2026年で創業50周年を迎えるレイモンド ウェイルは、スイスでも稀少な同族経営の独立系ブランドである。2023年の「ミレジム」で時計界を驚かせた彼らの次なる一手は、時計見巧者をも唸らせる創業の1970年代を彷彿とさせるスポーティーウォッチであった!

ラグと一体化し丸みを帯びたトノー型ケースに、12・3・6・9時位置側面に設けられた4つの凹部等、随所に立体造形技術が施された現代のスポーツシックコレクション。出色は中央のイエローゴールドPVDとSSのコンビネーションモデルだ。自動巻き(Cal.RW4200)。26石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約41時間。直径38mm、厚さ9.95mm。10気圧防水。(右および左)SSケース。37万4000円(税込み)。(中)SS+イエローゴールドPVDケース。39万6000円(税込み)。
Photographs by Masahiro Okamura(CROSSOVER)
田中克幸:文
Text by Katsuyuki Tanaka(Atelier ADJET)
Edited by Yuto Hosoda(Chronos Japan)
クラシカル再考の次なる一手
レイモンド ウェイルの3代目CEO、エリー・ベルンハイムは「時計教養人」である。1982年生まれの彼は創業者の祖父、2代目の父の背中を見て育ち、時計作りのABCを「肌感覚」で知っている人物だ。これはマーケティング理論で時計の知見を頭で覚えた人間とは決定的に異なる。CEO就任9年後の2023年に発表し、同年のGPHG(ジュネーブ・ウォッチ・グランプリ)にてチャレンジウォッチ賞を受賞した「ミレジム」の外連味のなさは、彼の時計教養の深さを証明している。

ベルンハイムの深い知識と高い感性は、2025年11月発表の「トッカータ ヘリテージ」に続き、2026年6月発表の新スポーツコレクション「A.R.T.(アート)」で新たな華を咲かせることになった。A.R.T.とはA=「大胆さ(Audacity)」、R=「洗練された仕上がり(Refinement)」、T=「世代を超えて継承される価値と技術(Transmission)」の意味であり、これこそ幼少期より時計製造を肌で学んだベルンハイムの、1970年代へのオマージュとも言えるステンレススティール製スポーティーウォッチである。

1970年代のクォーツ危機は、機械精度が横並びになったスイス時計に「より自由なデザイン」という新ステージを与えた。ケース形状やダイアルデザインにアヴァンギャルドな新風をもたらしたのは、1920年代のアールデコ以来の革命であろう。その中のひとつに着用の時と場所を選ばないSS製のスポーツウォッチがあり、A.R.T.コレクションには、時計デザインの制約を取り払ったあの時代の自由な気風を感じる。 その要素は38mm径の伸びやかなクッション型ケースに見て取れるが、当コレクションは単に1970年代時計の再解釈に留まっていない。さらに、インテグレーテッドブレスレットの採用やベゼル側面に4箇所の溝を設けた立体造形、視認性に優れたダイアル設計等で、現代のシックなスポーツモデルへとアップデートしている点が重要なポイントだ。
独立系ブランドであるレイモンドウェイルは、クォーツ危機真っ只中の1976年に創業した強者だ。スイス時計産業の約70%弱が壊滅した時期によくぞ創業したと、その気概に敬服する。その彼らが1970年代の時計デザインに着目したことは、単なる懐古趣味では終わらない、あの時代を乗り越える現代のスポーツモデルを創るというメッセージさえも感じる。「A.R.T.」は、困難な時期に創業したレイモンド ウェイルだからこそ成し得た、現代のスポーティーウォッチコレクションである。
レイモンド ウェイル メタルブレスレットの歴史






