復刻モデルの純度と手法

FEATURE本誌記事
2020.10.07

秀作機の完成度を徹底検証

近年に登場した秀作を眺めてみると、復刻、復古、アニバーサリーなどのコンセプトが多く目につく。共通するのは、自社のアーカイブに根差した正統性だろう。これらを仮に「復刻モデル」としてまとめ、仔細に見てゆくと、“明確なオリジナル”を定めることなく、意外に奔放な手法が盛り込まれていることに気付いてくる。では復刻モデルが持つべき“純度”とは、何によって規定されているのだろうか?

吉江正倫、奥山栄一:写真 Photographs by Masanori Yoshie, Eiichi Okuyama
広田雅将、鈴木裕之(本誌):取材・文 Text by Masayuki Hirota, Hiroyuki Suzuki (Chronos-Japan)
この記事は 2012年8月発売の9月号に掲載されたものです。


オーデマ ピゲ 「ロイヤル オーク」

40年目の進化を遂げた純粋なる〝復刻モデル〟の姿
誕生から40周年を迎えたロイヤル オーク。それを機に“復刻モデル”として名高いRef.15202STに、初代の意匠に準じたブラッシュアップが加わった。しかし、傑作の誉れ高いこの復刻版でさえ、オリジナルのラインを忠実になぞっているわけではない。では何がこのモデルを名機たらしめているのだろうか?

ロイヤル オーク 復刻モデル

オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク」復刻モデル
ロイヤル オークの40周年を記念した最新の復刻モデル。ダイアルは1972年製の初代モデルに範を取り、APロゴを6時上に移動。手彫りのタペストリーも、格子が小さいオリジナルに忠実なパターンになった。自動巻き(Cal.2121)。36 石。1万9800振動/時。SS(直径39mm)。183万7500円。問/オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000

鋭角なエッジが織りなす特徴的なプロファイル。ただし初代に比較して、ケース自体とベゼルの厚みがやや増している。2ピース構造のままトランスパレント化するためか、“反り”が緩やかになり、直線的な意匠が際立った。

見返し部分の造形は、特にケースの薄さを強調する部分。風防とダイアルのクリアランスも極めて小さく、見返しは意図的にポリッシュされている。立体的な針とバーインデックスは18KWG製。ロゴの書体は現行のもの。

 出版の世界では、復刻とは原本に忠実に、〝版を作り直すこと〞を指す。時計で言えば、金型を新規に作り起こすということだ。これを逆から捉えれば、オリジナルと同じものは、決して作り得ないという結論に至る。この稿は良作を多く生んだ「復刻モデル」と、それに準ずる意匠を対象に、〝純度〞という観点から完成度を探ろうとするものだ。殊更に字義を引いたのは、たとえオリジナルと寸分違わぬ金型ができたとしても、それを至上としないことを明言しておきたかったからだ。では高純度の復刻モデルとは何か? その結論はまだ先でよい。

 今年40周年を迎えたロイヤル オークは、自ら復刻モデルを名乗る「真正のレプリカ」であり、その完成度の高さゆえに、多くがその背景にあるオリジナルの影を見てしまう。つまり完成度の高さ=再現度であることを疑わないのだ。しかし直系は、造形に手が加えられた1990年の「15002ST」であり、間に92年の「ジュビリー(14802ST)」を挟んで、現行の「15202ST」へと繋がる。強調したいのは、ディテール自体は刻々と変化を重ねているにも係わらず、あたかもオリジナルがそこに存在しているかのような感覚である。

 40周年のロイヤル オークは、ダイアルを初作に忠実に改めた。タペストリーのパターンやインデックスの配置は、久しぶりに初作の意匠に回帰したのである。その反面、バックルは装着感を高める三つ折れタイプを初めて採用した。しかしそれで〝純度が損なわれた〞と感じる愛好家はいないと断言できる。その機微こそ、これから復刻モデルの純度を測ってゆく道標となるだろう。 (鈴木裕之:本誌)

92年のジュビリー以降、モデルチェンジ毎に意匠が変更されてきたローター。40周年モデルは、中央部にポリッシュされたAPロゴを配し、両側を大きく肉抜きしたシンプルなものに。

40周年の復刻モデルから新たに導入された3つ折れタイプのバックル。工作精度も高く、ロゴの部分はレーザーエッチングで加工されている。装着した際の安定感が大きく向上した。