松山猛のバーゼル日記【3月24日】晴れ 時計交換会

LIFE松山猛のバーゼル日記
2019.03.31

バーゼル日記3月24日 時計交換会

 バーゼルワールドへ出かける楽しみの一つが、期間中の日曜日に開かれる時計交換会と呼ばれるもう一つの小さな時計フェアだ。
 スイスや近隣の国から古時計や新古品の時計を扱う業者が出店し、各国のアンティーク、ヴィンテージ時計を扱う店の人や、アマチュアの時計コレクターなどが、掘り出し物を求めて、このチャンスを逃すまいと集まる一日である。
 昔は毎回香港の独立時計師のキュー・タイユーさんの姿がそこにあり、歴史的な価値のあるポケットウオッチを鋭い眼光で探しておられたものだった。


 

 昨年はいつもの会場であるカジノの建物に行ったものの、そこは大改修の工事中で、結局どこで開かれているのか聞いても、確かな答えを持つ人がおらず、残念なことに覗くことができなかったものだから、今年は事情通の人に聞いていた会場のラディソン・ブルーSASホテルに出かけたら、いつもの会場よりずいぶんと狭くて、とんでもなくごったがえしているのだった。

 僕の最近の興味は、腕時計よりむしろポケットウオッチにあるので、まずは顔なじみでとても程度の良いポケットウオッチを手掛けるハラルドさんのテーブルを探す。
 ハラルドさん自身は時計のレストアの専門家で、集めた時計を徹底的に仕上げなおして、こうしたフェアに備え、まるで作られたばかりのように美しい状態の時計にして並べているからすごい。
 ある年のことだった、ミニッツリピーター・クロノグラフのような複雑機構を持つ、ポケットウオッチが欲しくて会場を探していたら、ある店にはゴールド・ケースのなかなか程度の良いものがあり、ハラルドさんのところにはスターリング・シルバーのそれがあった。
 そして価格はほとんど同じだったので、当初気持ちはゴールドのものに傾いたのだが、ムーブメントの仕上げを見たら、断然ハラルドさんのもののほうが素晴らしいのだった。




 支払いをカードでしようと思ったら、カードは扱わないという。持ち合わせている現金ではとても足りないので断念しようと思ったら、「残額は日本に帰ってからアイバンというシステムで送金するといいですよ、あなたの顔は毎年見ているから信用できるから、この時計はお持ち帰りなさい」と思いがけないことを言ってくれたのだった。
 その時計はもちろん今も僕の第一級のコレクションで、時折その美しい音色を聞き、複雑なつくりのムーブメントを眺めては、時計師たちの情熱を感じ取るのだ。

 今年の交換会はとにかく狭いところに大勢が集まるのと、あまり自由に動ける時間がなかったから、落ち着いてみることがかなわなかったが、いくつかのテーブルでこれはすごいというものを撮影させてもらった。それらは我がポケットマネーの上限をはるかに超えたもので、またの機会に宝籤でも当たったら手に入れようと、眼福をいただいて会場を後にしたのだった。