【77点】パネライ/サブマーシブル クアランタ クアトロ eスティール™️

FEATUREスペックテスト
2022.11.24

サブマーシブル クアランタ クアトロ eスティール™️

2021年発表の「ルミノール マリーナ eスティール™」に続き、パネライ独自のサステナブル素材、eスティール™を使用したふたつ目のコレクションとなった。

「サステナビリティ」は近年よく耳にするコンセプトである。今日ではメーカーもユーザーも、こぞってサステナビリティの実現に取り組むようになった。腕時計は非常に小さな製品である。そのため、海洋プラスティックで作られたストラップやリサイクル金属で出来たケースは、環境に優しい燃料の利用や、建設業におけるプラスティックのリサイクルよりも、地球規模での貢献度は低いかもしれない。だが、見逃せない側面もある。

 それは、腕時計はエモーショナルな製品であり、世界でよく知られた有名ブランドが製造し、ここに巨大なファンコミュニティーが形成されているという点である。時計メーカーが環境保護やサステナビリティといったメッセージを発信すれば、多くの人々に届く。十分な取り組みがなされていない分野で腕時計メーカーが人々に気づきを与えられるのであれば、理想的ではないだろうか?

 パネライは近年、リサイクル金属を使用したケースに力を入れている。2019年には「エコチタン」と呼ばれる再生チタンを使用した限定モデル「サブマーシブル マイク・ホーン エディション」(PAM00984)を発表、21年には総重量の98.6%をエコチタンなどのリサイクル材が占める「サブマーシブル eLAB-ID」(PAM01225)で注目を集めている。同年にはこのコンセプトウォッチに加え、「eスティール™」を使用した初の腕時計をリリースした。このモデルでは、リサイクル率は低いもののバリエーションが豊富で、生産本数も多い。

リサイクル2022

 2022年に発表されたサブマーシブル クアランタ クアトロ eスティール™(PAM01288)では、総重量の53%をリサイクル材が占める。ケースの素材にはリサイクル鋼が使用され、ストラップは再生PETを原料としている。eスティール™は、従来のステンレス鋼と合金化して作られるリサイクル鋼で、時計産業だけでなく他の産業分野でも使用されている。パネライによれば、このeスティール™を使用することで、ケース製造時の二酸化炭素排出量を大幅に削減することができるという。

 パネライでは、持続可能な時計製造を実現する取り組みがサステナビリティを推進する他の取り組みとリンクしている。12年からパネライは宝飾・時計産業における企業倫理と責任あるサプライチェーンに焦点を当てた標準化団体、RJC(責任あるジュエリー協議会)の認定メンバーとなっており、「プラスティック収集日」を設け、困窮した環境にある就学年齢の子供たちを支援する南アフリカのNPO団体「イミバラ・トラスト」を支援し、パネライの従業員が提案したプロジェクトに基づいてさまざまな組織のサポートを行っている。

 時計愛好家は、企業のサステナビリティへの取り組みをどの程度重視し、それが購入の決定にどのくらい影響するか、自身で判断しなければならない。一方、本作のデザインのように、その利点を客観的に判断できるケースもある。今回、「サブマーシブル」コレクションに、上から下へと、ライトグレーからダークグレーに変化する美しいグラデーションカラーの新しい文字盤が加わった。今作が初めてとなるポリッシュ仕上げのセラミックス製ベゼルと相まって、スポーティーさとエレガンスが魅力的に融合されている。

「クアランタ クアトロ」というモデル名が示す直径44mmというケース径も新しく、サブマーシブルコレクションで既にラインナップされている直径42mmと直径47mmをつなぐサイズが出現した。存在感のあるスポーツウォッチとしては13.35mmの厚さは扱いやすく、良好なプロポーションと快適な装着感を両立する。

約3日間のパワーリザーブ

キャリバーP.900

キャリバーP.900は、約72時間(約3日間)のパワーリザーブを備えながらも薄く設計された自動巻きムーブメントである。

 キャリバーP.900は小型ながらも約3日間のパワーリザーブを備えている。パネライは19年にこのムーブメントをスリムな「ルミノール ドゥエ」のラインに導入し、その後、直径42mmのサブマーシブルに採用、今回は直径44mmの新型モデルにも搭載された。自動巻きムーブメントは直径28.2mm、厚さ4.2mmで、薄く設計されている。

 この設計は、パネライも所属するリシュモン グループ傘下のエボーシュメーカー、ヴァル フルリエ社が手掛けたものである。05年にヴァル・ド・トラヴェールに設立されたこのメーカーは、リシュモン グループ内のさまざまなブランド向けに、厳選されたムーブメントを開発・製造している。供給を受けるブランドの中には自社でムーブメントの開発・製造を行っているところもある。例えば、IWCのキャリバー32110/32111や、ボーム&メルシエの「ボーマティック」もキャリバーP.900がベースムーブメントとなっている。

 だが、パネライでは、IWCの「アクアタイマー・オートマティック(63万8000円)」やボーム&メルシエの「クリフトン ボーマティック(39万500円)」よりもかなり高価であるにもかかわらず、大幅に簡素化されたバージョンが使用されている。約3日間というロングパワーリザーブには説得力があるが、正確な時刻合わせを可能にする秒針停止機能が搭載されておらず、ムーブメントの装飾も省略されており、リュウズを引き出すと分針が約2分、ジャンプして戻るという現象も見られる。

「工場出荷時」の微調整はいたって簡素である。そのため、ヒゲゼンマイの有効長はヒゲ棒を手で動かして調整しなければならない。微調整の精度に応じて、時計の精度にもばらつきがあるようである。今回のテストウォッチは、ウィッチの電子歩度測定器によるテストで1日あたりマイナス4.5秒/日と著しいマイナス傾向を示したが、最大姿勢差は8秒と、合格ライン内だった。ムーブメントがシンプルな構成であることを考えれば、クローズドバックであることも許容の範囲内だろう。控えめながらもここにエングレーブされているのは、低速走行魚雷「S.L.C.」である。1935年にイタリア海軍が開発した低速潜水艇で、第2次世界大戦中、敵艦を撃沈するために使用されていた。

堅牢な構造

サブマーシブル クアランタ クアトロ eスティール™️

eスティール™製の外装パーツ。リュウズガードには、その素材を示す加工が施されている。

 ねじ込み式裏蓋はリュウズプロテクターと同じように堅牢である。時刻合わせや時計を巻き上げる際にレバーを持ち上げて操作するこのリュウズプロテクターは、パネライの特許技術である。このリュウズプロテクターは、パネライがイタリア海軍の特殊潜水部隊に時計を供給していた1940年代後半にはすでに存在していた。この方式は高い密閉性を約束し、レバーが目立つことから、誤ってリュウズを引き出したまま海に潜ることがないというメリットがあった。

 ラバー製のリングで周囲を守られたリュウズは快適に操作することができる。操作し終わった後のリュウズは、「eSteel」と刻印されたレバーで最後の押し込みを行う。特殊なリュウズプロテクターの持つ機能上のメリットは否定できない。だが、それ以上に重要なのは、クッションケースや多くのモデルに見られるサンドイッチ文字盤とともに、パネライというブランドの顔としての重要性である。その特徴的な形状によって、遠くからでもひと目でパネライ(ルミノールコレクション)であることが認識できるのだ。

 サブマーシブルには、パネライの3つの重要な特徴のひとつであるサンドイッチ文字盤が採用されていない。その代わり、針と同じように蓄光塗料を塗布したアプライドインデックスが装備されている。青く光る分針とベゼルのドットマーカー以外の表示要素はスーパールミノバ特有の緑色に発光する。そのため、暗所や水中でも容易に時刻を読み取ることができる。ただ、ベゼルは12時位置のドット以外、蓄光塗料が塗布されておらず、分の目盛りも最初の15分しか配されていないため、時刻を正確に知るのはやや困難である。

機能する高級腕時計

 ここで疑問となるのは、価格が100万円を超える腕時計を身に着けてダイビングを行う人間がいるかという点である。既存のステンレススティールでも、eスティール™でも、チタンでも、ダイビング器材やサンゴ礁、難破船などで擦れればケースに傷がつくことは避けられない。つまり、サブマーシブル クアランタクアトロ eスティール™のような高級機は、プロフェッショナルが使う道具というよりはラグジュアリーウォッチとみなすべきだろう。

 だが、サブマーシブルを持っていれば、日常で多少、過酷な場面に遭遇した場合でも高級時計を外す必要がない。これは、サファイアクリスタルとセラミックス製ベゼルによって文字盤側の耐傷性が確保されていることと、30気圧防水、2本のストラップの耐久性によってかなえられている。付属ストラップのうちの1本は再生PET製で、内張りとパンチングレザーで補強されている。時計を着けたまま湖やプールに入る場合は、もう1本のラバーストラップに交換した方がよい。

サブマーシブル クアランタ クアトロ eスティール™️

裏蓋には、控えめながらも有人魚雷「S.L.C.」のエングレーブが施され、ストラップを固定するバネ棒をロック解除するためのプッシュボタンが見える。

 ストラップを付け替えるには、付属の交換用ツールでラグの裏側にあるラッチを押し下げると、ストラップに縫い付けられた金属製のスリーブからしっかりとした2本のバネ棒が滑り出てくる仕組みになっている。これは堅牢で使いやすいシステムであると同時に、交換用ツールを使って従来型のバネ棒では脱着時に脅威となりうる傷から時計を守る役割も担っている。唯一のマイナスポイントは、パネライ特有の大型の尾錠が一式分しか付属していない点である。ストラップを付け替える時には同梱のドライバーで尾錠も交換しなければならない。

賛否両論

 このテストウォッチを詳細に観察してみると、長所と短所を端的に述べることが可能である。外観が素晴らしく、耐久性に優れ、快適に装着でき、視認性が良好で、サステナビリティへの取り組みとして時宜にかなっている。だが、ムーブメントが簡素で、ラグの付け根のケース部分のサテン仕上げがやや粗い。こうした難点を容認してもなお、143万3300円という価格が適正かどうかは、購入者の判断に委ねられる。