チタン、それは軽く腐食に強いという優れた特性を持ちながらも、加工の難しさと独特の質感という問題のために、実用時計やスポーツウォッチなど、機能性を重視する腕時計に多く用いられてきた。だが、近年に至っては合金や加工技術の進化により、高級時計の世界での採用は一般的になりつつある。各ブランドはチタンという素材が持つ特性をどのように活かしているのか。チタンの新たな可能性を提示した傑作を、時計有識者が選出した。

チタンが切り拓く新たな高級領域
10位 シチズン/ザ・シチズン AQ4100
14point / 3persons

光発電エコ・ドライブ。Tiケース。41万8000円(税込み)。(問)シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807
チタンをベースに独自の表面硬化技術であるデュラテクトプラチナを施した独自素材スーパーチタニウムをブレスレットに採用。ステンレススティールに比べ5倍以上の表面硬度を実現し、傷付きやすいというチタンの弱点を完全に克服している。世界で初めてチタンを腕時計の素材に使ったシチズンの面目躍如な1本。(安藤)
9位 ロンジン/ロンジン スピリット チタンモデル全般
15point / 2persons

自動巻き。Tiケース。64万2400円(税込み)。(問)ロンジン Tel.03-6254-7350
「ロンジン スピリット Zulu Time」はスタンダードなGMTウォッチにグレード5チタンを用い、ブレスレット仕様でも軽量で快適な着け心地。加工や仕上げ分けも秀逸だ。(菅原)
8位 シチズン/ザ・シチズン AQ6020
27point / 2persons

光発電エコ・ドライブ。Tiケース。88万円(税込み)。(問)シチズンお客様時計相談室 Tel.0120-78-4807
年差±1秒の高精度ムーブメントをチタン製の極めてシンプル&ベーシックなケースに収めた点に好感が持てる。近未来フォルムも好きだが、こういうシンプルなスタイルでチタン製ケースというマッチングも絶妙だ。(名畑)
7位 クレドール/ロコモティブ全般
28point / 2persons

自動巻き。ブライトチタンケース。187万円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室(クレドール) Tel.0120-302-617
ジェラルド・ジェンタデザインの名機「ロコモティブ」を現代に甦らせるにあたり、クレドールが選択したのが、セイコーが得意とするブライトチタン。これまで国産ブランドではチタンの実用性にばかり目が向いていたが、本作ではラグジュアリー素材としての存在感がしっかりある。(安藤)
6位 オーデマ ピゲ/ロイヤル オーク チタンモデル全般
30point / 2persons

自動巻き。Ti×BMGケース。要価格問い合わせ。(問)オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000
言わずと知れた大傑作。薄くて装着感に優れるジャンボを、チタン外装に改めたのだから腕なじみはいっそう良好だ。「ロイヤル オーク」ならではの硬質な仕上げをそっくり残したのもお見事。問題は、入手が極めて難しいことのみ。(広田)
5位 ロレックス/オイスター パーペチュアル ヨットマスター 42
30point / 3persons

自動巻き。Tiケース。223万9600円(税込み)。
ステンレススティールのイメージが圧倒的に強いロレックスだが、過去にもロレックス ディープシーの一部などでチタンを採用してきた。独自のセラクロム製ブラックベゼルとの相性も抜群。(安藤)
ついにロレックスがチタンを採用。独自のRLXチタンを使うところはさすが。(篠田)
4位 ショパール/アルパイン イーグル ケイデンス 8HF全般
32point / 2persons

自動巻き。Tiケース。391万6000円(税込み)。(問)ショパール ジャパン プレス Tel.03-5524-8922
ケースやベゼルのみならず、8Hzの超高振動ムーブメントのパーツにもセラマイズドチタンを採用し、チタンの新たな可能性を探求。(菅原)
3位 グランドセイコー/エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A. SLGB003
34point / 2persons

スプリングドライブ自動巻き。ブライトチタンケース。151万8000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー)Tel.0120-302-617
ゼンマイ駆動式腕時計としては世界最高の年差±20秒という脅威の高精度を実現した本作。ケースをブライトチタン製にすることで、その革新性を見た目と、体感(軽快さ)で十分に表現することに成功した。ダイアルカラーをケースと同色系にまとめ、グランドセイコーが得意とする型打ち模様を際立たせたルックスも高評価。(安藤)
2位 ローマン・ゴティエ/C byロ ーマン・ゴティエ チタンエディション全般
38point / 2persons

自動巻き。Tiケース。792万円(税込み)。(問)スイスプライムブランズ Tel.03-6226-4650
磨けるグレード5だとしても、これほどまでに光り輝く鏡面と繊細かつ明瞭なサテン仕上げを実現したチタンケースやブレスレットを、他には知らない。しかもベゼル側面に6カ所のくぼみを設けた複雑な形状であるにもかかわらず、である。難加工材の手仕上げに果敢に挑み、高級化した好例。(髙木)
意外な伏兵が、「C by ローマン・ゴティエ」だ。かつてケース作りのノウハウを持たなかった同社は、シャネルとの資本提携により外装の質をさらに高めた。正直、チタン製とは思えないほど外装の出来はいい。(広田)
1位 ブルガリ/オクト フィニッシモ チタンモデル全般
42point / 3persons

自動巻き。Tiケース。248万6000円(税込み)。(問)ブルガリ・ジャパン Tel.0120-030-142
チタンが本来持つ独特の色合いを、これほどまで見事にラグジュアリーウォッチに昇華した例は過去にないと言ってもいいほど、その登場時には強烈なインパクトを与えた本作。ケースのみならず、ダイアルまでにもサンドブラスト加工を施したチタン製とし、独特なグレートーンにまとめた点が成功の鍵。超薄型を軽さでも表現している。時代を変えた名作。(安藤)
時計とブレスレット部分のバランスに優れる「オクト フィニッシモ」は、基本的にはどの素材を合わせてもいい。しかし筆者の好みは、重いゴールドと軽いチタンだ。あえて外装にサテン仕上げを選んだのも◎。工業デザインを好むボナマッサの手腕が生きる傑作である。(広田)
選考委員による選定モデルの詳細
菅原 茂(71歳) 時計ジャーナリスト
「進化系チタンに期待」
チタンの利点を活かした時計は以前から数多く存在するが、最近は従来を超えるハイテク複合素材が登場。そんな進化系チタンの技術革新にも注目している。
- ショパール/アルパイン イーグル 41 SL ケイデンス 8HF
- パネライ/サブマーシブル クアランタクアトロ ルナ・ロッサ Ti-Ceramitech™
- IWC/パイロット・ウォッチ・マークXX Mercedes-AMG PETRONAS Formula One™ Team
- チューダー/ペラゴス FXD GMT
- タグ・ホイヤー/タグ・ホイヤー モナコ クロノグラフ ガルフエディション
- ローラン・フェリエ/スポーツ・オート ブルー
- ウブロ/クラシック・フュージョン エッセンシャル グレー
- ブランパン/フィフティ ファゾムス オートマティック
- ロンジン/ロンジン スピリット Zulu Time チタニウム
- シチズン/ザ・シチズン 30周年記念モデル 全般
篠田哲生(50歳) ウォッチディレクター
「機能性を超えて、付加価値となる」
軽くて頑強、サビに強い機能素材チタン。その機能性を超え、プレステージ性を高める加工や仕上げ、デザインを取り入れたチタンモデルが増えている。ポイントは、加工が難しいチタンでありながら美しい仕上げや複雑な造形を実現していること。もちろん、大きなケースを軽やかに使うためにチタン素材を使用するというのも歓迎だ。
- ウブロ/クラシック・フュージョン クロノグラフ オーリンスキー フルチタニウム
- ロジェ・デュブイ/エクスカリバー モノバランシエ チタンエディション
- G-SHOCK/Ref.MRG-B5000D
- ユリス・ナルダン/フリーク X
- リシャール・ミル/RM 43-01
- ロレックス/オイスター パーペチュアル ヨットマスター 42
- グランドセイコー/エレガンスコレクション Ref.SBGW259
- シチズン/アテッサ ACT Line「Blue Universe Collection」エコ・ドライブ電波時計
- オメガ/シーマスター プラネットオーシャン 6000M
- チューダー/ペラゴス 39
安藤夏樹(50歳) 時計ジャーナリスト
「実用性重視から美的価値へ」
シチズン「X8」やセイコー「06LC」など、国産を中心にチタンは未来的素材として使われた。その後、金属アレルギーが出にくい、軽いなど、実用性ばかりに注目が集まったが、近年は海外を中心に「ラグジュアリー素材」として“再発見”されている。今後は、美観的特性や、弱点とされる“軟らかさ”を逆に活かした製品が鍵になるだろう。
- ブルガリ/オクト フィニッシモ
- クレドール/ロコモティブ Ref.GCCR997
- IWC/インヂュニア
- グランドセイコー/エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A. Ref.SLGB003
- ショパール/アルパイン イーグル ケイデンス 8HF
- ゼニス/クロノマスター スポーツ チタン
- オメガ/シーマスター ダイバー300M 007エディション
- ロレックス/オイスター パーペチュアル ヨットマスター 42
- シチズン/ザ・シチズン Ref.AQ4100-57B
- チューダー/ペラゴス ウルトラ
髙木教雄(62歳) ライター
「チタンならではの付加価値」
チタン製なら本来定番のダイバーズを外したのは、「新たな可能性を感じさせる」という条件のため。異素材との組み合わせ、チタン特有の色味を生かした仕上げ処理、軽さと弾性の高さによる音響効果、セイコー、シチズン独自の硬化処理やチタンが母材となるサーメット系など、チタンの表現や生かし方の巧みさを主眼に選んだ。
- グランドセイコー/エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A. Ref.SLGB003
- ローマン・ゴティエ/C by ローマン・ゴティエ チタンエディション全般
- ブルガリ/オクト フィニッシモ
- カルティエ/サントス ドゥ カルティエ
- オーデマ ピゲ/ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー ウルトラ シン
- H.モーザー/エンデバー・コンセプト ミニッツリピーター トゥールビヨン
- シチズン/ザ・シチズン Ref.AQ4100-22L
- パルミジャーニ・フルリエ/トンダ PF スポーツ クロノグラフ
- IWC/セラタニウム製モデル全般
- カシオ/Ref.MRG-B2100D
名畑政治(66歳) 時計ライター
「無骨なグレーのチタンが好きだ」
チタンと聞くと近未来的な稀少素材のイメージだが、実は地球ではありふれた金属だ。それがレアな理由は精錬と加工が難しいから。とはいえ今では多方面に利用が広がり、高級時計素材として伸びしろは十分だ。個人的には無骨なグレーのチタンが好きだが、これが意外に少ない。例によって、すべて同列、順位なし。
- オメガ/シーマスター アクアテラ 150m
- シチズン/ザ・シチズン Ref.AQ6021-51E
- ポルシェデザイン/クロノグラフ1‒1975 リミテッドエディション
- セイコー/セイコー プロスペックス Ref.SBBN051
- ブライトリング/クロノマット B01 42
- ロンジン/ロンジン スピリット フライバック
- ベル&ロス/BR-X5 ブラックチタニウム
広田雅将(51歳)『クロノス日本版』編集長兼アートソルジャー
「良いんじゃないですか、チタン素材」
軽くて耐食性に優れ、しかもアレルギーを起こしにくいチタンは、最も可能性がある外装向け素材だろう。一時期、ねじ込みに向かないなどの理由で消えたが、リバイバルを遂げたのは喜ばしい限り。「時計軽いは七難隠す」だ。
- ローマン・ゴティエ/C by ローマン・ゴティエ
- オーデマ ピゲ/ロイヤル オーク “ジャンボ”エクストラ シン
- シチズン/ザ・シチズン Ref.AQ6020-53X
- ロレックス/オイスター パーペチュアル ヨットマスター 42
- パネライ/サブマーシブル チタニオ
- クレドール/ロコモティブ
- F.P.ジュルヌ/エレガント
- ブルガリ/オクト フィニッシモ
- ヴァシュロン・コンスタンタン/オーヴァーシーズ トゥールビヨン・スケルトン
- ジン/103.TI.AR
ランキングの集計ルール
●選考委員は、各号のテーマに沿った腕時計を10本選び、順位をつける。
●選考委員ひとりあたりの所持ポイントを110点とし、これを1位20点、2位18点…… 10位2点として選考モデルに振り分ける。
●選考された時計が順位無しの場合は、所持ポイントを10等分して、各モデルに11点を与える(選考本数が10本に満たない場合でも、1モデルあたり11点とする)。
●獲得点数が同点となった場合は、選考者数の多いモデル、その中で選考順位の高いモデルの順で優位とする。
●最低有効得票数を2票とする。



