これは本命ウォッチだろ、シャネルの“新しい”J12

2019.03.28
J12


 バーゼルワールドで発表されたシャネルのJ12。見た目は今までのJ12と何も変わらない。しかしこれは、ほとんど別物と言っていいほど進化した。大きく変わったのは中身である。

Cal.12.1

 以前、シャネルのJ12が載せていたのは、ETA製の自動巻きだった。シャネルやショパール、ブライトリングあたりは、精度の高いトップか、あるいはクロノメーター仕様を載せているとはいえ、パワーリザーブが短いのは否めなかった。

 そこでシャネルは、新しいムーブメントをJ12にぶっこんできたのである。搭載するのは、チューダーやブライトリングが採用した、3針の自動巻きである。パワーリザーブは約70時間。しかもショックに強いフリースプラングとなり、ヒゲゼンマイも、シャネル曰く“帯磁しないニッケル製に変わった”とのこと。つまり、シャネルのJ12は、セラミックス製の外装とあわせて、最強の実用時計になってしまったわけだ。使おうと思えば、スポーツシーンでも十分使えるに違いない。中身は完全に別物だ。


 それに伴い、外装も微妙に改良を受けた。全体の7割を変えたそうだが、あえて大きく変えていないのがシャネルらしい。一番目立つポイントは、リュウズの張り出しを抑えた点。以前はスポーツウォッチよろしく、リュウズが大きく飛び出していた。対して今回は、リュウズの先端にあるセラミックスのカボション(丸い突起)を抑えることで、リュウズを小さく見せた。わずかな変化だが、スポーツウォッチぽさが抑えられ、ビジネスでも使える性格が強調された。

 ケース構造も異なる。以前のJ12は、ケースが3ピースで、裏蓋はSS製だった。対して“新しい”J12は、ミドルケースと裏蓋を一体化した、2ピース構造になった。理由はシンプルで、ムーブメントが大きく厚くなったためである。今までのように、裏蓋を止めるネジを立てる場所がなくなった結果、ケースと裏蓋を一体成型するようになったわけだ。これにはメリットがある、ケース全体がセラミックス製に変わった結果、単純に金属アレルギーが起こりにくい。シャネルはそれを狙ったわけではないが、少なくとも、市場にあるほとんどすべての時計より、J12はアレルギーを起こしにくいだろう。

ムーブメントの変更に伴い、ケースはわずかに厚くなった。重いムーブメントとあわせて、装着感は悪くなりそうなものだが、そうなっていないのはさすがシャネルである。ブレスレットのコマをわずかに大きくし、それぞれを湾曲させることで、むしろ時計と肌への接触面は増え、着け心地は改善された印象を受ける。

完全に別物となった、新しいJ12。正直、これで100万円なら、フーンとしか言いようがない。しかし今回、シャネルは今までのモデルとあまり変わらない値付けでリリースした。ラフに使える実用を時計をお探しの方は、ぜひJ12を手に取られるといい。シャネルというメゾンの作るものに対して、こういう表現が正しいかはさておいて、これは非常にコスパの高い、現行でも最良の実用時計のひとつである。
(広田雅将)