アクティブなシーンを想定した「クラブスポーツ」。このコレクションにワールドタイム機能を搭載したモデルが登場した。ムーブメントは自社開発されたCal.DUW 3202だ。注目すべきはその機構だけではない。機能面にも配慮された、ノモス グラスヒュッテならではの高度なデザインセンスにも要注目だ。

Text by Rüdiger Bucher
ノモス グラスヒュッテ:写真
Photographs by Nomos Glashütte
Edited by Yousuke Ohashi
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]
洗練と実用を兼ね備えた、新時代のワールドタイマー
「クラブ」は、ノモス グラスヒュッテの中で若年層を意識して展開されるシリーズだ。そのスポーティー仕様として派生した「クラブスポーツ」に、2025年、新たにワールドタイム機能を備えた「クラブスポーツ ネオマティック ワールドタイマー」が加わった。同ブランドにとってワールドタイム表示を搭載したモデルは初めてではない。11年に、「チューリッヒ ワールドタイマー」が登場しており、現在も販売は継続されている。
本作のために、ノモス グラスヒュッテは新たなムーブメントを開発。自動巻きで約42時間のパワーリザーブを備えた、自社製のキャリバーDUW 3202だ。何より、この腕時計はチューリッヒ ワールドタイマーとはデザインの方向性が異なる。チューリッヒ ワールドタイマーがホワイト、もしくはネイビーを基調としたクリーンなデザインなのに対し、本作は色彩の魅力に満ちたモデルだ。各175本限定で発売された、色彩の組み合わせが特徴的な6種のスペシャルモデルは特に当てはまる。それよりは抑え気味ではあるが、シルバー、もしくはブルーを基調とした通常モデルも同様だ。

今回のテストでは、シルバー文字盤のバージョンを選んだ。まず目を引くのが、2色のリングで囲まれたサブダイアルだ。この部分は24時間表示であり、今が午前10時なのか、午後10時なのかすぐに判断できる。なお、後述するワールドタイム機構とは独立しており、海外へ旅行に行った際には、ホームタイムとしての役割を果たす。
次に、ワールドタイム機構に注目しよう。2時位置に配されたプッシャーを操作すると、時針が1時間ずつ時計回りに移動する。それと同時に、都市名などが印されたミディアムブルーの外周リングが、反時計回りに回転する。レッドでマークされた12時位置に、それらの名前が来ると、その当地の現地時間が分かる、という仕組みだ。この外周リングには、ロンドンを基準とする24の標準タイムゾーン上に位置する都市名などが1時間刻みで配置されており、それらは国際航空運送協会(IATA)が定めた3文字のIATAコードで印されている。例えば、「NYC」「LON」「BER」という具合だ。また、大都市だけでなく、PDL(ポンタ・デルガダ/ポルトガル・アゾレス諸島 GMTマイナス1時間)、FEN(フェルナンド・デ・ノローニャ/ブラジル GMTマイナス2時間)、PPG(パゴパゴ/アメリカ領サモア GMTマイナス11時間)といった都市や地名も採用されている。
なお、ミニッツトラック上には、12時位置の基準時間から、どれだけ離れているかを示す数字が印されている。

完成度の高い文字盤デザイン
ノモス グラスヒュッテは文字盤上に配された多くの要素を、高度なデザインセンスでまとめ上げた。例えば、3時位置の24時間表示と6時位置のスモールセコンドは、意匠が異なるので、ひと目で別の目的のためのものだと分かるはずだ。
また、アラビア数字インデックスの2と4は、24時間表示のリングの一部と重なっているために、視認性を下げてしまうのではないか、と懸念する向きもあるかもしれない。だがその心配は無用だ。インデックスに採用されたホワイトカラーのスーパールミノバは分厚く、フラットなサブダイアルのリングよりも目立つ。そのため、視線が自然とインデックスに引き寄せられるように設計されている。

2、4、8、10、12という偶数だけの、サンセリフ体を用いたアラビア数字インデックスは、他の多数のモデルにも見受けられる、ノモス グラスヒュッテのアイデンティティーと呼ぶべき要素だ。これをサブダイアルと重ね合わせたときに、他のブランドならば視認性を優先するために、インデックスの一部を欠けさせる、という選択をしただろう。だが、ノモス グラスヒュッテは、スーパールミノバを厚くするという、工夫を凝らした解決方法でアイデンティティーを守り通したのだ。
文字盤上のレイアウトバランスに対しても、ノモス グラスヒュッテのデザインセンスの高さがうかがえる。3時位置の24時間表示と6時位置のスモールセコンドが近いため、そのままでは片寄った印象を与えてしまう。だが、違和感は覚えない。その立役者は都市名が緻密に印された外周リングだ。このリングが文字盤全体を引き締めることで、視覚的な安定性を実現している。
このように、文字盤の完成度は全体的に際立っている。繊細なサンバースト仕上げとポリッシュされた時分針とのコントラスト、文字盤中央と外周リングとの間の段差が強調する立体感、印刷の精度や配色センスなど、完成度を高める要素は枚挙にいとまがない。
ケースとブレスレットの仕上がり
ケースはポリッシュ仕上げが全体に施されたラウンド形状。これはクラブコレクションの特徴である。直径40mm、厚さ9.9mmと薄型のため、特にこのモデルにはよく似合う。ポリッシュのみのケースは、一見シンプルかもしれない。だが、その仕上がりは上質であり、表情豊かな文字盤と好対照をなしている。
これまで見てきたような、デザインセンスの良さこそがこのモデルの最大の魅力だ。他方、機能面に目を向けると、ワールドタイム機構は24の標準タイムゾーンを表示するが、実際の使い勝手という点では、2タイムゾーンを示すGMT機構に対して明確な優位性があるとは言い切れない。
実際の世界には、夏時間と冬時間の切り替えや、30分刻みのタイムゾーンなど、40以上の多様な時間帯が存在しており、それらすべてを網羅するのは機構上困難だ。
例えば、インドのようにUTCプラス5時間半を採用している国は、ワールドタイマーの1時間刻みの都市表示ではカバーできない。また、表示されている都市のいくつかは、現在では旅行先やビジネス上の主要都市としての優先度が下がっているケースもある。ロシアのモスクワはそのひとつだが、逆にこの時計ブランドが採用していない都市の中に、カタールのドーハやサウジアラビアのリヤドのような、近年存在感を増している都市もある。
また、この腕時計のワールドタイム機構は、夏時間の変動を自動的に反映しないため、都市によっては、表示と実際の時刻にずれが生じてしまう。例えば現在のヨーロッパでは、夏時間を採用する都市とそうでない都市の間で、実際の時差が、表示よりも小さくなるケースがある。これは仕様上避けられない点であり、精確な現地時間を知りたい場合には、むしろGMT機構のようにユーザー自身が時針やGMT針を調整できる機構のほうが、柔軟性に富んでいるとも言える。
ただし、アメリカ合衆国のニューヨーク、イギリスのロンドン、アラブ首長国連邦のドバイ、日本の東京といった渡航頻度の高い都市を選ぶ際には、2時位置のボタンを数回押すだけで時針を現地時間に合わせられる。秒単位の再調整が不要である点は、実用上きわめて便利だ。
時刻合わせは簡単か?

表示都市の選定やタイムゾーンの対応範囲といった設計上の制約はあるものの、ワールドタイム機構そのものの技術的完成度はきわめて高い。操作が実に簡単なのだ。時針と都市などの名前が印された外周リングの動きは常にプッシャーと同期し、「ある一定の押し込み力を超えると、カチッと次の位置に進む」という、オール・オア・ナッシング方式を採用。このために、途中の位置で止まることがない。これならプッシャーを押し続けるだけで、希望の地域の現地時刻を知ることができる。
ワールドタイムを正しく機能させるための初期設定の手順は、次の通りだ。まず2時位置のプッシャーを押して、12時位置に在住する時間帯をセットする。次にリュウズを使ってサブダイアルのホームタイムと、分針を正しい時刻に合わせる。最後に、8時位置のコレクターで時針を調整。この操作のために、専用のピンが付属する。こうしてホームタイムとローカルタイムが同期できれば、その後は旅行の際に2時位置のプッシャーを押すだけで済む。
上質な装飾が施された自社製ムーブメント
このモデルに搭載されるのは、ノモスグラスヒュッテの自社製自動巻きキャリバーDUW 3202だ。同ブランドの独自の脱進機機構、ノモススイング システムを備え、両持ちブリッジによりテンプの安定した振動を確保する。特筆すべきはその立体的な構造だ。4分の3プレートの一部を半円状に開け、そのスペースにテンプを収めることで、テンプブリッジとぴたりと面一になるよう設計されている。これにより、ムーブメント側の段差構造は、文字盤側の外周リングが作る奥行きと対を成しているのだ。

装飾面では、地板にペルラージュ、4分の3プレートにストライプ模様、そしてネジに青焼き仕上げが施されている。スケルトン仕様のローターはベアリング支持で、そこにはストライプ模様、地球儀のモチーフ、さらに立体的にゴールドカラーで彩られたNOMOS GLASHÜTTE DEUTSCHE UHRENWERKEの刻印が輝く。ただし、パワーリザーブは約42時間と短めだ。
ウィッチ製歩度測定器での精度テストでは、6姿勢で最大6秒の誤差に収まり、平均的には、わずかにマイナス側で安定していた。実使用での精度もこれを裏付けた。
調整が容易なブレスレット

3連のステンレススティール製ブレスレットは、クラブスポーツでよく用いられるタイプのもので、ノモス グラスヒュッテがラインナップする、3種類あるメタルブレスレットのうちのひとつだ。
全面的にポリッシュされたケースとバックルに対して、ブレスレットはその仕上げが使い分けられている。中央のコマはポリッシュ仕上げであり、その左右の外側のコマは、サテン仕上げだ。他のブランドでも見受けられる古典的なスタイルで、見た目、そして装着感も良好である。しかしながら、コマの間に毛が挟まってしまうところはやや残念だ。
洗練された旅のパートナー

クラブスポーツ ネオマティック ワールドタイマーは、ポリッシュ仕上げのケースと立体的な文字盤、そして精密な自社製ムーブメントが調和した完成度の高い腕時計である。これほど洗練されたデザインと高品質な作りに加え、実用的なワールドタイム機構を備えながら、価格は77万2200円に抑えられている。競争力のある設定であり、若年層はもちろん、旅を愛するすべての人にとって魅力的な選択肢となるだろう。

ノモス グラスヒュッテ「クラブスポーツ ネオマティック ワールドタイマー」のスペック

プラスポイント、マイナスポイント
+point
・優れたデザイン
・美的完成度の高い文字盤表現
・装飾が施された自社製ムーブメント
・信頼性の高い機構
・納得の価格設定
-point
・サマータイムの表示なし
・ほんのわずかに遅れ気味の精度
技術仕様
| 製造: | ノモス グラスヒュッテ |
| リファレンスナンバー: | NM791 |
| 機能: | 時、分、スモールセコンド(秒針停止機能付き)、ワールドタイム機能(プッシャー操作式) |
| ムーブメント: | Cal.DUW 3202(自社製ムーブメント)、自動巻き、37石、2万1600振動/時、パワーリザーブ約42時間、地球儀モチーフがあしらわれたスケルトン仕様のセンターローター |
| ケース: | ステンレススティール製ケース、両面無反射コーティングを施したドーム型サファイアクリスタル製風防、ねじ込み式リュウズ、サファイアクリスタルを採用したトランスパレント仕様の裏蓋、10気圧防水 |
| 文字盤: | シルバーカラーの文字盤、ロジウムコーティングの時分針と秒針、スーパールミノバで塗布されたインデックス、ブルーとレッドカラーで彩られた24時間表示 |
| ブレスレット&バックル: | 3連ブレスレット(ステンレススティール製)、フォールディングバックル(プッシュボタン付き) |
| サイズ: | 直径40mm、厚さ9.9mm、重量142g(実測値) |
| 価格: | 77万2200円(税込み) |
*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。
精度安定試験
| 最大姿勢差: | 6秒 |
| 平均日差: | -1秒/日 |
| 着用時平均日差: | -2秒/日 |
評価
| ブレスレット&バックル(最大10pt.) | 8pt. | 3連ブレスレットは、端部分に丸みを持たせ、ポリッシュとサテン仕上げを組み合わせたクラシックなデザイン。機能性と調整のしやすさも兼ね備えている。バックルには、しっかりと固定できる独自設計のプレート型カバーが備わる。 |
| 操作性(5pt.) | 4pt. | プッシャーとバックルの操作は問題なし。ただし、ねじ込み式リュウズを引き出すには想定よりも力が必要。ホームタイムとローカルタイムの初期設定時には専用のピンを用いてコレクターを操作しなくてはいけない。 |
| ケース(10pt.) | 8pt | 精密に組まれた3ピースケースはすき間が少なく、全面ポリッシュ仕上げで、ホコリや汚れが付着しにくい。 |
| デザイン(15pt.) | 15pt. | 完成度の高いデザインで、すべてのディテールが調和した外観を実現している。 |
| 文字盤と針(10pt.) | 10pt. | 光を反射するサンバースト仕上げと、精緻なプリント。非対称デザインも巧みにまとめられている。 |
| 視認性(5pt.) | 5pt. | 昼夜を問わず視認性が高く、良好な文字盤レイアウトだ。24時間表示の小さな数字が読みづらい人でも、2色で分割されたリングのために午前と午後は一目瞭然だ。 |
| 装着性(5pt.) | 4pt. | 専用の器具を使えばコマの着脱が容易で、バックルの調整機構と相まって、多くの手首に対して適切な装着感をもたらす。 |
| ムーブメント(20pt.) | 15pt. | ワールドタイム機構付きの信頼性の高い自社製ムーブメント。造形美に優れ、仕上げも丁寧だ。だが、パワーリザーブは長くはない。 |
| 精度安定性(10pt.) | 8pt. | 姿勢差による大きなズレは見られず、安定した精度を誇る。わずかな遅れがタイムグラファー上や着用時にも確認された。 |
| コストパフォーマンス(10pt.) | 9pt. | 自社製ムーブメントと実用的な付加機能を備えたデザイン性の高い時計として、この価格は妥当だ。人気ブランドであることから、再販価値も高いと見られる。 |
| 合計 | 86pt. |



