタイマーのファンでもあり、この時計の計算機能に感銘を受けていたカーペンターはブライトリングに手紙を送った。ナビタイマーを基に、宇宙空間に適した仕様変更を行った腕時計を要請するために、だ。具体的には、宇宙服の上からでも操作できる広めのベゼルを備えていること、宇宙服の上から装着することを想定された、伸縮性の金属製ブレスレットを備えていること、そして宇宙空間であっても昼夜区別が可能な24時間表示の文字盤を備えること、である。とりわけ地球の周回軌道では、90分ごとに日の出と日没が訪れるため、24時間表示は彼にとって時間感覚を保つうえで欠かせないものであったという。
この挑戦に、当時のブライトリング創業家3代目ウィリー・ブライトリングは即座に応えた。そうしてコスモノートは誕生し、彼のミッションに携行されたのだ。なお、納品はロケット打ち上げのわずか数日前であったという。
生誕100周年を祝う特別な限定モデル
マーキュリー計画から60年、そしてカーペンターの誕生から100年の今年、ブライトリングはこの歴史的な偉業とその立役者に敬意を表し、記念モデルでその功績をたたえる。
プラチナ製ケースに深みのあるブルー文字盤が組み合わされていることが本作の特徴で、このブルーは宇宙から見た地球の色を表現している。一方、コントラストの効いたシャープなホワイトの回転計算尺は、地球を覆う渦巻く雲を彷彿とさせる。文字盤と同じブルーは、18Kホワイトゴールド製フォールディングバックルが付いたアリゲーターレザーストラップにも採用され、デザインに統一感が持たされた。
文字盤の12時位置には、1952年以来、世界最大のパイロットクラブであるAOPA(AircraftOwners and Pilots Association)の公式ウォッチとしての歴史を物語る翼付きロゴが配置される。なお、文字盤にはスモールセコンド、クロノグラフの分・時間積算計に加え、6時位置に控えめな日付表示ウィンドウを有している。マッシュルーム型のプッシャーは快適な操作感を実現し、クロノグラフ秒針は鮮やかな赤で、経過時間の視認性を高めている。
本作のリリースにあたり、ブライトリングのCEOであるジョージ・カーンは「ブライトリングは時計の歴史に残る数々の瞬間に立ち会ってきましたが、スイス製腕時計を初めて宇宙に送り出したことは、私たちにとって最も誇り高い実績のひとつです。スコット・カーペンターから宇宙仕様の時計を作ってほしいと頼まれたとき、ウィリー・ブライトリングは一切ためらうことなく、それを実現させました。その革新性、リスクを恐れない姿勢、限界に挑む精神こそが、今も私たちのDNAとして受け継がれています」と語る。

この24時間表示を備えた本作は、手巻きクロノグラフのCal.B02を搭載している。このムーブメントはオリジナルへのオマージュであると同時に、自動巻きが機能しにくい環境でもしっかりと作動する。ほかのブライトリング製品同様、COSC認定で、また、約70時間という実用的なパワーリザーブを備えている。
ケースバックのサファイアクリスタル部分からこの手巻きムーブメントがのぞき、そのブリッジには「Carpenter」「Aurora 7」「3 orbits around the Earth」「Mercury 7」など、彼の功績をたたえる刻印が施される。また、メタル部分には「First Swiss wristwatch in space」「One of 50」「Scott Carpenter Centenary 1925-2025」といった記念の文字が刻印されており、特別仕様満載である。
本作は「First Swiss wristwatch in space. May 24th, 1962.」と刻まれた豪華な木製ボックスに収められて販売される。このボックスにはスコット・カーペンターのマーキュリー7号ネームバッジを再現したレプリカも同梱されるというのは、ファンにとってはうれしいポイントだ。
世界限定50本が生産されるこのモデルの販売価格は、税込み638万円である。
カーペンターのために
カーペンターが身に着けていたオリジナルのコスモノートは、着水時に損傷してしまった。大西洋上で予定していた地点から約250海里(460km)も逸れた場所に着水した後、カーペンターは救助を待ちながら救命ボートで3時間を過ごすことになり、その間に海水に浸り、文字盤は後に腐食してしまったのだ。
ウィリー・ブライトリングはカーペンターに替わりの時計を提供し、返却されたオリジナルは手つかずのままブランドのアーカイブに保管されていた。そのオリジナルの個体が初めて一般公開されたのは、2022年、カーペンターのミッション60周年を記念した展示においてである。その後、この時計はブランド創業140周年の一環としてチューリッヒで開催されたThen&Nowポップアップミュージアムでも展示された。文字盤に現れた腐食の模様は、まるで遠い惑星の地表のような趣きを帯びているのだという。
今回の限定モデルの発表と、ブライトリングの140周年記念ポップアップの最終週を祝し、現地で特別イベントを開催。当時まだ少年だったウィリー・ブライトリングの息子グレゴリーが、その誕生秘話を語る。彼の回想は、父がスコット・カーペンターの依頼にいかに迅速かつ創造的に応じたか、その背景を垣間見せるものだ。損傷しながらも、あのオリジナルは宇宙探査の黎明期を物語る強力な証しとして、また、スイス時計界の新たな方向性を象徴する存在として今も受け継がれている。
この新作のセンテナリー・エディションを通じて、ブライトリングはパイオニア精神を体現するタイムピースをよみがえらせると同時に、スコット・カーペンターを軌道へ、そして歴史の舞台へと導いた冒険心を、次世代へと伝えようとしているのだ。