【86点】ウブロ/スクエア・バン ウニコ オールブラック

FEATUREスペックテスト
2022.09.23

スクエア・バン ウニコ オールブラック

四角形に収められた円。ビッグ・バンのデザインコードを崩すことなく、スクエア型のケースに適応させている。

 1980年代、ジャン-クロード・ビバーが歴史の流れの中でほぼ忘れ去られていたブランパンを、再び魅力的なブランドへと成長させようと決意した際、いくつかの原則を打ち立てた。「時計のフォルムは常にラウンド型とすること」がその一例である。ビバーがブランパンを去ってすでに久しいが、今日に至るまでブランパンの責任者は往年のルールを堅持している。

 ウブロのCEO、リカルド・グアダルーペは古くからのビバーの同志である。ブランパンではビバーを支え、その後ウブロにも同行した。約10年間CEOとしてウブロを牽引してきたグアダルーペは「好みはシェイプドケースの時計」と明かす。「いつかスクエア型の時計を作るのが夢だった。ブランパンにいた時は、残念ながらそれができなかった」。

 だが、ウブロではそれが実現可能であることを数年前に証明している。2014年、グアダルーペはトノー型の「スピリット オブ ビッグ・バン」を発表した。円形ではないケースは特別モデルでは存在していたものの、スピリット オブ ビッグ・バンはウブロのコレクションで初めてシェイプドケースを採用した非限定モデルだったのである。グアダルーペは次のように語る。

「スピリット オブ ビッグ・バンの成功がスクエア・バンを作り上げる推進力となった。スピリット オブ ビッグ・バンは現在、ウブロの総売上の約15%を占めている。数年後には、スクエア・バンと合わせて年間売上高の25〜30%を占めるようになるかもしれない」

 このように、多様性を象徴するブランドであるウブロが、フォルムの面で新境地を開拓していることは想像にたやすい。2004年にCEOに就任したジャン-クロード・ビバーが掲げたウブロのライトモチーフは「The Art of Fusion(異なる素材やアイデアの融合)」。さまざまな素材をひとつの時計で組み合わせることを意味するこの独自のコンセプトは、現在でも受け継がれている。

スクエア・バン ウニコ オールブラック

手首をスポーティーに演出するスクエア・バン ウニコ オールブラック。縦42×横42mmのケースを持つが、手首には心地よくフィットする。ブラックセラミックス製で軽いため、ヘッドが振られず快適である。

 ゴールドケースとラバーストラップの組み合わせをはじめ、ステンレススティール、チタン、カーボンファイバーなど、よく知られた素材から、セラミックスを25%配合し、耐傷性に優れた「マジックゴールド」のようなブランド独自の素材まで、その多様性は想像を超えており、コンクリートやデニム、オスミウムといった素材まで時計に採用されている。ビッグ・バンのケースは70点以上のパーツで構成されていることから、多様性を表現するにはまさに望み通りと言えるだろう。

 しかし、既存の概念を打ち砕くウブロのデザインは、単に素材や色のみで実現されるのではない。ビバーとグアダルーペがウブロを改革したわずか数年後には、11個の香箱を備え、約50日間のパワーリザーブを実現した、壮観な「MP-05ラ・フェラーリ」をはじめ、アバンギャルドなケースをまとった複雑時計が登場したのがその好例だ。

さらなるステップ

スクエア・バン ウニコ オールブラック

独自のワンクリックシステムにより、ラグ中央のボタンを押すことで、ストラップは簡単に取り外すことができる。

 スクエア・バン ウニコは、ビッグ・バンで顕著なウブロの表情豊かなデザインを新しいフォルムへと昇華させる、さらなるステップである。ラウンドケースが約9割を占める高級時計市場において、スクエア型のケースを持つモデルはあまり多くない。スクエア型の中でも正方形となると特に稀少で、カルティエの「サントス」やタグ・ホイヤーの「モナコ」のようなモデルは例外的な存在である。スクエア・バンは当初からハイエンドモデルのユーザーをターゲットにしている。他者と同じものを好まず、自分の個性を差別化したいと考える人々が多い現代において、正しい戦略である。

 スピリット オブ ビッグ・バンと同様、スクエア・バンもラウンド型のビッグ・バンの派生モデルであることは明確だ。これはモデル名にだけではなく、デザインにも表れている。スクエアのケースは、ラウンド型のビッグ・バンよりもさらに多い81点のパーツで構成され、アッパープレート、ミドルプレート、ローワープレートから成るサンドイッチ構造に、ベゼルと両サイドの〝耳〞が取り付けられている。ビッグ・バンやスピリット オブ ビッグ・バンと同じように、ケースの構成部品はムーブメントを取り囲むように組み立てられている。

 ひと目でウブロとわかる最大の特徴は、なんといってもH型のビスだろう。ベゼルの上辺と下辺にそれぞれ1個、サイドに各2個、計6個装備され、ラグにもふたつずつ配されている。ラグのビスの間にある台形のプッシュボタンを指先で押すと、ストラップをワンクリックでケースから取り外し、別のストラップと交換することが可能である。このように、スクエア・バンではビッグ・バンのデザイン要素がすべて受け継がれている。

スクエア・バン ウニコ オールブラック

ベゼルを取り付ける前のスクエア・バン ウニコ オールブラック。

細部まで考え抜かれたディテール

 リュウズはビッグ・バンを、長方形のプッシャーはスピリット オブ ビッグ・バンを踏襲している。ここでもウブロのディテールへの配慮を見ることができる。プッシャーのラバーインサートは小さな正方形で3分割されており、ラバーストラップのチェッカーボード柄同様、ケースのフォルムをさりげなく暗示している。

 ウブロの他の時計ではライン入りのストラクチャードラバーストラップが多いが、このスクエア・バンではチョコレートスクエア柄になっている。

徹底したオールブラック

スクエア・バン ウニコ オールブラック

クラスプの上部パーツには、ロゴ入りのセラミックインサートが採用されている。

 多様性の象徴であるウブロがスクエア・バンで5種類のモデルを発表したことも不思議ではない。キングゴールドとチタニウムのモデルに加え、セラミックス製ベゼルを装備したキングゴールド セラミック、チタニウム セラミック、そして、ケースもブラックセラミックス製のオールブラックである。今回のテストではオールブラック(現在は完売)を選んだ。

 ウブロといえば派手でカラフルなイメージがあるが、何もかもが黒い時計をリリースしたブランドはウブロが初で、2006年に発表された初代のオールブラックモデルは時計産業に大きな波紋を呼んだ。ケースやストラップ、文字盤だけでなく、インデックスや針まで黒で統一したのである。視認性の悪さを訴える批評家たちに対してビバーは、価格が1万ユーロを超える時計において、時刻の読みやすさはもはや問題ではないと反論した。

 ウブロはオールブラックというテーマをあらゆる方向に拡大し、オリジナルモデルではスティールカラーまたはチタンカラーだったベゼルのビス、リュウズ、プッシャーも、2009年にブラックに変更した。2014年に登場した「ビッグ・バン ウニコ オールブラック」では少し明るさを取り戻し、オープンワーク加工された文字盤からは、ムーブメントを構成するパーツの上で回転するシルバーグレーの針が見える。

スクエア・バン ウニコ オールブラック

ポリッシュ仕上げの側面は、サテン仕上げ面とのコントラストが豊かだ。

 今回テストを行うスクエア・バン ウニコ オールブラックも同様である。外装はセラミックス製のケースをはじめ、ビス、リュウズ、プッシャー、ストラップ、クラスプに至るまで完全にブラックで統一されている。ケースの大きな面はサテン仕上げで、ポリッシュ仕上げの側面と美しいコントラストを成しており、同じようにブラックのケブラー複合材で出来た〝耳〞やミドルケースとも明確に区別されている。このデザインは、ケースが備える豊かなファセットを強調し、本作に上質な印象を与えるのに貢献している。サファイアクリスタルからベゼルへと指を滑らせた時に合わせ目を感じないなどの良好なフィット感が、その高い品質を裏付けている。

 ストラップは、15個ある穴のうち2個がクラスプのピンに留まるようになっており、手首に合わせて長さを簡単に調節することができる。ラバーストラップには伸縮性があるので、クラスプのピンは簡単に押し込むことができる。また、ピンの先端は広がっているため穴から不用意に外れることもなく、時計は常に安全に固定される。クラスプは両側のプッシュボタンを押すことで簡単に開くことができる。

ラウンド型の自社製ムーブメント

スクエア・バン ウニコ オールブラック

ブラックセラミックス製ケースのトランスパレントバックから自社製ムーブメント、キャリバーHUB1280を一望できる。

 時計づくりの伝統において、角型ケースの時計にはケースと同じフォルムの自社製ムーブメントが搭載されるのが習わしである。スクエア・バンに搭載されているのは、まぎれもなく自社開発、製造されたムーブメントなのだが、ラウンド型である。これは「ビッグ・バン インテグレーテッド グレーセラミック」などに搭載されているキャリバーHUB1280で、 よりフラットになった別称「ウニコ2」である。このムーブメントについてはクロノス日本版22年1月号で詳しくレビューした。

 ムーブメントは審美性に優れ、大部分が外から見えるにもかかわらず、ラウンド型であることはあまり気にならない。ムーブメントは正方形に並んだミニッツトラックに囲まれ、わずかに4カ所だけムーブメント外周のカーブが見えるだけなので、文字盤側から見ても違和感はほどんどない。10個のアプライドアワーマーカー、9時位置のスモールセコンド、そして、3時位置のミニッツカウンターは、ムーブメントとの一体感を醸し出す。文字盤上ではたくさんの演目が奏でられているが、ラウンド型の内部機構とスクエア型のケースの間に不協和音が生じることはない。

ムーブメントの奥深くへ

 クロノグラフムーブメントの動きはサファイアクリスタル製風防を通じて観察することができる。スタート時とストップ時には6時位置のコラムホイールが1ピラーずつ進み、7時と8時位置にある水平クラッチの中間車がセンターに向かって動いてクロノグラフセンター秒針が始動し、再び離れると停止する様子を見ることができる。クロノグラフ機構が文字盤側にあるため、オープンワーク加工されたダイアル上で、プッシャーが押された瞬間にムーブメントのどの部分がどのように噛み合うかを見ることができるのだ。クロノグラフのメカニズムを文字盤側でここまで理解させてくれるムーブメントは滅多にないだろう。

 精度はどうだろうか。『クロノス日本版』2022年1月号でも検証済みだが、ウィッチ社製歩度測定器での測定では安定した精度を実証してくれた。24時間後の平均日差はプラス7・3秒/日とやや高めながらも、着用時の平均日差はプラス5秒/日と、良好な結果だった。

 果たして、「円の四角化」は成功したのだろうか? スクエア・バンはビッグ・バン、ひいてはウブロというブランドのDNAを受け継ぐと同時に、コレクションにおいて正当なポストを占める独自性を備えているのだろうか?

 答えは「イエス」である。スクエア・バンのウブロらしさは、ラウンド型のビッグ・バンをスクエア型のケースにうまく順応させたことだけで形成されているのではない。大型で表情豊かな時計だが、調和のとれた数多くのディテールをはじめ、すべてにおいて高い品質で加工を施すことにより、無骨さがことごとく排除されているのだ。

 最新の技術を駆使したスポーティーな時計にとって305万8000円という価格設定は適正と言える。何よりも、万人の好みに合わせて作られた時計ではないため、手首が発信するステートメントの特権を常に楽しむことができるのだ。