北海道日本ハムファイターズの監督としてシーズン5年目に突入した新庄剛志。グラウンドの内外で話題を振りまくビッグ・ボスは、時計の着け方にも一切の妥協がない。片腕に2本の腕時計を重ねる奇抜な流儀が、一時、ファンの目を釘付けにした。

Text by Yukaco Numamoto
土田貴史:編集
Edited by Takashi Tsuchida
〔2026年4月19日掲載記事〕
監督業が板についた「ビッグ・ボス」の快進撃
北海道日本ハムファイターズの監督として2022年シーズンから指揮を執る新庄剛志。日本ハム現役時代と同じ背番号「1」を背負い、独創的なアイディアと歯切れのいい言葉で球界に新風を吹き込み続けてきた。就任会見では「正直、自分が一番びっくり。僕でいいのかなという思いの反面、僕しかいない。ファイターズを変えていきたいし、僕がプロ野球を変えていきたい」と満面の笑みで宣言。その言葉通り、ビッグ・ボスはチームをじっくりと再建し、今シーズンは悲願の優勝を狙える位置にある。
試合後のインタビューでも“新庄節”は絶好調だ。1番に抜擢した水野がヒットを決めた場面で、起用の理由を尋ねる記者に「まあまあ、それにしといて。勘ピューターにしといて。説明すると18分かかるから」と笑顔で返す。調子の上がっていなかったレイエスが試合前に新庄監督と話し込み、その日の試合で2安打を記録した件についても「ね。僕のトークのおかげじゃないとは思います。もともと打つ選手なので、関係ないとは思います」とジョーク混じりに返答。その一言一言にユーモアがにじみ出し、報道陣の笑いを誘う。
新庄監督のスローガンは「夢はでっかく、根は太く。土台をしっかり作って、夢に向かって突き進んでいきたいというイメージ」だ。楽しいファンサービスと大胆な発言を惜しみなく繰り出しながら、着実にチームの底上げを図る手腕は、就任から5年が経つうちにすっかり磨かれた。
現役時代はFA権を行使し、残留を懸命に説得した阪神の求めも、横浜・ヤクルトの獲得交渉も袖にして、新庄争奪戦を制したのは意外なことに──ニューヨーク・メッツだった。日本人野手によるメジャー挑戦が珍しかった当時、同年にイチローがマリナーズへ移籍したことでも知られる節目のシーズン。周囲の冷ややかな視線をものともせず、開幕メジャー入りを果たした新庄剛志は初打席で初安打を記録。123試合に出場して打率.268・10本塁打・56打点という結果を残し、日本人初の4番も経験した。3シーズンをメジャーで過ごした後はパ・リーグの日本ハムへ移籍し、「これからはメジャーでもセ・リーグでもない。パ・リーグです!」と宣言。入団時に誓った「チームの日本一」と「札幌ドームを満員にする」の二大目標を達成し、2006年に現役を退いた。
誰にも真似できない、突き抜けた感性
グラウンドの内外で絶えず話題を提供してきた新庄剛志の特徴は、“やりすぎ”を恐れない突き抜けた感性にある。監督就任後も自らデザインした襟付きユニフォームをチームに採用し、「襟を立てまくって球場に応援しに来てくれたら感動!」とSNSに投稿。「ジーンズが似合わなくなるのが嫌だから、下半身は鍛えたくない」「ベストドレッサー賞はメジャーでもらった野球の賞より嬉しい」という言葉が示すように、ファッションへのこだわりは現役時代から本物だ。
登場シーンにも独自の世界観が炸裂する。ランボルギーニやフェラーリといったスーパーカーで乗り込むのはもはや定番で、開幕セレモニーではホバーバイクで颯爽と姿を見せたこともある。それほどのモータースポーツ愛好家ゆえ、バリ島移住中は自分の土地にモトクロスコースを自費で設けていたという。もともとスタッフのために2000万円をかけて造設したコースだが、自分でも乗り始めた初日のジャンプで転倒して足を負傷したことが本格的にバイクにのめり込むきっかけになったというエピソードには、いかにも新庄剛志らしいオチがある。

そんな新庄流の感性は、腕時計の身に着け方にもいかんなく発揮されている。時は今から4年前に遡るが、2022年の日本ハムキャンプ初日、報道陣へのど飴を差し入れる場面を収めた東スポの写真に決定的な瞬間が写り込んでいた。本田圭佑のように両腕にそれぞれ1本ずつ着けるスタイルはまれにあるが、同じ腕に2本を重ねるスタイルはほとんど前例がない。写真に収まった時計は、どちらもタグ・ホイヤーであることが確認できる。
タグ・ホイヤーが誇る2本のアグレッシブなクロノグラフ

自動巻き(Cal.ホイヤー02)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。PVDコーティングを施したSSケース(直径43mm、厚さ16.66mm)。ラバー&レザーストライップ。100m防水。参考品。
1963年に誕生したタグ・ホイヤー カレラは、世界のトップドライバーたちの技術的要求に応えながら半世紀以上にわたって進化を遂げてきたクロノグラフだ。大きくデザインを変えることなく今日まで継承されており、2023年にはカレラコレクション誕生60周年を記念して初代Ref.2447からインスピレーションを得た限定版も発売された。
「カレラ」という名前はスペイン語で“レース”を意味し、世界で最も危険な公道レースとして知られた「カレラ・パナメリカーナ」に由来する。創業者エドワード・ホイヤーの曾孫にあたるジャック・ホイヤーが「どの言語で発音しても響きがいい」と確信し、自ら開発したクロノグラフに命名したという逸話は、ブランドが持つ物語の豊かさを象徴している。モータースポーツが求める高精度と、日常使いに耐えるエレガンスを両立させたそのレガシーは、現在も脈々と受け継がれている。

自動巻き(Cal.TH20-00)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径39mm、厚さ15.21mm)。アリゲーターストラップ。100m防水。116万500円(税込み)。
一方、スクエアケースが象徴的なモナコは、1969年に発表されると同時に時計史に鮮烈な足跡を残した一本だ。スティーブ・マックイーンが映画「栄光のル・マン」での着用で一躍注目を集め、その後もモータースポーツの熱狂と切り離せない存在として世界中のウォッチファンを魅了し続けてきた。現行モデルには人間工学に基づいた設計と軽量なチタン素材が採用されており、インパクトあるスクエアフォルムはそのままに、現代的な快適性と精度を手に入れている。腕に巻いた瞬間の存在感は格別で、まさにビッグ・ボスが着けるにふさわしいモデルと言えるだろう。
新庄剛志がタグ・ホイヤーを選ぶ理由として、やはりモータースポーツへの愛着が挙げられる。バリ島での自前コース設置、ホバーバイクやスーパーカーでの登場……スピードと機械への傾倒はもはや生き様の一部だ。モータースポーツの世界と深く結びついたタグ・ホイヤーの時計を選んでいることには、十分すぎるほどの必然性がある。
2本着けが語る「ビッグ・ボスらしさ」の哲学
なぜ2本なのか。その明確な理由は本人から明かされていないが、手がかりはこれまでの行動の中に潜んでいる。片方だけソックスをのぞかせるスタイル、あえて高く立てる襟、そして同じ腕に重ねた2本の時計。新庄剛志にとってファッションとは、“自分らしさ”を全身で体現するための言語だ。特別な実用上の理由があるというよりも、誰もやっていないことを自然体でやってのける感性こそが、彼を“ビッグ・ボス”たらしめているのだと言える。
もうひとつ見逃せないのが、公式SNSでも確認できる時計にまつわるこだわりだ。新庄剛志は時計を常に13分進めておくことで知られている。「努力は一生、本番は一回、チャンスは一瞬」と公言する人物が、時間的な余裕を物理的に腕に刻んでおくことは、彼の哲学と見事に符合する。2本の時計のうち1本が「自分時間」で、もう1本が標準時刻を指しているのかもしれない。はたまた両方とも13分進められているのか。真相はビッグ・ボスのみぞ知るところだが、「常に準備万端で一瞬のチャンスを逃さない」という姿勢がそこに凝縮されているとすれば、2本着けはただの奇抜なファッションではなく、ビッグ・ボスの生き方そのものの表れなのかもしれない。
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