2026年、G-SHOCKの最高峰ラインである「MR-G」が、誕生30周年のアニバーサリーイヤーを迎えた。これまでも、節目のタイミングに記念モデルをリリースしてきたMR-Gが、今回、そのキャンバスに選んだのは「MR-Gフロッグマン」。特徴的な左右非対称のフォルムはそのまま、極海の氷柱とも呼ばれる自然現象“ブライニクル”に着想を得たデザインエレメントを新たに加え、MR-Gの記念モデルにふさわしい、力強くも優美な表情を作り上げている。

Photographs by Eiichi Okuyama
竹石祐三:編集・文
Edited & Text by Yuzo Takeishi
[2026年6月19日公開記事]
「MR-G」30周年を記念した特別仕様のフロッグマン
G-SHOCK初の本格ダイバーズウォッチであり、数あるラインナップの中でも常に高い支持を得ている「フロッグマン」。この独創的な左右非対称デザインを最高峰ラインである「MR-G」のクォリティで作り上げ、2023年に登場したのがMR-Gフロッグマン「MRG-BF1000R」だ。MR-Gフロッグマンはその後も、初代フロッグマンを想起させるカラーリングを施した限定モデルや、ゴライアスガエルをモチーフとしたモデルを発表してきたが、これに続いてリリースされるのが、MR-Gの誕生30周年を記念し、随所に特別な仕様を施した世界800本の限定モデル「MRG-BF1000EB」である。

タフソーラー。フル充電時約29カ月駆動(パワーセーブ時)。Tiケース(縦56×横49.7mm、厚さ18.6mm)。ISO200m潜水用防水。世界限定800本。121万円(税込み)。
商品ページ:https://casio.link/4xz3U7a
MR-Gが誕生したのは1996年。プロジェクトを主導したのは“G-SHOCKの生みの親”として知られる伊部菊雄氏だ。1990年代に入ると、G-SHOCKは耐衝撃性能を備えた樹脂ケースのマッシブなフォルムがストリートカルチャーに傾倒する若者に支持され、瞬く間に幅広いユーザーを獲得していった。こうした状況の中、当時G-SHOCKの企画・開発から離れていた伊部氏は社内で有志を募り、ビジネスパーソンに代表される大人のユーザーに向けたG-SHOCK──すなわち“壊れない金属製の腕時計”の開発を推進する。
こうして完成したのが「MRG-100」。ベゼルとケースの間に緩衝材と気密性を高めるためのガラスパッキンを挟み込み、ベゼルが沈むことで衝撃を吸収するバンパープロテクション構造を用いた、G-SHOCK初のフルメタルモデルだ。その後は一時、MR-Gの展開がシュリンクするものの、2010年代に入るとMR-Gを本格的に再始動させようという機運が到来。以後、“ジャパンスピリット”をキーワードに、日本の伝統工芸や日本発祥の先進素材を駆使したモデルを積極的にリリースし、国内はもとより、海外でも注目を集めている。

極海の氷柱“ブライニクル”を表現した先鋭的なベゼルの意匠
現在のMR-Gがターゲットユーザーに設定しているのは、「新しいことへの挑戦や創造的活動に価値を置き、アクティブなライフスタイルを好む大人の男性」。こうしたユーザーの琴線に触れるタイムピースに仕上げるべく、30周年記念モデルに選ばれたのが、G-SHOCKのDNAを色濃く継承し、タフネスへの卓越性を最も追求しているMR-Gフロッグマンだ。このモデルをベースに“極地への冒険”をテーマとした商品開発が進められ、デザインモチーフには“ブライニクル(Brinicle)”が採用されることとなった。
ブライニクルとは、南極や北極といった極海の海中でしか見られない自然現象のひとつ。海氷の下で生成される、海水から染み出した超低温かつ高塩分の塩水が、海中へと沈む過程でその周囲の海水を凍らせ、渦を巻きながら海底に向かって形成される氷柱で、“死の氷柱”や“氷の鍾乳石”とも呼ばれる。この荘厳な自然現象を腕時計に表現すべくパートナーに選んだのが、“華婆娑羅(はなばさら)”をコンセプトとした2021年発表のモデル「MRG-B2000BS」のベゼルを手掛けた、研磨職人の小松一仁氏だ。



カシオでは2017年の「MRG-G2000CB」で初めて、ベゼルにコバリオンを採用した。これは日本発のコバルトクロム合金で、プラチナに比肩する輝きと優れた耐傷性・耐食性を備える一方、純チタンの約4倍、ステンレススティールの約2〜3倍の硬度を持つ、加工難易度の高い素材でもある。そのためカシオでは、単にコバリオンを時計のパーツとして取り入れるのみならず、美観に優れたどのような意匠を実現できるかを研究し続けてきた。
今回の30周年記念モデルではブライニクルを表現するうえで、まず小松氏より、研磨が施された無数の面が渦を描くように構成されるボルテックスファセットカットの提案があり、これをベースとしながら、両者でディテールをブラッシュアップさせていった。もっとも、小松氏にとっては「決められたルールに従って渦を巻くように多面のカットを構成し、さらに面同士の稜線を際立たせることは大変だった」という。
事実、本作では氷柱が海中で渦を巻きながら成長していくような連続性を表現すべく、各面の大きさやヘアラインの方向をわずかに変えることで、面の煌めきが連なるように見せていることが分かる。硬質なコバリオンにこのような仕上げを施すためには、相当に繊細な研磨作業が必要であったことは想像に難くない。
所有する満足感を高めるスペシャルなディテール
ブライニクルを表現したベゼルのボルテックスファセットカットを象徴的エレメントとして、MRG-BF1000EBには、ほかにも多くの特別なディテールが盛り込まれた。
まず注目すべきが外装素材だ。これまでのMR-Gフロッグマンが、ケースとベゼルに深層硬化処理とDLC(ダイヤモンドライクカーボン)コーティングを施した純チタンを用いていたのに対し、本作ではケースおよび3時側と9時側のプロテクションカバーをはじめ、プッシュボタンやケースとストラップをつなぐロックピンに至るまで、軽量かつ高強度で、耐食性にも優れる64チタンを採用。しかも、64チタンにはTiC(チタンカーバイド)またはDLCコーティングを施して硬度と耐摩耗性を高めているのも、タフネスを追求するG-SHOCKらしい設計だ。
純チタンよりも硬く、加工難易度の高い64チタンを、あえて複雑な造形のMR-Gフロッグマンに採用したのは、何より「30周年記念モデルとして特別な1本にしたかった」から。そして「本作のテーマである“極地への冒険”がいかに過酷であるかを際立たせる」狙いがあったという。

また、MR-Gフロッグマンのデザインアクセントであり、プロテクションカバーを固定する役割を担う1時側と5時側のビスには、特別なモデルにふさわしくラボグロウンブルーサファイアをセット。過去にもMR-Gでは、都市コードリングに再結晶ルビーを用いたモデルが展開されていたが、プレシャスストーンの存在感がアピールされる本作のビスは、周年モデルに採用されるのに好適だ。
他方、ケースバックはレギュラーモデルを踏襲。64チタン製のスクリューバックに圧入されたサファイアガラスにはフロッグマンではおなじみである、潜水ガエルのキャラクターが描かれた。ただし、本作ではシリアルナンバーと「MR-G 30TH」のロゴがレーザー刻印されており、特別な1本であることをより実感できるようになっている。

そして、MRG-BF1000EBにはスペシャルボックスも付属する。ホワイトのデュラソフト製ストラップに合わせたオールホワイトのボックスは、日本を代表するラゲッジブランド、プロテカとのコラボレーションによるもの。ボックスには時計本体のほか、交換用の純チタン製ブレスレットと、ブレスレット交換に用いる専用工具も収納されるなど、記念モデルらしい充実のセット内容になっている。

プロフェッショナルツールとして信頼性の高い設計は踏襲
30周年記念にふさわしい贅沢なディテールを随所に盛り込みつつも、G-SHOCKの基幹性能である耐衝撃性と、MR-Gフロッグマンの本質であるダイバーズウォッチとしての性能は抜かりない。サンドブラスト仕上げが施されたブラックダイアルには、太い時分針とインデックスをレイアウト。蓄光塗料も塗布され、光の届きにくい深海などの暗所でも現在時刻や潜水経過時間が判読しやすくなっているほか、潜水中に操作しやすい大型のプッシュボタンを備えるなど、ダイバーズウォッチに不可欠な要素はしっかりと備わっている。
そして、MR-Gフロッグマンのもうひとつの特徴が外装設計だ。アイコンである左右非対称デザインをフルメタルで実現しながらも気密性を確保し、さらに最高峰シリーズにふさわしい研磨を細部に施すために、外装は70個以上のパーツで構成。アナログMR-Gに採用されるクラッドガード構造も踏襲され、3時側のリュウズとプッシュボタンには保護パーツを組み込んでモジュールへの衝撃を緩和させているほか、リュウズの緩衝材には耐水性の高いラバー素材を用いてダイバーズモデル向けに進化させている。
このように、複雑に構成されたモデルでありながら、ISO 6425規格に準拠した200mの防水性能を実現しているのは、カシオがフルメタルモデルにおけるタフネスを30年にわたって追求してきたからにほかならない。


価格はMR-G歴代最高となる121万円(税込み)。しかしながら、繊細な手作業によって仕上げられたボルテックスファセットカットの独創的なベゼルや、高強度な64チタンを贅沢に採用したパーツ、それらを駆使して外装が緻密に組み上げられている事実を知れば、その価格設定にもうなずけるはずだ。カシオの高度な時計製造技術がふんだんに盛り込まれたMRG-BF1000EB。MR-Gの誕生30周年を顕彰するにふさわしい、まさしく最高峰の1本である。
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