ローマン・ゴティエ、チタンがかなえる新たな高級時計像

FEATURE本誌記事
2023.10.04

今やマイクロメゾンの旗手となったローマン・ゴティエが提案する新時代の高級スポーティーウォッチ「C by ローマン・ゴティエ」。軽量かつ高硬度のアレルギーフリー素材でありながら長らく高級時計には用いられてこなかったチタンを外装とムーブメントに採用。スイスの伝統的技法で仕上げた本作には、ローマン・ゴティエのパイオニア精神が隅々まで息づいている。

C by ローマン・ゴティエ チタン エディション

C by ローマン・ゴティエ チタン エディション ブレスレット Ref.MON00580
2021年発表の「C by ローマン・ゴティエ」をブランド初のメタルブレスレット一体型時計へと生まれ変わらせたモデル。特徴である独創的なオフセット文字盤や、多層的な装飾のチタン製ムーブメントを引き継ぎながら、ケース造形を一新した。総重量85g。手巻き。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。Ti( 直径41mm、厚さ9.55mm)。50m防水。781万円(税込み)。
岡村昌宏:写真 Photographs by Masahiro Okamura
渡邉直人:文 Text by Naoto Watanabe
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年11月号掲載記事]


軽さこそ正義

 高級時計の世界では後発となるマイクロメゾンの作品ながら、今や多くの時計愛好家から目標のひとつとして掲げられる存在となったローマン・ゴティエの「C by ローマン・ゴティエ」。複雑な面構成を歪みなく整えた異質感漂う外装や、細部まで手作業で仕上げられた繊細な装飾のムーブメントは、本作を他のスポーティーウォッチと競合することのない、新たな高級時計のカテゴリーへと押し上げた。

C by ローマン・ゴティエ チタン エディション

極めて均一なヘアラインが与えられたブレスレット。一般的なラグジュアリースポーツウォッチは、ブレスレットからケースまでをシームレスに連結することに重きが置かれているが、本作はブレスレットからベゼルまでが非常に複雑な3次元曲面でつながっている。これによりベゼルの突出感が抑えられ、ベゼル自体もR面と6つのファセットにより角が落とされているため、袖への引っ掛かりが生じにくい。

 そんな同コレクションに2022年から加わったのが「C by ローマン・ゴティエ チタン エディション ブレスレット」だ。その名が示す通り、最大の特徴はブランド初となるブレスレットの採用である。本作の外装に用いられるグレード5チタンは、ステンレススティールの約60%の比重でありながら高い硬度と耐食性を持ち、金属アレルギーも誘発しにくいため、肌に密着するブレスレット時計にとっては理想的な素材だが、その加工の難しさゆえ、ともすれば造形が甘くなってしまう。

 しかし、ローマン・ゴティエは、幾何学的なベゼルからケース、ブレスレットのコマひとつに至るまで非常に整った造形を実現。歪みないポリッシュによる面取りや、均一な長さ・深さのヘアラインなど、細部の仕上げも見事であり、チタンによる困難さを一切感じさせない。比較的加工が容易な18Kゴールド製の時計と比べても、C by ローマン・ゴティエが持つチタン製の外装が見劣りする点は皆無だ。

C by ローマン・ゴティエ チタン エディション

18KWG製の針は、水平面・C面・垂直面による立体的な造形を持っており、それぞれの袴には戻り角(コワン・レントラン)が与えられている。

 加えて本作は、装着感の追求にも余念がない。ブレスレット時計で総重量85gという驚異の軽さを実現しながらも、その重量のみに依存せず、ブレスレット各コマの可動域、左右の遊び、ねじり特性に至るまで、繊細な調整が施されている。結果、ブレスレット時計の初作としては出来過ぎとも言える最上級のフィット感が得られている。

 フィット感の高さは、ケースデザインの変化にも起因している。従来のC by ローマン・ゴティエはラバーストラップ仕様のため、一般的な時計に近い形状のラグが与えられていた。しかし本作では、より統合された造形による快適な装着感を実現すべく、ケースそのものが新設計され、ラグ長が数%短縮されたかたちでブレスレット一体型構造にリファインされている。これにより可動エリアが拡大するため、細腕な日本人にとっては喜ばしい設計変更だ。

C by ローマン・ゴティエ チタン エディション

裏面からは、通常より遥かに厚みを持たせたフリースプラングテンプや、衝撃を抑えながらストップセコンドを実現するスネイルカムなど、独自性の強い部品が多く見られる。

 ブレスレット一体型構造になったことで、外観上はよりスポーティーな印象へと変化しているものの、文字盤に目を向けた瞬間、そのような感覚は払拭される。とりわけ18KWGの塊から厚く立体的に削り出された短針は、それ自体が目を見張る造形だが、注目すべきはそのセッティングだ。先端のみ、スモールセコンドやインデックス上をかろうじて通過できるだけの空間を確保し、その他のクリアランスが限界まで詰められている。見返しの狭さと相まって、本作の傑出した高級感を演出している。ドレスウォッチでもこれ程までクリアランスの狭められた例は少ない。またナチュラルチタン製で、カラーコーティングなどを一切せずに、チタン本来の色味をそのまま生かした文字盤にはサンドブラスト加工が施される。

C by ローマン・ゴティエ チタン エディション

軽量化実現の要因となったチタン製の地板。歯車やラチェットホイール、スネイルカムのポリッシュ部を際立たせる狙いか、組み上げ後に露出するエリアには手作業によるフロスト加工が施されている。

 ムーブメントも、ローマン・ゴティエらしさが光るポイントだ。スネイルカムや大型マスロット、円形スポークの歯車など、独自性の強いパーツたちを覆う階段状の二重面取りを持った受けは、グレード5チタンを手作業で仕上げたもの。本体重量を1gでも軽くし、装着感をより一層向上させる狙いがあるにせよ、受けにチタンを採用すること自体が稀有だ。さらに、単純な軽量化だけでは満足せず、天面はヘアライン、内側は手彫りによる不規則な窪み、外側は梨地と、多彩な装飾を施し、妥協を許さない。この姿勢こそ、本作を数ある高級ブレスレット時計の中でも特別な存在たらしめる所以だ。


Contact info: スイスプライムブランズ Tel.03-6226-4650


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