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ジン/U2.S(1/1) 2015年11月号(No.61)

Sinn U2.S

とにかく堅牢で傷に強いことで知られるジンのU2.S。
しかし、非日常のシーンでは、果たして本当にタフさは発揮できるのか?
クロノス史上、類を見ない過酷な洞窟探索テストの結果はいかに。

イェンス・コッホ: 文 Text by Jens Koch
ニック・シェルツェル: 写真 Photographs by Nik Schölzel
市川章子: 翻訳 Translation by Akiko Ichikawa

point
・傷に強い
・極めて頑丈
・価格が抑えめ

point
・ストラップの見栄えがシンプル過ぎる

 

 

暗闇に包まれた岩壁と水の異世界

窟というものは、技術の進歩を結集させても、危険な場所だ。探索に伴うリスクは今なお極めて高い。2014年、ドイツとオーストリアの国境に近いアルプス地方にあるベルヒテスガーデンの巨大な立坑内で研究者が負傷した際も、大掛かりな救助活動が大いに報道された。この時は救出までに11日間を要し、出動したレスキュー隊員は200人以上にも及んでいる。 我々編集部はそれを理解した上で、洞窟内でのスペックテストをあえて計画した。現場に向かう前は、その道のプロのアドバイスに従い、安全のための数多くの装備品を準備。防水ランプ付きヘルメット、耐裂性に優れた素材を使用した、シュラーツと呼ばれるオーバーオール、グローブ、それに頑丈な靴も用意した。テスト地に選んだ南ドイツ・シュヴァーベンの山岳地方にあるファルケンシュタインの洞窟内は、水の流れがあるところなので、寒さに耐え得る装備も加えた。ダイビングスーツとネオプレン製の足ひれも欠かせない。熟練の技を要するのは、サイフォンと呼ばれる場所を通過するときだ。サイフォンとは、水没した2つの洞穴が水中でつながっている状態を指す。そのため、水中ゴーグルや、重い酸素ボンベも必要だ。テストのためとあれば、手間暇を惜しむわけにはいかないのだ。 ところで、なぜテストウォッチをジンに決めたかと思う読者もいるに違いない。それは何より第一に、あらゆる腕時計の中で、より頑丈、かつ、傷に強いケースを持っているので、洞窟探査にはうってつけと踏んだからだ。狭い箇所を通らざるを得ない場合以外でも、あたり一面のごつごつした岩に接触することは頻繁にあるだろう。U2・Sのケースは、潜水艦に使われるUボートスティールに硬化処理を行い(ジンではテギメント加工と呼称)、さらに表面にはブラックハードコーティングを施してある。これらにより、ほぼサファイアクリスタルに近い硬さになっているのだ。数値で表すと、ケースに通常使われるステンレススティール316Lが、ヴィッカース硬さで220、硬化処理なしの潜水艦用Uボートスティールは最低でもヴィッカース硬さ300、硬化処理を加えたものは1500、さらに被膜を加えたものは2000だ。これはケース表面のみの硬度のため、被膜は次第に磨耗していくのだが、それでも傷に強いセラミックケースに近いレベルを持っている。しかし、十分な硬さがある上に、なぜさらにそれよりは硬度が低いハードコーティングを施す必要があるのかと、感じる読者もいるだろう。それにはもっともな理由がある。逆に比較的軟らかな素材の上に、それより硬い素材を合わせると、エッグシェル効果を誘発する危険性があるのだ。この場合、ひとたび衝撃を受けると、表面は氷のごとく崩壊し、その下の内部にもそれに追随して破壊が生じてしまう。つまり、下地であるスティールを加工して硬くしておくことは、表面の被膜を維持して長持ちさせる前提になっているわけだ。U2・Sのケース表面は、特製の無反射コーティングになっていて、ヴィッカース硬さは1800と、傷に対してまさにサファイアクリスタル級を誇る。このように、このモデルは、我々の地球内部への小旅行にふさわしい、優れた装備品であると言えるのだ。

いざ未知の世界へ

 ファルケンシュタインの洞窟の入口前には、見目よい風景が広がっている。太陽はきらめいて、川はせせらぎ、明るい森から岩壁に至る小道にはそよ風が吹いていた。そんな中で我々はダイビングスーツの上に洞窟用の赤いシュラーツを着込み、ヘルメットを着用。そして酸素ボンベを背負い込む。U2・Sにはダイビングスーツの上からも着用できるよう、バックルが延長可能な仕様になっているため、厚さ5㎜のネオプレン生地製シュラーツの上でもしっかり留められた。
 この腕時計は水と湿気に対して耐久性が極めて高い。ケースは200気圧防水だ。防水パッキンには緑色のバイトンⓇという素材を使用している。この素材は、腕時計に通常使われている黒いニトリル素材のパッキンより持ちがよく、充塡ガスが通常の4分の1で済み、湿気の内部への侵入を防ぐ効果が高い。多くの薬品への耐久性にも優れている。それに加えて力を発揮するのが、ジンのArドライテクノロジーだ。ケース内部はプロテクトガスで満たされ、湿気が侵入しづらくなっている。それでもすり抜けた湿気に対処するのが、硫酸銅を封入したドライカプセルだ。腕時計にこれほどの装備がされている甲斐はあった。なぜなら今回のテストは気候の穏やかな春に実施したのだが、シュヴァーベンの山岳地方の暖かい空気に晒された後に洞窟に入り、水温9℃の環境の中で過ごしても、風防内側に曇りは見られなかった。
 今回のテストを実施するに当たり、洞窟に入って6時間経過しても我々から外部へ連絡がない場合は、救助を要請するよう依頼しておく手配も怠らなかった。というのも洞窟内には電波が届かず、携帯電話や無線機は使えないからだ。つまり、外の世界とは完全に隔絶した状態になる。例えば、もし岩壁から岩石が落下して道を塞ごうものなら、帰路は閉ざされてしまい、探索のタイムスケジュールをあらかじめ知らせておいた外部からの救助を待つほかはなくなってしまう。
 ファルケンシュタイン洞窟の入口あたりから大きなエルザッハ川が流れていて、内部への探索はそれを辿って行くかたちになる。ここで特殊な組み込みで容易に外れないU2・Sのベゼルを分針の指している位置に合わせ、洞窟内の滞在時間が分かるようにセットする。セッティングはスムーズに行えた。また、日付修正もクイックコレクトで簡単、セカンドタイムゾーンの設定も、針が1時間ずつ動いて回るため容易にできる。メインの長短針も、ストップセコンド仕様のため、素早い時刻合わせが可能だ。

内蔵されているのはETA2893-2。ねじ込み式の裏蓋が酷使から守り、なに食わぬ顔で刻音を響かせる。

岩に囲まれた暗闇

 準備は整い、いざ暗闇の中へ。最初の狭い箇所はすぐに迫り、すでに腕まで水に浸かった状態で進む。ヘルメットが天井にゴツゴツ当たらないよう、頭を傾けつつ歩いて行く。カーブを数回曲がると、外界の明るさは完全に途絶えてしまった。所々、胸の高さまで水が迫るような場所を照らすべく、首を振ってヘルメットのランプの光を動かす。なにしろ大きな岩の塊がいくつか突き出ていて、つまずいたり滑ったりしかねない。水の中でも数多くの撮影のために立ち止まらなくてはならず、水はネオプレンの生地を通して冷たくしみ込み、不快な寒さを呈する。撮影機材である重たい三脚や照明道具、かさばる水中カメラは、カメラマンの代わりに我々が担がされていた。そんな状況ながら、探索中のムードは良く、全員気分は上々、一歩一歩進んで行くことに集中する。それでも時々、足を滑らせたり、狭い箇所で引っ掛かったりしていた。
 U2・Sは、しょっちゅう岩に接触して、時にはかなり強めに当たったりもした。洞窟内でも視認性は極めて良い。ヘルメットのランプのおかげで、文字盤に目をやるとすぐに時間が分かり、大きな夜光ポイントまでは必要としなかった。黒地に白と赤で構成されたこのモデルは、洞窟探索用の赤いシュラーツにも完璧なまでに合う。ちなみにツールウォッチとして活躍するこの腕時計には、ブラックハードコーティングを施していない、ステンレススティールそのものの色合いのバージョンも用意されている。

 探索開始から3時間経過すると、ふたつの水窟が水路で連結したサイフォンに辿り着いた。ここは天井から水面までの縦の空間が50㎝ほどしかない。そしてふたつの窪みをつないでいる箇所は、完全に水没している。詳しく説明すると、ここは今まで通ってきた経路と水の流れが異なり、片側の窪みからもう片側へ水が噴出している状態なのだ。ここはもう、ダイビングスタイルで通るほかはない。
 なにはともあれ命綱をくくり付け、ザイルの片側は引き寄せることができるようにして、安全を確保する。水中マスクも着け、酸素ボンベを用意し、ノズルを口にくわえた。通り道となる箇所は狭いため、酸素ボンベは背負えず、脇に引き寄せて抱えざるをえない。ネオプレン製のスーツの着用により浮力がかなり増しているので、体は狭い空間の水面に浮かび上がり、細い連結水路の天井に押し付けられて、ヘルメットはガツンガツンと打ち付けられてしまう。その音を耳にするのは、あたかも断末魔のもがきに接しているようで、心地の悪いことこの上なかった。
ひとりが水路に潜ると、続いてもうひとりという具合に、次々とサイフォンに挑む。連結箇所はわずか数mに過ぎないのだが、未知の水中で体を動かして行くのは、とてつもなく自制心を要した。例えば、うっかり無自覚でサイフォンの深みに向かって分け入ろうものなら、万一の際の救助は非常に厳しくなってしまう。ともかくスタッフ全員が無事に最初のサイフォンを通過して、ガイドのウドと成功の握手を交わすことができた。

出口に至るまでの奮闘

 そろそろ洞窟内の大きな空間に至るには、そう遠くないはずだ。しかし腕時計を見ると、油断大敵と知らせてくる。写真撮影に多くの時間を割いていたため、地上を離れてすでに4時間近くが経過していたのだ。さらに奥へ進むとなると、この先にはサイフォンが22箇所も控えているのは分かっているが、それより先のことは未踏の地のため不明なのだ。故に探索はこれまでにして、再び外界の光を求めに戻ることにする。とりあえずはまたサイフォンを通過しなくてはならない。しかし、二度目は行きの時より難渋することはなかった。
戻る時は撮影に立ち止まることをせず、その結果、体を動かし続けていたために冷えずに済んだ。幸いなことに、U2・Sを伴った我々は、このモデルの対応温度の目一杯の範囲にさらされずにテストを遂行できた。ジンはこの腕時計を、摂氏マイナス45度からプラス80度の温度の間で稼働可能と保証している。これは特殊合成オイルの使用と相まって、仕上がりの許容誤差を詰めていることがものをいっているのだ。
 それにしても洞窟内では、岩壁を眼前に臨むと立ち尽くすことしきりだった。外界をひとたび離れて約5時間半後に、ありがたくも再び日の光を浴びて、ようやく肩の荷を下ろすことができたのだ。ちなみに探索を共にしたU2・Sは、厚い生地のオーバーオールの上からも違和感なく腕上に収まったが、普段の服装の時も、ケース径44㎜の大きさにもかかわらず快適に過ごせた。
狭い洞窟の中を引きずって歩いた三脚も、集合写真の記念撮影にもうひと仕事してもらう。そして万一の時の救助の依頼をお願いしていた人物に、無事に帰還した旨の連絡を取る。例のサイフォンからさらに奥の広い空間まで入らず、引き返したのは上出来だったと言えよう。着替えた後、村の宿屋に行き、共に食事を取り、今回の体験を反芻しつつ、1日の締めくくりを迎えた。

探索を終えて

 翌日となり、いよいよ腕時計の状態が白日にさらされる時が来た。この過酷そのもののテストに、いかにして耐え抜いたのだろうか。肉眼で見たところ、ケースには傷が見当たらない。これには驚かされた。探索中はどこかしらにぶつかってヒヤリとすることは何度もあったが、腕時計のことを全くもって気にかけずにいたのだ。
さらにすごいのはバックルだ。厚みのあるセーフティーロック付きのフォールディングバックルは、繰り返し岩にほぼ押し付けられたにもかかわらず、エッジはしゃっきりと保たれていて、表面もきめ細やかなままだ。しかし、ごく細かな小傷は見受けられる。傷はそう深くはないのだが、表面被膜の下の地金が認められた。どうやらブラックハードコーティングはごく薄めのようだ。とはいえ、目視で判別のつく傷は驚くに足らない。岩肌はかなりの強敵には違いないし、ハードコートも傷に強いのは事実だが、無論万能ではないのだ。それが分かってはいたつもりでも惜しいと感じてしまったのは、若干期待が大きすぎたのかもしれない。
 被膜がもっと厚く、テギメント加工がさらに強力なものならさらに望ましくはあるが、いずれにせよ、ハードコートを施していないバージョンよりどの程度傷が少なく済むかは、難しいところだろう。しかし、少なくともテストモデルのケースの堅牢さは、なんら低評価には至らない。交換用パーツとしてのバックルの価格は3万円と、なかなかの金額だが、傷が気になるようならあっさり替えてみるのもいいだろう。まあ、日常生活において、岩壁で奮闘することは、そうそうないはずだ。
こう見ていくと、U2・Sは良品と言える。もっとも、通常使いのうちに、ある現象が現れてきたのには注目せざるを得なかった。シリコン製のストラップが埃を呼び、やがてくすんだ感じになってしまったのだ。しかしこれは、水洗いできれいになった。
 ところで洞窟内と同じく、オフィスでもまさに重要なのは、やはり精度だ。テストウォッチを歩度測定機に掛けたところ、平均日差はプラス5・7秒。姿勢差はそれほど大き過ぎず、最大7秒だった。ETAのキャリバー2893‐2としては、まずまずの数値だろう。
ねじ込み式の裏蓋を開けると、端正なグリュシデュール製テンワが見える。ロジウムメッキされたブリッジや、ローターのほか、コート・ド・ジュネーブやペルラージュ、青いネジも目に映える。ETA2892にセカンドタイムゾーンを付加したバージョンは、10年ほど前から製造されているが、スタンダードムーブメントのため、フリースプラングなどの特別装備はこれといってない作りだ。

奥の手は潜水具。狭いサイフォンを呼吸装置を頼りに潜るのは、結構な自制心を要する。

信頼性の高いパートナー

 さて、価格についてだが、これに関してはスタンダードであるとは言えない。今回のテストに使用したハードコートあり、シリコンストラップ仕様のU2・Sの値段は49万5000円。ジンのエントリーモデル群は、この半額あたりに設定されている。もっとも、このモデルを実際に見ると、いかにさまざまなテクノロジーが盛り込まれているかが分かるだろう。200気圧の防水性、特殊接合の回転ベゼル、潜水艦用のUボートスティール、テギメント加工やハードコート処理、プロテクトガスの充塡による防水保持、ドライカプセルの装備、ならびに可動温度の幅の広さ。これら全てはいたずらに派手なマーケティングのためのガジェットではなく、ユーザーが好感を持てる、安全性をより向上させるためのものだ。それに他のブランドが、このムーブメントでこれほどテクノロジーを満載にしないとしても、これだけのクォリティに仕上げるとすれば、価格は明らかにもっと上がるだろう。
 洞窟探索において、U2・Sは頼もしいパートナーで、神経質に気遣わずに自分のことに没頭できた。そもそも、この過酷な遠足に際して、その痕跡なく終わろうはずはないとは思ってはいた。しかし、その傷あとの少なさたるや、想像を下回るものだったのだ。
 過激な趣味もしくは仕事に頼もしい相棒を求め、安全の確保を確実にしたいと願うなら、U2・Sは、まさに正しい選択だろう。

技術仕様

Sinn/U2.S

製造者: ジン特殊時計株式会社
Ref.: Ref. 1020.020
機能: 時、分、秒(センターセコンド)、日付表示、セカンドタイムゾーン
ムーブメント: ETA 2893-2、自動巻き、2万8800振動/時、21石、ストップセコンド仕様、クイックコレクトデイト、耐震軸受け(インカブロック使用)、グリュシデュール製テンワ、調整用偏心ネジ付き緩急針、パワーリザーブ約42時間、直径25.6mm、厚さ4.1mm
ケース: 潜水艦用テギメント硬化加工Uボートスティール製ハードコーティング処理ケース、特殊結合方式逆回転防止ベゼル、ドーム型サファイアクリスタル風防(両面無反射加工)、プロテクトガス封入、硫酸銅使用ドライカプセル2個装備、特殊オイル(耐寒耐熱温度:-45℃~+80℃)、潜水艦用Uボートスティール製スクリューバック、200気圧防水
ストラップとバックル: シリコンストラップ、テギメント硬化加工Uボートスティール製ハードコーティング処理フォールディングバックル(セーフティーロック付き、エクステンション仕様)
サイズ: 直径44.0mm、厚さ15.5mm、総重量192g
バリエーション: ハードコーティング無加工タイプ44万円
価格: 49万5000円

*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。

精度安定試験 (T24の日差 秒/日、振り角)

文字盤上 +9  
文字盤下 +5  
3時上 +2  
3時下 +7  
3時左 +6  
3時右 +5  
最大姿勢差: 7  
平均日差: +5.7  
平均振り角:    
水平姿勢 301°  
垂直姿勢 260°  


評価

ストラップとバックル(最大10pt.) 8pt.
操作性(5pt.) 5pt.
ケース(10pt.) 9pt.
デザイン(15pt.) 13pt.
視認性(5pt.) 5pt.
装着性(10pt.) 9pt.
ムーブメント(20pt.) 12pt.
精度安定性(10pt.) 7pt.
コストパフォーマンス(15pt.) 13pt.
合計 81pt.

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