【76点】ユンハンス/マイスター テレメーター

FEATUREスペックテスト
2015.12.03
方の対象地までの距離を計測するテレメーターの付いた最初の時計は、19世紀後期に商品として出回りだしている。当時、テレメーターは、実用的なものとして使われていた。戦場において音速を利用すると、敵がどのくらい離れた場所にいるか距離が計測できたのだ。銃砲から閃光が見えたらクロノグラフを作動させ、砲音が聞こえた時に停止させる。するとクロノグラフ針が示したテレメーターの目盛りで距離が分かる。

 一方、平均速度の測定のためのタキメーターの目盛りが文字盤に最初に現れたのは1900年頃。ちょうど、近代的な自動車が初めて街中を走り出した時期だ。ある地点でクロノグラフを作動させ、1キロメートル、あるいは1マイルを通過するときにクロノグラフを停止させると、タキメーターの目盛りで時速が分かる仕組みだ。
 テレメーターとタキメーターは、コンビになっていることも多い。それぞれ異なる機能だが、どちらもクロノグラフを利用するため、クロノグラフモデルでさえあれば、ムーブメントに追加機構は必要とせずに加えることができるあたり、巧みな演出といえよう。
 
1951年当時の空気をまとって
 ユンハンスは1951年に、手巻きの自社開発キャリバーJ88を搭載したクロノグラフを発表している。そのモデルにインスパイアされたのが、このマイスター テレメーターだ。当時の最新ヒットモデルに倣ったこのデザインが、ノスタルジーをかきたてる。テレメーターの目盛りは赤く、タキメーターと分の刻み目は黒い。地色をツヤ消しの銀色に仕上げられたドーム型文字盤は、光の加減によって、やや黄色味を帯びた面と暗色の部分にメリハリが出るよう、テレメーターの目盛りは縁に寄せられている。さらに、配色のアクセントになっているのが、アラビックインデックスと長短針の黄土色の夜光塗料だ。これは暗がりで見ると、黄緑色に発光する。長短針とクロノグラフ針は、文字盤の丸みに合わせて、先端がカーブしている。クロノグラフ針のセッティングにはやや甘さを感じなくもないが、長短針とは対照的な、落ち着きのあるメタリックな輝きが映えて美しい。

 

イエローゴールドのPVD加工を施したモデル。テストで使用したモデルと同様にクラシカルな意匠に変わりはないが、イエローゴールドカラーのケースと赤色のテレメータースケールの組み合わせによって、よりレトロな佇まいを見せている。

  直径40.8㎜のステンレススティール製ケースに内蔵されるのは、かつてのように自社ムーブメントではないが、デュボア・デプラのクロノグラフモジュールを載せたETAのキャリバー2892の中でもトップクォリティのものを採用。歩度測定器に掛けると、平均日差はプラス2秒、最大姿勢差はプラス8秒と、極めて優秀な数値が出た。また、着用テストでも、平均して3秒の進みが見られたのも頼もしい。

使い勝手も上々
 シンプルではあるが、整いの良いケースは、裏側に傾斜がついている。総重量61gという軽さと相まって、この形状が腕に心地よい。プッシュボタンやリュウズは、ケース側面から十分な高さを持っているので使いやすい作りだ。ただ、プッシュボタンはサイズが小さめなのが、少々ネックと言えなくもない。しかし、形としてはスマートなケースによく合っていて、あえてこうした意思が感じられる出来だ。
 風防には1951年当時と同じように、ドーム型のプレキシガラスを使用しているが、傷に強いシクラランという表面加工を施している。この加工は自動車産業で利用されているもので、ユンハンスでは数年前から導入。時計界での利用はユンハンスが最初だ。傷に強いが、サファイアクリスタルよりはコストが抑えられるのも利点だ。
 これらのように、随所に工夫を凝らしたこのモデルの価格は35万1000円。魅惑的なヒストリカルデザインに、使い勝手の良さ、そして、シクラランのような技術的革新に対する視点の鋭さも加わったマイスター テレメーターは、手にするとレトロと革新の共存する愉しさを存分に味わえるだろう。