2025年に導入された「タグ・ホイヤー カレラ デイト ツインタイム」は、クロノグラフおよび3針モデルが主力の「タグ・ホイヤー カレラ」コレクションの中で、特別な位置付けの腕時計だ。現状では単一バリエーションのみの展開だが、独自性を備えながらも、典型的なタグ・ホイヤー カレラの特徴をしっかりと踏襲した1本である。

Text by Rüdiger Bucher
タグ・ホイヤー:写真
Photographs by TAG Heuer
Edited by Yousuke Ohashi (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2026年3月号掲載記事]
© WatchTime Germany
Originally published in WatchTime Germany
Reprinted with permission.
独自の完成度に到達した「タグ・ホイヤー カレラ」
2025年春に発表された「タグ・ホイヤー カレラ デイデイト」の新作群。その中心となるデイデイト表示の3針モデルに対し、一線を画す存在として、GMT機能を備えた「タグ・ホイヤー カレラ デイト ツインタイム」がラインナップされた。同時に発表されたこれらのモデルには、いくつかの共通点がある。直径41mmの同一サイズのケースを採用し、同じ3連のメタルブレスレットが組み合わされているという点。そして、クロノグラフ機能を持たないタグ・ホイヤー カレラのモデルを集めた「タグ・ホイヤー カレラ デイト」コレクションに属していることも共通している。その中でも、GMT機能を備えるツインタイムは、コレクション内で特別な位置付けをされた腕時計だ。同時にこのモデルは、カレラが積み重ねてきた数十年にわたる歴史を色濃く感じさせるモデルでもある。
1963年に登場した初代「カレラ」のシンプルなデザインは、過剰に要素を詰め込んだクロノグラフの時代に終止符を打ち、モダンで未来志向の方向性を示した。この先見的な判断は、後に登場するカレラと名の付く腕時計のアイデンティティーとなった。たとえ、その後に登場したさまざまなカレラの文字盤が、必ずしも同じように簡潔であり続けたわけではなかったとしてもだ。丸型で、スポーティーで、視認性に優れる腕時計。これがカレラのDNAである。そしてそれは、クロノグラフであろうと、クロノグラフを搭載していなかろうとも共通している。

長い歴史を誇るツインタイム
「ツインタイム」という名のGMT機能を持つモデルは、実はカレラが誕生する前の55年には、ホイヤーのラインナップにすでに存在していた。その後も年月を経る中で、ツインタイムとして断続的に登場。例えば2000年代初頭のモデルは、単色の24時間リング、矢印型のGMT針、そしてアラビア数字ではなくバーインデックスが採用された腕時計であった。
しかしながら、本作タグ・ホイヤーカレラ デイト ツインタイムではアラビア数字インデックスを採用。また、通常の「タグ・ホイヤー カレラ」の3針モデルが、異なる文字盤カラーを展開するのに対し、本作はティールグリーン文字盤の1仕様のみだ。
文字盤上の表示レイアウトには、重要な歴史的背景がある。カレラの生みの親であり、1958年に家業に参画し、60年代から経営の中核を担っていたジャック・ホイヤーは、見返しリングに目盛りを印刷することで、文字盤上のスペースを節約し、表示をより整理されたものにデザインした。本作も同様に、見返しリングにスケールが記されている。本作の場合は2色で分けられた24時間表示だ。この24時間表示は固定式で、6時から18時の時間帯を示すホワイト、18時から6時の時間帯を示すティールグリーンに分けられている。18時から6時の色は文字盤の色と同じだが、完全に同じ色味には不思議と見えない。それは、文字盤に施された繊細なサンレイ仕上げのためである。わずかな角度の違いでも光の反射が変化し、ティールグリーンに独特の奥行き感を与えているのだ。
文字盤上には、表面にほんのわずかにカマボコ状の丸みが与えられた、アラビア数字のアプライドインデックスが配され、これがとりわけ映える。これらにはポリッシュ仕上げが施されているため、針と競い合うように輝きを放つ。また、分目盛りは30秒刻みの補助目盛りが加えられたもので、見た目が良いだけでなく、時刻合わせの際には分針を正確に分と分の中間に合わせやすく、実用的な助けとなる。
ケースとブレスレット
ケースは一見すると簡素だが、実は見どころが多い。その造形の中には、多くの歴史が詰まっている。ジャック・ホイヤーが手掛けた、63年登場のカレラ クロノグラフは、正面から見て斜めのラインを際立たせたラグを特徴としていた。その後、この形状は追加されたファセットによって、より強調されるようになる。今回テストした本作の意匠も、その系譜に連なることを確認できる。カレラの外観は数十年にわたり変化を遂げてきたが、ケースラインのデザインのアイデンティティーは常に保たれてきた。他方、まったく新しい要素も存在する。それが裏蓋外周に配された小さなビクトリーリース(勝利の冠)だ。タグ・ホイヤーはこれをブランドとモータースポーツとの結び付きを示すために取り入れている。

ブレスレットのデザインも、第一印象以上の工夫が施されている。タグ・ホイヤーは、近年の流行である「クラスプに向かって大きく絞り込む」テーパードスタイルを安易にブレスレットには採用しなかった。それでも、最初のコマから4番目のコマにかけて、ごくわずかではあるがテーパーがかかっているが、それはほとんど意識されない程度だ。その結果、ブレスレットは力強くスポーティーな印象を保つことに成功した。
ブレスレットはヘアライン仕上げが目立ち、ポリッシュがメインのケースとは対照的である。ケースは、ベゼルとラグの斜面がポリッシュ仕上げで、ケース側面のみがヘアライン仕上げとなっている。他方のブレスレットはヘアライン仕上げのH型のコマで構成され、縁と中間コマ上面がポリッシュされている。この構成のために、指でなぞった際には心地よい触感が得られるのだ。加えて、過度に光を反射せず、指紋も目立ちにくい点も評価の高いポイントである。
装着感は良好だ。鋭角な部分は、最後のブレスレットコマがクラスプに接する部分にのみ存在するが、実際の着用時にそれらを意識することはない。クラスプはダブルフォールディング式で、どちらの側を先に閉じてもよい構造となっている。操作順が固定されたクラスプでは煩わしさを感じることがあるだけに、これは長所と言えるだろう。クラスプ自体は非常に堅牢で、ふたつのプッシュボタンによって容易に開くことができる。
オフィスから海外に電話するときに最適なGMT
GMT仕様の本作に搭載される自動巻きムーブメント、Cal.TH31-03は、従来ツインタイムに用いられていたCal.7と比べ、明確な進化を遂げている。ETAまたはセリタベースで長くても約56時間のパワーリザーブを備えたCal.7に対し、Cal.TH31-03はAMT製で、約80時間のパワーリザーブを備える。このムーブメントは、すでに「タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル300 GMT」にも採用されたものだ。

残念ながら、本作タグ・ホイヤー カレラ デイト ツインタイムは、通常の時針を独立して調整することはできない。もし、時針を単独で調整できれば、これは旅行者にとって利点となり得たはずだ。それゆえに、このツインタイムはいわゆる“コーラーウォッチ”、すなわち「電話を頻繁にかける人のための腕時計」に位置付けられる。デスクワークをしながら異なるタイムゾーンの人々と連絡を取るときに、その機能を発揮するのだ。操作方法を説明しよう。リュウズを第2ポジションに引き出し、赤い先端を持つGMT針を対応する24時間表示上の正しい時刻に合わせる。こうして、通常の時針が示す自国時間(ホームタイム)に加え、希望する現地時間(ローカルタイム)を24時間制で確認することができるのだ。
もし仮に、自分自身が別のタイムゾーンへ移動する場合には、この腕時計の操作にはふたつの選択肢がある。ひとつは、前述の方法でGMT機能を用いることだ。この場合、旅行中はGMT針を使うことになり、その表示には慣れが必要となる。さらに、通常の時針が引き続き自国の時刻を示すため、使用時に混乱する可能性がある。もうひとつは、すべての針をまとめて調整し、GMT針が自国時間を、時針が現地時間を示すようにする方法だ。しかしこの方法はやや手間がかかるうえに、純粋な3針時計に対して大きな利点があるとは言い難い。
結論

その機能と特別なティールグリーン文字盤によって、本作はタグ・ホイヤーカレラ デイトの中で特殊な地位を築いた。本作は、このフォルム、この仕様の腕時計を最大限に気に入り、色や素材、機能の代替を求めない個性派に向けられている。
時針を独立して調整できないという点は、本作における顕著にして大きな弱点と言わざるをえない。しかしそれ以外には、何度も見ていると気づいてくる細部の特徴を多数備えており、それらがこの腕時計の魅力を強く印象付けるのである。価格は74万2500円と、同等の機構を持つ、競合モデルの多くより高いように見受けられる。それでも本作は、重要な腕時計アイコンの系譜に連なる存在であり、完成度の高いデザイン、優れたディテール、そしてとりわけ長いパワーリザーブを備えた現代的ムーブメントによって評価点を獲得している。
タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ デイト ツインタイム」のスペック
プラスポイント、マイナスポイント
+point
・タグ・ホイヤー カレラの伝統に沿ったモダンなデザイン
・美しい文字盤
・約3日間の長いパワーリザーブ
・ブレスレット表面の仕上げ感が良い
-point
・時針を独立して調整できない
・クラスプと接するコマの角が鋭い
・暗所では第2時間帯が視認できない
技術仕様
| 製造: | タグ・ホイヤー |
| リファレンスナンバー: | WDA2114.BA0043 |
| 機能: | 時、分、センターセコンド(秒針停止機能付き)、日付表示、第2時間帯表示 |
| ムーブメント: | Cal.TH31-03、自動巻き、2万8800振動/時、30石、パワーリザーブ約80時間 |
| ケース: | ポリッシュとヘアライン仕上げのステンレススティール製ケース、両面無反射コーティングのサファイアクリスタル製風防、トランスパレント仕様の裏蓋、100m防水 |
| 文字盤: | サンレイ仕上げのティールグリーン文字盤、アラビア数字インデックス、ブランドのロゴマーク、ホワイトのスーパールミノバが塗布された時分針、赤く塗装された先端を持つGMT針 |
| ブレスレットとクラスプ: | ステンレススティール製ブレスレット、セーフティープッシャーとステンレススティール製ダブルフォールディングクラスプ |
| サイズ: | 直径41mm、厚さ12.6mm、ラグ幅21.5mm、重量153g(実測値) |
| 価格: | 74万2500円(税込み) |
*価格は記事掲載時のものです。記事はクロノス ドイツ版の翻訳記事です。
精度安定試験
| 最大姿勢差: | 11秒 |
| 平均日差: | +2秒/日 |
| 着用時平均日差: | +5秒/日 |
評価
| ブレスレットとクラスプ(最大10pt.) | 8pt. | 美しく、機能的で簡潔にデザインされたブレスレットと、堅牢なクラスプ。 |
| 操作性(5pt.) | 5pt. | リュウズとクラスプはいずれも不満がない。 |
| ケース(10pt.) | 8pt | 装飾を排した造形。現行「タグ・ホイヤー カレラ」に特徴的なファセットとポリッシュ仕上げのラグが、モデルの個性を印象付けている。 |
| デザイン(15pt.) | 13pt. | 優れたデザインといくつかの力強いディテール。ケース形状と文字盤によって、ツインタイムは正真正銘の「タグ・ホイヤー カレラ」となっている。 |
| 文字盤と針(10pt.) | 8pt. | ティールグリーンの色調と赤いGMT針による明確なコントラストがツインタイムの特徴。サンレイ仕上げと緩やかなカマボコ状に盛り上がったアラビア数字インデックスが、独特の視覚的魅力を生み出す。 |
| 視認性(5pt.) | 4pt. | 日中は高いコントラストにより非常に良好。24時間表示とGMT針に蓄光塗料が塗布されていないため、暗所での第2時間帯の視認性は大きく低下する。 |
| 装着性(5pt.) | 5pt. | 手首への収まりがよく、シャツの袖口にも滑り込みやすい。 |
| ムーブメント(20pt.) | 14pt. | AMT製のムーブメントは仕上げも良好。約80時間という長いパワーリザーブを備える。 |
| 精度安定性(10pt.) | 7pt. | 平均的にはわずかな進み。姿勢差はもう少し小さい方が望ましい。 |
| コストパフォーマンス(10pt.) | 8pt. | 同機能を持つ多くの腕時計と比べると価格帯は上位に位置するが、文字盤とムーブメントにおいて高い価値を提供している。 |
| 合計 | 80pt. |



