バーゼルワールド探訪記 圧倒的じゃないか!新しいオメガ シーマスター300m

LIFE編集部ブログ
2018.03.28
Photographs by Eiichi Okuyama and OMEGA

 バーゼルワールドではいろんな関係者に会う。会うと必ずどの時計が良かったか、という話題になる。筆者の答えは決まっている。今年はオメガの「シーマスター ダイバー 300m」だ。

 1993年に発表されたシーマスター 300mは、手ごろな価格とスタイリッシュなデザイン、それ以上に007で使われたことで、世界的なヒット作となった。関係者が言うように、これはオメガにとっての「ブレッド&バター」となったのである。ただし筆者は(たぶん多くの時計好きも同意してくれるだろう)、この時計のパッケージングを評価するが、欲しいとは思わなかった。というのも、作りが微妙に安っぽかったのである。エントリーだから仕方ないとはいえ、文字盤やブレスレットはどうにかならんのか、と思っていた。オメガの名を冠して、ピン留めのブレスレットはないでしょう。

 2011年のシーマスター 300mは、そういう意味で衝撃的な時計だった。ブレスレットがネジ留めになり、文字盤の質感も良くなり、ベゼルもセラミックス製に置き換わったのだから。加えてムーブメントは安定したCal.2500“D”だから、文句の付けようがない。以前クロノス日本版でも詳細に書いたが、“C”以降のCal.2500は実に素晴らしい。というわけで、2011年度版のシーマスター 300mはクロノス日本版でも褒めちぎったと記憶する。

 しかし、オメガの技術陣はこれでも納得いかなかったらしい。内外装を全面的に刷新して、新しいシーマスター 300mを作り上げた。これがどうしちゃったのというぐらい、良い時計なのだ。ベゼルだけでなく文字盤もセラミックスに置き換わり、ムーブメントはマスターコーアクシャルのCal.8800に進化し、加えて言うと、ブレスレットもマトモになったどころか、かなり良い。当然、ちゃんとしたネジ留めだ。

 ちょっとばかりブレスの話をしたい。かつてのシーマスター 300Mは、弓管が飛び出しており、装着感がいまいちだった。オメガが言うところの「Tシェイプブレスレット」である。対して本作は、弓管の張り出しを押さえ、付け心地を改善した。この新しいブレスレットを、オメガでは「Uシェイプブレスレット」という。ラバーストラップも秀逸で、定革の部分になんとチタンの中枠を埋め込んでいる。一昔前のオメガは、外装にほとんど気を遣わなかった。しかし、1997年以降は毎年質を上げてきた。今年のシーマスター 300mはその帰結だろう。もちろんバックルにはエクステンションが付いており、より厳密な装着感を得られる。フィットマニアの筆者も試してみたが、文句なしだった。もっともバックルはやや厚いため、デスクワークには向かないだろう。エクステンションを加えたことのトレードオフである。

 文字盤とベゼルも凝っている。以前はポリラッカーだったが、本作はセラミックス製になった。副社長のモナション氏曰く「絶対に経年変化しないため」。また一部のモデルは、ベゼルの白い部分にホワイトエナメル(ペイントではなく、本物のグランフーだ)を埋め込んである。理由はやはり「何年使っても色あせないため」らしい。正直、あのオメガが、ここまで良い外装を作るとは思ってもみなかった。

 しかもである。この時計、価格が驚くほど安いのだ。定価は、ブレスレット付きで52万、ラバーベルト付きで51万(いずれも税別)。確かに2011年モデルより値段は上がったが、別物と言える質感を考えれば妥当以上だろう。社長のアッシェリマン氏曰く「もっと高くできるけど、オメガだから価格は抑えたかった」とのこと。ダイバーズウォッチにまったく興味のない筆者でさえ欲しくなったのだから、オメガ恐るべしではないか。

 今年のオメガには、他にもいろいろお勧めがある。ただ、個人的な好みから選ぶなら「シーマスター オリンピック コレクション」の18Kまたはプラチナモデルである。文字盤と針以外は、SS製のオリンピック コレクションに同じ。ムーブメントもやはり超耐磁のマスタークロノメーターである。しかし、これらのモデルにはなんとドーム型のエナメル文字盤が与えられたのである。普通に考えて、これはあり得ない。

 エナメル文字盤は金や銀の土台の上に釉薬をのせ、800度~1000度の温度で焼くことでできあがる。高温で焼くため、普通は土台がゆがむし、釉薬も流れてしまう。そのため、ドーム状のエナメル文字盤は理論上作れないとされてきた。ではオメガはどうやって、エナメル文字盤をドーム状に仕立てたのか。

 モナション氏曰く「ベースを真鍮や銀ではなく、セラミックで作った」とのこと。具体的には、ドーム状に成型したセラミックスの土台の上に、何回にも分けて釉薬を載せるのだという。セラミックスは高温で熱してもゆがまないし、何度も釉薬をのせるため、加熱の際に垂れることもない。さらに、土台が変形しないため、文字盤の裏に釉薬を塗る必要がないのだ。つまり、文字盤を薄く作れるため、既存のモデルにそのまま載せられる。しかも、エナメルの出来が実にいいのだ。表面にはほとんど“バブル”がなく、面の歪みもかなり小さい。その上に、プリントではなくエナメルで印字をのせたのだから、この時計は、文字盤だけでも語る価値がある。

 これすごいなーと感想を述べたところ、モナション氏が隠し球を見せてくれた。なんと、シーマスター オリンピック コレクションのPtケース×ブラックエナメル(!)モデルだ。ブラックエナメルは歩留まりが悪すぎるため、現在カタログにラインナップするメーカーは、パテック フィリップ、A.ランゲ&ゾーネ、シャネルにジャケ・ドローぐらいしかない。そこにオメガは殴り込みをかけたのである。さすがにパテック フィリップやシャネル並みとは行かないが、ブラックエナメル文字盤の出来映えはかなり良い。限定100本なのは惜しいぐらいだ。

 ともあれ、どーしちゃったのってぐらいすごかった2018年のオメガ。正直、シーマスター 300mを欲しくなったぐらいだからよほどだと思う。オメガに関しては書きたいことがいろいろあるので、6月3日売りの本誌でも詳細を載せる予定です。(広田雅将)