チューダーの人気モデル「ブラックベイ ダーク」を検証

FEATUREWatchTime
2021.02.12

ブラックカラーのダイバーズは、暗い深海へのダイビングに最適であるだけでなく、陸に上がってもクールな迫力を放つもの。オールブラック・バージョンとしてチューダーの人気モデルである「ヘリテージ ブラックベイ ダーク」を検証する。

Originally published on watchtime.com
Text by Alexander Krupp
Edit by Tsuyoshi Hasegawa
2020年1月23日掲載

チューダーの「ブラックベイ ダーク」

 ここ数年、チューダーの「ヘリテージ ブラックベイ」は、注目すべき魅力的なコレクションとして成長してきた。2012年にはレトロ調のルックスに加え、赤色のダイビングスケールベゼルを備えたステンレススティールモデルとして登場。その後2014年には、より控えめなブルーの回転式ベゼルを擁したモデルが発売され、さらに1年後には一番シンプルなブラック・バージョンが相次いで発表されたのである。

 チューダーは2016年に、改良を施した「ヘリテージ ブラックベイ」のブロンズ製に加え、非常にスポーティにして全体をブラックで染め上げた36㎜ケースモデルをラインナップし、ブランドとして新たなスタートを切った。さらに「ヘリテージ ブラックベイ」のすべての新作と既存モデルが、それまで使用されていたムーブメントETA2824に代わり、自社製のMT5602を搭載することになった。(MT5602は2016年発表)

ブラックベイ ダーク

文字盤はマット仕上げ。回転式ベゼルにはツヤのあるアルミニウムトラックが添えられる。

 多彩なストラップやブレスレットをラインナップしているところも大きなポイントだ。それぞれのモデルは、3連のステンレススティール製ブレスレット、エイジドレザーストラップ、またはファブリックストラップから選択することができる。特に印象的であるのは、2016年にチューダーから発表された36㎜径モデルに合わせられた、“アーバンカモフラージュ”のファブリックストラップだ。

 今回検証するのは、ブラックカラーかつヘアライン仕上げのPVD加工が施された、ケースと同素材のステンレススティール製ブレスレットのモデル。マット仕上げの文字盤と、輝くアルミニウムトラックのベゼルが際立った対比を生みだす一本だ。4,000ドル以上のプライスが付いた時計であることを考慮すると、ベゼルリングがセラミックではないためスクラッチが入りやすいという事実は見逃し難い。

装飾を最小限に留めた、安定感と機能性を兼備する自社製ムーブメント

 色々な要素を持つ「ヘリテージ ブラックベイ」だが、全体的に見てポジティブな特徴はムーブメントにあると言える。特にチューダーならではの精度と安定感を備えた伝統的な価値には注目すべきである。ロレックスの弟分であるこのブランドは、すべてのムーブメントにスイスのクロノメーター検査機構であるC.O.S.C.の審査を受けることで、基本的な期待をすでに満たしている。独自の検査基準に加え、C.O.S.C.認定の取得には、時計の日差が-4秒から+6秒に収まることが求められており、それだけでもかなり優秀と言うことができる。

 今回の検証により、機械測定での精度は確認されているが、公式検査とは対照的に6姿勢差での精度を計ったところ、3時右の姿勢で規定値をわずかに外れてしまう遅れの傾向が見られた。この姿勢は時計着用時に時刻を確認する動作以外に日常生活ではほとんど見られないが、この姿勢はワインディングマシーンで自動巻き時計を保管する際に基本的に取られるものでもある。ワインディングマシーン上では何時間も垂直姿勢となるからだ。

MT5602

チューダーのMT5602は、C.O.S.C.のクロノメーター検定に準拠したムーブメントだ。

 自社製ムーブメントMT5602が備える様々な技術的財産は、チューダーのブランド哲学にさらなる深味を添えている。まず最初に挙げられるのが、強固と言える6.5㎜ものムーブメント厚。衝撃によるわずかな機能的問題を防ぐ要となっている。次にテンプがコックによって片側だけから支えられているのではなく、ストレートなブリッジにより両端を安全に固定されている点が挙げられる。3つめはヒゲゼンマイの変形によりもたらされる不規則性に加え、衝撃が引き起こす偏差を未然に防ぐため、シリコン製ヒゲゼンマイを採用している点だ。

 他にも品質面に関し、この自社製ムーブメントは70時間という長いパワーリザーブを誇り、4本のネジで構成されるフリースプラングのテンワを備えている点も見逃せない。つまり本機がかつて搭載していたETA製ムーブメントのように、チラネジの長さを調整して行う必要がなくなったのだ。チューダーはETA2824を採用していたときも精密なレギュレーターを使用していた。しかしより安定性が得られるフリースプラングへのアップデートは、自社製機械への移行によってのみ可能であった。


ブレスレット先端には機能的なフォールディングクラスプとセーフティロックを装備

 チューダーはムーブメントの装飾には、限られた努力とコストのみを掛けている。しかしこれは信頼性のある技術をリーズナブルな価格で提供するという哲学に合致している。機械式時計の愛好家は(適正な道具を使用して)しばしばケースバックを開けようと試みる。しかしそこに見えるのは、最小限の装飾と限られたオープンワーク、それにチューダーの名を刻んだヘアライン仕上げのローターである。

 「ヘリテージ ブラックベイ ダーク」において、チューダーはデイト表示を省いているが、これはポジティブな変化と見て取るべきだ。このスポーティなデザインの時計は、デイト表示を備えていないチューダーの1954年発表の「オイスター サブマリーナ」の伝統を踏襲している。クリーンで装飾性のないシンプルな文字盤は8つの丸形と3つの長方形、そして1つの三角形のアワーマーカーが配されている。よく目立つ特徴的な“スノーフレーク”シェイプの時分針は、チューダーが1969年に発表した「サブマリーナ」の第二世代に見られるものだ。1958年当時同様に、現在のモデルも200m防水となっている。ダイビング黎明期において、この数字は非常に高い価値を有しており、現代のダイビングを楽しむ人たちにとっても充分な性能と言えるのだ。

 このように概観すると「ヘリテージ ブラックベイ ダーク」は、様々なクラシックモデルの優れた部分を融合しつつ、スポーツウォッチの最新トレンドであるカジュアルブラックにてパッケージしたモデルであることが分かる。ビーチバーにてダイビングの歴史を語る際の小物としてマッチしているだけでなく、実際のダイビングへの使用でも極めて有用なのである。

ねじ込み式のリュウズには、チューダーのバラのエンブレムがあしらわれている。