クロノスドイツ版編集部が厳選 オメガBEST5

FEATURE本誌記事
2023.09.22

ブランド、付加機能、価格といったさまざまな観点から、クロノスドイツ版編集部のエディターが選ぶベストウォッチを紹介する。今回はアレクサンダー・クルップが選ぶオメガのマイ・ベスト5だ。

アレクサンダー・クルップ:文 Text by Alexander Krupp
オメガ:写真 Photographs by Omega
岡本美枝:翻訳 Translation by Yoshie Okamoto
Edited by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2023年9月号掲載記事]


クロノスドイツ版 アレクサンダー・クルップが選んだ、5本のBESTオメガ

オメガのファクトリー

 私はオメガファンである。だが、この感情は好きなミュージシャンを熱愛するグルーピーのように、無条件かつ妄信的というわけではなく、磨き抜かれたパフォーマンスに対する畏敬の念によるものだ。オメガは間違いなく良い仕事をしている。そして、それはデザインや技術においてだけでなく、感情をかき立てるテーマと時計を結びつける達人でもある。ジェームズ・ボンドやアポロ計画の宇宙飛行士、さらに、ジョージ・クルーニーのようなハリウッド・スターを味方につければ、間違うことはないだろう。だが、オメガがこれで満足することはなかった。ビエンヌを本拠とするこのブランドは、時計技術の発展において常に先駆的であろうとし、その役割を果たしてきた。過去10年間、オメガは耐磁性を備えたムーブメントの開発や、それを実証したスイス連邦計量・認定局(METAS)による認定により、時計の耐磁性の分野において主導的な地位を築き上げている。

 特に感動するのは、オメガが開発した革新的な技術を一部の「トーキングピース」に限定して採用するのではなく、常に幅広いモデルで展開している点である。コーアクシャル脱進機(1999年発表、2007年改良)、シリコン製ヒゲゼンマイとチタン製テンワ(2008年発表)、最大1万5000ガウスという超高耐磁性能(2013年発表、2015年より認定)といった最新技術は、基本的にすべてのコレクションで採用されている。今回の超個人的なベスト5の3番目に紹介する時計は例外だが、こうした場合には必ず明確な意図と正当な理由がある。

 オメガファンとして唯一、悲しいのは、価格の高騰である。ここで紹介する5本のうち4本が100万円を超える価格で、1本がかろうじてその一歩手前である。前述のように秀逸な機能の数々を考慮すれば理解できるとはいえ、高額であることは確かである。

1. シーマスター 300 ブロンズゴールド
美の極みを体現するレトロダイバーズ

シーマスター 300 ブロンズゴールド

シーマスター 300 ブロンズゴールド
自動巻き(Cal.8912)。38石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。ブロンズゴールドケース(直径41mm、厚さ14.4mm)。300m防水。190万3000円(税込み)。

 まさに美の極みだ。格調高くノスタルジックな「シーマスター 300」は、1957年に発表されたオリジナルモデルの魅力的なデザインを余すところなく保持している。

 2014年にリリースされたこのレトロな時計は、21年に改良された際、斬新なチューンアップが施された。シーマスター300 ブロンズゴールドは、金の含有率が37.5%のブロンズで出来ているのだ。主成分の銅に加え、ゴールドと少量の銀とパラジウムを含むオメガ独自のこの合金は「9Kブロンズゴールド」と呼ばれている。オメガによると、ブロンズゴールドは時計に使われる通常のブロンズよりも経年劣化がゆっくりと進行し、酸化して緑青を発生することがないため、長時間着用しても肌や衣服を汚すことがないという。

 個人的には、この素材の持つ技術的なメリットよりも、どちらかというと美しい色調の方に魅力を感じる。ブロンズケースとそれにふさわしい色の蓄光塗料、針、ブラウンの文字盤、セラミックス製ベゼル、そして、やや明るい色味のカーフスキンストラップと、すべてが見事に調和している。シーマスター 300はこれまでも常に美しいモデルだったが、これほど完成されたモデルは初めてだろう。

2. シーマスター アクアテラ
デイリーユースで活躍するツールウォッチの完成形

シーマスター アクアテラ

シーマスター アクアテラ
自動巻き(Cal.8900)。39石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径41mm、厚さ13.2mm)。150m防水。90万2000円(税込み)。

クロノスドイツ版編集部で2016年に「シーマスター アクアテラ」のテストを行って以来、私は、このモデルが控えめながらも、オメガのデイリーユースモデルにおけるヒーローだと確信している。水深150mの水圧に耐える防水性を備え、直径41mmという使いやすいサイズ、溝模様が施された文字盤、オメガ特有のアローハンド(分針)などの特徴により、他ブランドの時計と見間違えることはない。

 また、内部機構についても妥協がない。オメガのほほすべてのムーブメントと同様、搭載する自動巻きムーブメント、キャリバー8900もスイス連邦計量・認定局(METAS)からマスター クロノメーター認定を受けており、最大1万5000ガウスという超高耐磁性や、日差0~+5 秒/日以内という精度も保証されている。この高い精度は、オメガ独自のコーアクシャル脱進機を構成する複雑な形状と構造のアンクルとガンギ車、そして、フリースプラング方式で緩急調整されるシリコン製ヒゲゼンマイにより実現している。

 個人的には、外側2列がサテン仕上げ、中央の列がポリッシュ仕上げのステンレススティール製3連ブレスレットがアクアテラに一番似合うように感じるが、この他にもレザー、ファブリックをはじめ、個性的なデザインのラバーストラップなども用意されている。

3. スピードマスター キャリバー321
アポロ計画で使用された伝説のムーブメント

スピードマスター キャリバー321

スピードマスター キャリバー321
手巻き(Cal.321B)。17石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約55時間。SSケース(直径39.7mm、厚さ13.71mm)。50m防水。221万1000円(税込み)。

 オメガのベストモデルと聞かれたら、時計愛好家の多くが「スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーター」を挙げるだろう。もっとも至極な意見である。だが、歴史とレトロ時計をこよなく愛する私にとっては、これよりもエキサイティングなモデルがある。ムーブメントに至るまで、実際に月に行った時計を限りなく忠実に再現したモデル、「スピードマスター キャリバー321」である。

 スピードマスター ムーンウォッチ マスター クロノメーターが絶え間なく進化を遂げてきたモデルである一方、外見も中身もアポロ宇宙飛行士の装備品と同じように見えるモデルを手に入れたいと望むなら、スピードマスター キャリバー321こそお勧めしたい。そのオリジナルにしてオメガのレジェンドであるRef.ST 105.003は、宇宙開発競争が繰り広げられた時代に活躍した。1965年6月にアメリカ人として初めて宇宙遊泳を行ったエドワード・ホワイトも宇宙服の上から着用しており、72年12月に月面着陸した最後の人類、ユージン “ジーン” サーナンも携行していた。

 月面ミッションに同行したすべてのスピードマスターに共通するのは、キャリバー321が搭載されていた点である。68年には技術面で改良が加えられた後継機、キャリバー861がすでに登場していたが、アポロ計画に認定された時計には搭載されておらず、月に行くことはなかった。だからこそ、今日、キャリバー321と呼ばれる復刻モデルは特別な存在なのである。オメガはキャリバー321再生産のための特別部門を設置し、2年の歳月をかけてムーブメントと時計を開発した。ここで、当時の設計図を研究し、コンピュータートモグラフィーを用いてユージン・サーナンの時計を解析した。

 その成果として、オリジナルモデルと同じ39.7mmのケース径を備えた復刻版が誕生した。オリジナルのスピードマスターはケースがシンメトリーに設計されており、リュウズとプッシャーを守るための側面の膨らみはない。現行モデルにおける変更点、もちろん “改良点” は、デリケートなアルミ製リングに代わり、エナメルで印字された傷に強いセラミックス製ベゼルを採用したこと。そして、アクリル製風防とクローズドケースバックではなく風防にも裏蓋にもサファイアクリスタルが使用されている点である。シースルーバックはオリジナルを忠実に再現するという観点から見ると正しくないかもしれないが、私にとっては欠かせない要素である。

 この時計がベスト5に入るのは、美しいムーブメントを見ることができるのも理由のひとつだからだ。キャリバー321は、開発時に歴史的背景が重視されたことから、例外的に耐磁性能は備えておらず、マスタークロノメーターとして認定されていない。だが、これほど美しい例外なら許されるだろう。

4. スピードマスター ’57
彩り豊かにコンパクトに、もうひとつのスピードマスター

スピードマスター ’57

スピードマスター ’57
手巻き(Cal.9906)。44石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(直径40.5mm、厚さ12.99mm)。50m防水。(上)130万9000円(税込み)。(下)136万4000円(税込み)。

 昨年、「スピードマスター ’57」(1957年発表の初代スピードマスターをモチーフにしたモデル)がアップグレードされ、私を虜にした。直径41.5mm、厚さ16.2mmだったケースは直径40.5mm、厚さ12.99mmとやや小ぶり、かつ先代モデルよりかなり薄くなり、レトロな時計がデイリーユースに最適な時計となった。時刻表示、クロノグラフ、日付表示といった機能は変わらないが、アップグレード後は主ゼンマイを手で巻き上げなければならなくなった。オリジナルも手巻きであり、新作は約60時間のパワーリザーブを備えていることから、個人的にはこの瞑想的な儀式も悪くないと思っている。

 新型スピードマスター ’57でエキサイティングなのは、これまでの黒文字盤とヴィンテージ調発光文字盤のバリエーションに加え、白いスーパールミノバを使用したグリーン、レッド、ブルーの文字盤モデルも用意されていることである。個人的にはブルーの文字盤が特に好みだが、主張の明確な赤文字盤もこの時計にはよく似合う。

5. シーマスター プロプロフ
実は扱いやすい “海の怪物”

シーマスター プロプロフ

シーマスター プロプロフ
自動巻き(Cal.8912)。38石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約60時間。SSケース(縦55×横48mm、厚さ18.26mm)。1200m防水。158万4000円(税込み)。

 写真で見ただけでは、この時計に惚れ込むことは想像し難いかもしれない。いかつく、不恰好にすら感じる。だが、数年前にグレーのセラミックス製ベゼルを備えた「シーマスター プロプロフ」を手に取ってテストする機会を得てからは、このモデルに対する評価を改めざるを得なかった。ふたりの職業ダイバーと共に行ったこのアクションテストで、プロプロフはあらゆる観点で水中における真価を証明してくれた。水深1200mの水圧に耐える高い防水性、ベゼル全周に施された連続分目盛り、明確な判読を可能にする夜光針など、まさにプロ仕様である。機能面においても、回転式ダイバーベゼルを解除するための大きなセーフティーボタンや、 ねじ込み式リュウズを解除する際に同時に動く堅牢なリュウズガードは、まさに感動的である。

 潜水テストで優れた性能を確認した後、私は、一見かさばるこのモデルを数日間着用し、精度と日常での使い勝手をテストしてみたいと思った。当初、数日間のつもりだった着用テストは、最終的には数週間にも及んだ。チタンは軽く、ミラネーゼブレスレットはしなやかで、セーフティーフォールディングクラスプに内蔵されたエクステンションは快適に操作でき、“海の怪物” の着用感は驚くほど快適だった。ケースは縦55×横48mmと巨大で、おまけに厚さが18.26mmもあるが、文字盤が小さいので着用時も不恰好には見えなかった。プロプロフは100点満点中92点を獲得。これは、それまでに私が評価してきたモデルの中で最高得点である。



Contact info: オメガお客様センター Tel.03-5952-4400


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