20周年を迎えたローマン・ゴティエ マイクロメゾンの旗手は時計界に何をもたらしたのか?

2025.06.10

今年20周年の節目を迎えたローマン・ゴティエは近年続々登場したマイクロメゾンの中で、最も成功したブランドのひとつと言えるだろう。しかしなぜハイエンドなコレクターたちはローマン・ゴティエの作る時計に惹かれるのか? そして、このブランドの登場で時計界は何が変わったのか? 早くからその卓越したウォッチメイキングに着目していたライターの名畑政治氏と髙木教雄氏のコメントを交えながら20年の軌跡を振り返りたい。

インサイト・マイクロローター Ref.MON00320

星武志:写真
Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
吉田巌:文・編集
Edited & Text by Iwao Yoshida
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]


ローマン・ゴティエの20年の軌跡を振り返る

C by ローマン・ゴティエ チタンエディション ブレスレット オープンワーク Ref.MON00584

 ローマン・ゴティエの独創的な時計作りは、創業者のローマン・ゴティエが、時計師ではなく、精密機械工だったことが大きい。これはブランドデビュー当時から同社を見てきた名畑政治、髙木教雄の両氏ともに認めるところだ。ジュウ渓谷で育ったゴティエは技術専門学校で精密工学を学んだのち、精密機械の設計者としての資格を取得。その後、地元の時計部品メーカーで優秀な工作機械プログラマー兼オペレーターとして働く中、いつか自ら時計を作り、ブランドを興すという夢を抱くようになる。ユニークなのは、それを実現するステップとしてまずMBAを取得したことだ。その後はかのフィリップ・デュフォーに弟子入りしてジュウ渓谷の伝統的な時計作りをみっちりと学び、2005年に自身の名を冠した会社を設立。06年には自らの設計によるムーブメントを完成させた。

 そして07年のバーゼルワールドで初作「プレステージ HM」を、10年には「HMS」を発表。ケースバック側のリュウズやセミオープンダイアルなど、トリッキーな外観や設計が話題となったが、時計に精通する者が真に唸ったのが、ムーブメントの各パーツの造形と仕上げだった。名畑氏は語る。「とくに素晴らしいのが歯車です。円状のスポークを連ねて花弁のようなデザインに仕上げた歯車を見たとき、美しさに息をのみました。しかもガンギ車までこのデザインとし、内角にはブリッジと同様に見事な手仕上げが施されていた。歯車にここまで力を入れたブランドは存在しません。かつて欧州の自転車メーカーはギアホイールの造形に注力していましたが、それに近いものを感じてとても好ましく思いました」。

インサイト・マイクロローター Ref.MON00320

深く切れ込んだブリッジの戻り角(コワン・レントラン)の面取りに顕著なように、「インサイト・マイクロローター」は、ローマン・ゴティエが誇る手作業によるムーブメントの仕上げを存分に堪能できる。ポリッシュ、サンバースト、ヘアライン、サーキュラーグレインと、多様な仕上げを部位ごとに使い分けて実に表情豊か。

インサイト・マイクロローター Ref.MON00320

インサイト・マイクロローター Ref.MON00320
小型ながら業界一の厚さを誇る22Kゴールド製ローターを、表と裏のブリッジで支えたアイコンモデル。ローターは巻き上げ時の音が静かな両方向巻き上げ式で、直列配置のふたつの香箱によって高い精度とロングパワーリザーブを実現する。自社製のグラン フー エナメル文字盤と磨き込まれたブリッジのコントラストも見事。自動巻き。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KRGケース(直径39.5mm、厚さ12.9mm)。50m防水。世界限定10本。1661万円(税込み)。

 髙木氏も、以後シグネチャーとなった歯車のデザインについて、優れた加工技術を持つローマン・ゴティエならではの造形と絶賛する。「ゴティエは時計界に初めて登場した加工プログラミングの天才なんです。高度なプログラミングでCNCマシニングセンターを操作し、室温と切削油の温度を徹底的に管理して加工時の熱膨張を制御することで、±2ミクロンという圧倒的な加工精度を実現しました。だから今なお極めて優れたサプライヤーとしてパーツの製造依頼が途切れず、自社製品では円形スポークの歯車をはじめ、複雑な形状を持つ微細なパーツを多用できる。この高い精度であれば後加工も最小限で済むため、伝統的な手作業による面取り仕上げも、より審美性が高まる。もちろん外装においても、こうしたアドバンテージは生きています」。

 ゴティエの専門分野である精密工学と、ジュウ渓谷の伝統的な時計作りを融合したウォッチメイキングは、大ブランドに飽き足らないコレクターの心を早くから捉えていた。そして古典的なフュゼチェーン機構を再解釈した「ロジカル・ワン」は13年のジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリのメンズコンプリケーション部門でグランプリを獲得し、名声を確たるものとする。その後も17年に初の自動巻き「インサイト・マイクロローター」、21年にはブランドのエントリーコレクション的位置付けの「C by ローマン・ゴティエ」などを発表し、ますますファンの裾野を広げていく。

C by ローマン・ゴティエ チタンエディション ブレスレット オープンワーク Ref.MON00584

フィンガーブリッジと呼ばれる階段状のブリッジは、ケースと同様チタン製。エッジは二重に面取りし、フラット面とルビー回りは一段高く縁取りしてヘアライン仕上げに。縁の内側には手彫りで模様を付けている。厚いフリースプラングテンプや、衝撃を抑えながらストップセコンドを実現するスネイルカムなども見どころ。

C by ローマン・ゴティエ チタンエディション ブレスレット オープンワーク Ref.MON00584

C by ローマン・ゴティエ チタンエディション ブレスレット オープンワーク Ref.MON00584
「C by ローマン・ゴティエ」のブレスレット仕様に新たに加わったブラックサファイア製ダイアル。特徴的なオフセンターデザインを崩さぬように巧みなオープンワークを施し、脱進機と4番車回りを露出。ブランドのシンボルである円形スポークの歯車や丹念な面取りを常に鑑賞できるように仕立てた。ブルーとホワイトのアクセントカラーも効いている。手巻き。24石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。Tiケース(直径41mm、厚さ9.55mm)。50m防水。990万円(税込み)。

「ローマン・ゴティエの時計には、時計師とは異なる、技師ならではの審美性や機能性に対する熱意が一貫している。結果、個々のパーツの造形や仕上げが、時計の本質的な価値を高めることを多くの人に気付かせ、マイクロメゾンに目を向けるきっかけを作ったと感じています」(名畑氏)。また、髙木氏も同社が与えた影響をこう評する。「注目すべきは、代表作であるロジカル・ワンを含め、創作してきたのはすべてタイムオンリーウォッチであることです。複雑機構を提示せずとも、個性的な設計・構造、仕上げの美しさがあれば成功できるということを証明してみせた。この功績は大きいと思います」。

 優れたエンジニアならではのアプローチで美しい時計を生み、マイクロメゾンのブームを巻き起こしたローマン・ゴティエ。より稀少性の高い、真に価値ある時計を求める好事家がいる限り、進撃はまだまだ止まらないはずだ。


「ローマン・ゴティエ Tokyo エキシビション 2025」開催

創業20周年記念イベントが開催される。代表作の展示はもちろん、手作業による仕上げや装飾についても詳細に紹介。ゴティエ氏も来日し、来場客と直接交流を持つ予定だ。

会期:2025年8月29日(金)~31日(日)
会場:日本橋ホール(東京都中央区日本橋2-5-1 日本橋髙島屋三井ビルディング9階)
詳しくはhttps://romaingauthier.jp/exhibition25/まで。



Contact info: スイスプライムブランズ Tel.03-6226-4650


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