優美なオーバルシェイプのドレスウォッチ、レイモンド ウェイル「トッカータ ヘリテージ」

2025.12.15

ヴィンテージデザインや小径ケースへの注目から、オーセンティックなドレスウォッチに人気が回帰している。とはいえ、そこにはクラシックだけではなく、コンテンポラリーな魅力が欠かせない。レイモンド ウェイルの「トッカータ ヘリテージ」はその秀作だ。現代のライフシーンに応える新たなドレスウォッチの扉を開く。

トッカータ ヘリテージ

トッカータ ヘリテージ
サンレイで仕上げた文字盤に、ドーフィン針とアプライドのバーインデックスを採用し風格が漂う。アリゲーター調の型押しカーフレザーストラップも、それぞれのカラーにコーディネートされている。文字盤色のラインナップは、左よりオールドシルバー、ブルー、コッパーカラーだ。手巻き(Cal.RW4100)。18石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(縦38×横33mm、厚さ6.95mm)。3気圧防水。(左)27万5000円(税込み)、(中)27万5000円(税込み)、(右)29万7000円(税込み)。
岡村昌宏:写真
柴田充:文
Photographs by Masahiro Okamura (CROSSOVER)
Text by Mitsuru Shibata
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos Japan)


静かな上質を体感する「トッカータ ヘリテージ」
ドレスウォッチの本質への招待

 時計愛好家であれば、誰もがその美しいオーバルシェイプに時計史に燦然と輝く名作ドレスウォッチの面影を見ることだろう。そして、このモデルこそが近年のレイモンド ウェイルの真骨頂である。

トッカータ ヘリテージ

トッカータ ヘリテージ
オーバルケースとも絶妙に調和するステンレススティール製5連ブレスレットは、エレガントな着け心地で、ポリッシュ仕上げの光沢がきらめく。クラシックとモダンが融合したタイムレスなスタイル。手巻き(Cal.RW4100)。18石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。SSケース(縦38×横33mm、厚さ6.95mm)。3気圧防水。29万7000円(税込み)。

「トッカータ ヘリテージ」は、オーセンティックなオーバルの薄型ケースに、ドレスウォッチのセオリーである2針ノンカレンダーを収める。オーバルの王道にリスペクトしつつ、ラグを残し、コンテンポラリーな味付けとオリジナリティーを表現する腕時計だ。サンレイで仕上げた文字盤のカラーも、あえて定番のホワイトやブラックではなく、ブルー、オールドシルバー、コッパーの3色を採用し、スタイリッシュに彩る。

 手に取れば、絶妙なサイズ感にきっと感嘆することだろう。腕になじみ、柔らかなカーブが温もりを感じさせる。美しく研磨されたケースは、決してひけらかすことなく、それでいて袖口から品格ある存在感が伝わってくる。これこそがドレスウォッチの本懐にほかならない。

トッカータ ヘリテージ

美しいカーブを描くオーバルケースに従い、ストラップの尾錠も滑らかなシェイプでデザイン。カラーはステンレススティールやローズゴールド調など、それぞれのケースに合わせている。細部までも手抜かりなく、さり気なく醸し出す高級感は、使うほどに愛着が増していくのだ。

 デザインは、1980年代から90年代初頭の初期アーカイブをモチーフとしている。これを現代的に解釈し、コレクション名は奏者の技巧を自由に表現する鍵盤楽曲の形式から名付けられた。クラシックな魅力とモダンな洗練が響き合い、音楽一家でもあり音楽から多くの着想を得てきた一族経営の独立系ブランドにふさわしいネーミングである。

 2023年開催のGPHG(ジュネーブ・ウォッチ・グランプリ)のチャレンジウォッチ部門で「ミレジム」が受賞して以来、同ブランドは快進撃を続ける。これを牽引するのが創業家3代目で14年にCEOに就任したエリー・ベルンハイム氏だ。ヴィンテージウォッチの愛好家であり、その深い造詣と情熱をネオ・ヴィンテージのテイストに注ぐ。

トッカータ ヘリテージ

搭載するCal.RW4100は、セリタのCal.SW210-1がベース。ヘアラインで仕上げたブリッジにブルーのネジが組み合わされ、テンプの存在感が際立つ、手巻きらしい味わいを持つ。裏蓋にオーバルのウィンドウをあしらい、丸型のムーブメントも同形に感じさせる凝った仕様だ。

 こうした高級時計の伝統に根差したスタイルと品質への強い姿勢に加え、プライスバリューも見逃せない。これを支えているのがスイス時計の伝統的な分業体制を意味するエタブリスールだろう。1976年にブランドが創設されたきっかけも、当時クォーツウォッチの台頭で危機的状態に陥ったスイスの機械式時計産業の再興を目指したことからだった。

 さらに言えばその時代背景は、現代にも通じるのかもしれない。今やブランドのマニュファクチュール化やムーブメントの寡占化が進む中、ボリュームレンジが縮小し、モノづくりの裾野が弱体化する。そうした現況に対し、スイス時計産業全体の活性化を目指し、成長と今後の発展につなぐ。「トッカータ」が優美な姿を奏でるのは、その志なのである。

トッカータ ヘリテージ

2針ノンカレンダーというシンプルなレイアウトでありながら、文字盤に散漫な印象を与えないのは美しい仕上げと色にある。光によって豊かに表情を変える、シックなオールドシルバーがヴィンテージ感を演出。ドレスウォッチらしく文字盤と針のクリアランスは低く設計されている。


トッカータ ヘリテージの注目ポイント

1. 手巻き

 機械式腕時計の基本は手巻きである。ミニマルな機構は、ムーブメントの厚みを抑え、薄型軽量化に寄与する。自動巻きと異なりローターがないため、ムーブメントの構造や動きを見ることができ、手で主ゼンマイを巻き上げる醍醐味も味わえる。

2. 薄型

 ドレスウォッチの定番である薄型ケースは、軽快かつ手首にもなじむ心地よいフィット感が味わえる。シャツやジャケットの袖下にもスッキリと収まり、特にフォーマルなスタイルやビジネススーツに洗練された気品を演出する。

3. 2針

 腕時計の針は本数が増えるほど、スポーティーさや複雑機構の印象を増す。その対極である2針は、腕時計に求められる最低限の計時に絞り、そぎ落としたデザインにブランドの美意識が注がれる。機構がシンプルな分、駆動時間も長い。

4. オーバルケース

 多様なバリエーションのあるケース形状でも、オーバルは特にエレガントでクラシックな魅力が漂う。滑らかなカーブのフェミニンな印象からレディースウォッチに多用される一方、気品あふれる個性はダンディズムを演出する。

5. レイモンド ウェイルの理念

 レイモンド ウェイルは「誠実なる芸術」を理念に掲げ、クラフツマンシップと品質への真摯な姿勢を重んじるブランドだ。スイス時計産業が培ってきた伝統とネットワークを生かした上質なウォッチメイキングは、現在注目を集めている。



Contact info: ジーエムインターナショナル Tel.03-5828-9080


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