カシオ オシアナスの新作「OCW-S6000AP-1AJR」の実機レビューを行う。本作は、徳島県産の天然藍「阿波藍」の藍染めをあしらったインダイアルや、スパイラルカットのサファイアクリスタルベゼルを特徴とするハイエンドモデルである。
Text & Photographs by Tsubasa Nojima
[2026年5月5日公開記事]
「阿波藍」をあしらった、カシオ オシアナスの新作限定モデル

阿波藍によって3色に色分けされたマザー・オブ・パール製のインダイアルと、スパイラルカットのサファイアクリスタルベゼルを特徴とする新作。針の仕上げに至るまで、高級機にふさわしい仕上げが施されている。タフソーラー。フル充電時約18カ月(パワーセーブ時)。Tiケース(直径42.5mm、厚さ9.2mm)。10気圧防水。世界限定700本。49万5000円(税込み)。
来たる2026年6月、カシオ オシアナスより、新作「OCW-S6000AP-1AJR」が発売される。本作は、同時期に発表された「Indigo Ocean-阿波藍」をテーマとした3種のうちのひとつであり、サファイアクリスタルベゼルと薄型ケースを特徴とする「マンタ S6000 シリーズ」に属するモデルだ。今回はこのモデルの実機を一足早く試用する機会を得たため、見た目から使い勝手に至るまで、インプレッションを行いたい。なお、世界限定数量は700本。税込み価格は49万5000円と、その数値から、オシアナスの中でも特に気合の入ったモデルであることが分かる。
まずは本作の概要についてお伝えする。オシアナスは、ギリシア神話における海の神であるオケアノスに由来するブランドだ。そのため、各モデルには海や青をテーマとしたデザインが与えられている。それは本作についても例外ではない。全体をダークトーンでまとめつつ、濃淡をつけたインダイアルやサファイアクリスタルベゼルによって、どこまでも広がる海の青さと、そこに垣間見える静と動の表情を表現している。
そのキーとなるのが、江戸時代から続く技法を用いた徳島県産の天然藍「阿波藍」である。吉野川流域の自然が育んだ蓼藍の葉を水に浸し、数日間かけて抽出した色素に石灰や灰汁を加えることで濃藍成分を沈殿分離させ泥状に凝縮。そうして出来上がった沈殿藍を用いた顔料が、本作のインダイアルを染め上げているのだ。
インダイアルの素材は、マザー・オブ・パール。12時、9時、6時位置と、奥から手前に向かって濃くなるように濃淡の異なる3つの藍色に仕上げられ、これによって壮大な海の広がりを表現しているのである。
オシアナスと言えば、高い機能性を備えていることも特徴のひとつである。手の込んだダイアルでありながら、高効率な光発電機能であるタフソーラーを搭載し、定期的な電池交換を行うことなく長期にわたって使用し続けることができる。さらに、世界6局の標準電波受信機能を搭載し、国内外で自動的に時刻を調整することも可能だ。電波受信機能が対応していない地域であっても、専用アプリを介してスマートフォンと接続する、モバイルリンク機能によって、自動的にスマートフォンの時刻情報に同期させることができる。スマートフォンが近くにあれば、実質的にはGPSウォッチとして使うことができるのは、海外出張の多いビジネスマンにとって心強いことだろう。しかも、アンテナを内蔵するGPSウォッチとは異なり、コンパクトなケースを実現できることも魅力だ。
モバイルリンク機能では、自動時刻調整の他にもワールドタイム設定や時計のステータス表示、携帯電話探索などを行うことができる。時計本体の操作方法が分からなくなってしまった場合でも、アプリ上で簡単に各種設定を済ませることが可能だ。
さらには調整が不要なフルオートカレンダーや電力の消費を抑えるパワーセービング機能、ストップウォッチ、ワールドタイム、バッテリーインジケーター表示など、充実した機能が搭載されている。エレクトロニクス技術に長けたカシオらしく、電子式リュウズによる快適な操作性も魅力である。
壮大な海を想起させる立体的なダイアル

ダイアルのカラーは、ダークグレーと呼ぶのが良いだろうか。ブラックよりもわずかに淡い色合いに仕上げられ、全体に柔らかい雰囲気をもたらしている。表面には波をイメージしたテクスチャーがクリア印刷され、光が当たる度に見る者を楽しませてくれる。光発電機能を搭載したモデルでは一般的に、ダイアルから透過した光をソーラーセルに当て、動力を蓄えている。そのため、ダイアルには十分な充電量を賄うことができる透過性が求められる。本作では、その制約を守りつつも、凝った装飾や遮光分散型ソーラーパネルを採用することで、高級機にふさわしい見た目を実現することに成功している。
3つのインダイアルは、先述の通り12時から6時にかけて徐々に濃い色合いとなるように染め分けられている。マザー・オブ・パールならではの斑模様と、阿波藍を用いた藍染によって、繊細な海の表情を写し取っているのだ。それぞれのインダイアルは金属製パーツを用いたブルーの縁取りによって飾られ、立体感と高級感を高めている。3時位置には日付表示が配され、オシアナスのブランドロゴが輝く。
針やインデックスの仕上げも高級機にふさわしいクォリティだ。時分針では天面にヘアライン仕上げを施し、両サイドに斜めのカットを加えることで、わずかな光を捉えて存在感を主張する。インデックスも同様に、シャープにカットされ、天面にヘアライン仕上げを加えている。12時位置のみブルーとすることで、時計の向きを簡単に判別できることも、使い勝手を向上させるポイントだ。ブラックのカウンターウェイトを備えた秒針はゴールドカラーに仕上げられ、数量限定モデルらしい特別感を感じさせてくれる。時分針とインデックスの中央には蓄光塗料が塗布されており、暗所でも視認性は十分に確保される。
ワールドタイム設定時に使用する都市コード表示は、フランジに記されている。普段はその存在を目立たせることはなく、しかし使いたい場面ではしっかりと役割を果たす。使い勝手とデザイン性の両立を図った仕様だ。
スパイラルカットのサファイアクリスタルベゼル

ダイアルの周囲を飾るのは、阿波藍のインダイアルに並ぶ本作の主役、スパイラルカットを施したサファイアクリスタル製のベゼルだ。高い硬度を誇るサファイアクリスタルは、素材自体はもちろん、加工することにも多くのコストを要する。高級腕時計では風防にサファイアクリスタルを用いることが多いが、普及価格帯のモデルや複雑な形状の風防を備えたモデルでは、ミネラルガラスを用いることが多い。それだけサファイアクリスタルはコストのかかる素材なのだ。本作では、ベゼルという風防よりもさらに大きなパーツをモノブロックのサファイアクリスタルで作り上げ、複雑なカットを施しているのである。
その製造方法は次の通り。まずはリング状に切り出したサファイアクリスタルの外周に24面のカットを施し輪郭を作り出す。次に天面にスパイラルカットを加え、まるで波を思わせる躍動感あふれるデザインに仕上げる。さらに裏面にブルーのグラデーション蒸着を行い、深い海のような透明感あるブルーを生み出すのだ。
こうして出来上がったベゼルは、光が当たるごとにカットされた面が輝き、絶えず揺れ動く波間のような情景を浮かび上がらせる。硬い分、衝撃への耐性がそれほど高くないサファイアクリスタルをベゼルに用いるのであれば、金属製の枠を用いるのが定石だろう。ベゼルは腕時計の中でも特にぶつけやすい外装パーツであるからだ。しかし本作ではあえてそのようなことはせず、天面だけではなく側面からも光が差し込むようにすることで、海面に見られる煌めきをそのまま腕時計に再現することを可能としたのである。
海をモチーフとした腕時計は少なくないが、その全てが見る者に海を思い起こさせるとは限らない。モチーフに関する事前情報がなかったとしても、一目見ただけで脳裏に強く海を描かせるほどの本作からは、コンセプトとプロダクトの結びつきが群を抜いて強固な印象を受ける。
薄型軽量のチタンケースで装着感も◎
ケースとブレスレットは、ブルーAIP仕上げのチタン製。見た目にはほぼブラックだが、明るい場所で見るとほんのりダークブルーの色合いであることが分かる。軽量で耐食性と抗アレルギー性に優れたチタンに、耐傷性を高める表面処理を施すことで、実用時計として死角のないスペックを与えている。ケースは直線基調で構成され、切り立ったエッジと鏡面の一部に施されたザラツ研磨が、程よい緊張感をもたらす。トップにオシアナスのロゴを配したリュウズと、ふたつのスクエア型のプッシュボタンは、やや明るめのブルーIP仕上げだ。

本作は手に持って眺めても楽しめるが、実際に腕に装着してこそ真価を味わうことができる。軽量なチタン製のケースとブレスレットによって、装着してしばらく経つと着けていることを忘れてしまうほどの快適さなのだ。
直径42.5mmのケースは数値上やや大きめに感じるが、ベゼルに幅があることでダイアル自体はコンパクト。さらにケースの縦の長さが47.1mmと控えめなため、腕上では小ぶりに見える。サファイアクリスタルベゼルの存在感はそれなりにあるが、ギラギラするような押しの強さではなく、透明感のある輝きによって嫌味な感じはない。極めつけは、9.2mmという薄さだ。シャツの袖口にもしっかりと収まるため、ビジネスシーンでも上品に着用することができる。

日常に溶け込む日本の伝統工芸品
タフソーラーや標準電波受信機能をはじめとする充実したスペックを誇るオシアナス。本作は実用時計としての盤石な基盤を持つオシアナスをベースとした、身に着けることのできる伝統工芸品なのである。
阿波藍によって3色に色分けされたマザー・オブ・パール製のインダイアルや躍動感あふれるスパイラルカットを施したサファイアクリスタルベゼル、ザラツ研磨をはじめとする手作業によって仕上げられたケースなど、その随所には日本の誇る職人技がふんだんに用いられている。他に類を見ないユニークなデザインながら決して奇抜ではない本作は、日常の中にそっと溶け込みつつも、手元に目をやる一瞬一瞬を豊かな時間へと変えてくれる存在なのだ。





