初夏の夏を思わせるフレグランス、アンリ・ジャック「イリヤベアンジャルダン」/男の香り指南

2026.05.14

オーデコロンの基本のきである柑橘の香りを最上級品に仕立て上げたのが、アンリ・ジャックが手掛ける新シリーズ「イリヤベアンジャルダン」だ。その名の通り、初夏の庭を思わせるこの爽やかなフレグランスを、オーデコロンの語源とともに、本コラムの指南役である麻生綾氏が紹介する。

麻生綾:文
Text by Aya Aso
村山千太:写真
Photograph by Senta Murayama
[クロノス日本版 2026年5月号掲載記事]


そこに庭があった

アンリ・ジャック「イリヤベアンジャルダン」

アンリ・ジャック「イリヤベアンジャルダン」
(右から)香調はコロン/アンバリー。ベルガモットをはじめとするイタリア産の柑橘のトップノートを受け止める、ローズマリーやオレンジブロッサム。そこに温かなサンダルウッドや心落ち着くベンゾイン、アンバリーなシスタスが「爽やかなだけの香り」に終わらせない、得も言われぬエレガントさを加える。「イリヤベアンジャルダン Ⅰ」。250ml。5万9400円(税込み)。香調はフレッシュ/ウッディ。イタリア産のみずみずしい柑橘に、プチグレンビガラードやローズウッド、ナツメグが温かな深みをプラス。ラストではクリーミーなトンカビーン、アンバリーなシスタス、土っぽさを持つベチバーが加わり、華やぎの中にも上質で静かな落ち着きが感じられる。「イリヤベアンジャルダン Ⅱ」。250ml。5万9400円(税込み)。

 イリヤベアンジャルダン(IL Y AVAIT UNJARDIN……)、すなわち「そこに庭があった……」。そんなネーミングの通り、ひと吹きして目を瞑れば、そこに広がるのは高い位置から降り注ぐ初夏のキラキラした木漏れ日と、カゴいっぱいに盛られた豊潤な柑橘類。その情景はまるで、毎年この時季に4DX®で上映される『太陽の季節がやってきた』とでも言うべき映画の予告編だ。

 そんな爽快なフレグランスを生み出したアンリ・ジャックとは、読者におなじみ、リシャール・ミル氏の姪御さんがCEOを務める、超ハイエンドのフレグランスブランドである。1975年にオートパフューマリー(オーダーメイド香水)メゾンとしてスタートし、件の時計と同様、品質や素材、価格も別格。昨年このイリヤベアンジャルダンを新シリーズとして発表、コロンからインスピレーションを得た2種がお目見えした。賦香率が低いコロンゆえに、アンリ様の香りの中では比較的手を出しやすいお値段でもある。

 そもそもコロンは、1709年にイタリア人のヨハン・マリア・ファリーナがドイツ・ケルンにて製造販売した柑橘系の「オーデコロン(ケルンの水)」を、フランス皇帝ナポレオン・ボナパルトが愛用し流行らせたのが始まりと言われる。そのため現代も基本、柑橘系がお約束。つまり「爽やかなフレグランス」の原点なのだ。

 思えば、我々女子が色気づいて最初に香りに目覚めるのも大抵オーデコロン。私の時代はレモンの匂いが大流行り……とはいえ、小・中学生のお小遣いで買えるようなものなので、今ならとても纏おうとは思わないチープな香り立ちではあったのだが。

 嗅覚も進化する。さまざまなフレグランスに触れるようになれば、複雑な匂いが嗅ぎ分けられるようになる。そこは味覚と同じで、「鼻が肥える」と単一な合成香料では飽き足らなくなってくる。

 そこへいくと、イリヤベアンジャルダンは柑橘系の最上級品だ。イタリアの特別な果樹園で育てられた、最高品質のレモンやマンダリンが詰まった大容量ボトル。個人的感想になるが、Ⅰがコロンの王道、「もぎたて」のレモンや晩柑類であるなら、Ⅱはそれらを食卓へと運び、綺麗に剥いて華やかなひと皿とした感じだろうか。いずれにしろ、いつまでも嗅いでいたい、そしていつまでもエレガントな余韻が残る、本当にいい香り。ひとつだけ難があるとしたら、一度こちらを使ってしまったら、もう後戻りができなくなることかもしれない。

著者プロフィール

麻生綾

美容編集者/エッセイスト&コピーライター。東京育ち。女性誌の美容ページ担当歴30余年、『25ans』『婦人画報』(ともにハースト婦人画報社)、『VOGUE JAPAN』(コンデナスト・ジャパン)各誌で副編集長、『etRouge』(日経BP)で編集長も務めた。趣味も美容、そして美味しいもの探し、鬱アニメ鑑賞、馬の骨活動。



Contact info:アンリ・ジャック 銀座 Tel.03-3289-0068


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