VACHERON CONSTANTIN LE TEMPS DES CONNAISSEURS

FEATURE本誌記事
2020.02.03

ヴァシュロン・コンスタンタンが擁する5つの主要コレクション。スタンダードに位置付けられる“デイリーラグジュアリー”から、ドレス、スポーティ、ハイコンプリケーションまで網羅するそのラインナップは、うるさ型の“コニサー”たちの中にも、熱狂的な支持層を築き上げている。
ある日、ある時……。世界中の異なった5つのタイムゾーンで同時に起こった情景を切り取りながら、ヴァシュロン・コンスタンタンが持つ本質的な魅力に迫ってみたい。

オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー

オーヴァーシーズ・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー
2016年初出。発表当初は18KWGケースのブティック限定モデルのみだったが、18年に18KPGケースが追加されてレギュラーラインナップとなった。往年の「222」も搭載した2針の超薄型ムーブメントに永久カレンダーモジュールを追加。自動巻き(Cal.1120QP/1)。36石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径41.5mm、厚さ8.1mm)。50m防水。アリゲーターストラップの他、ラバーストラップ、18KPG製フォールディングバックルが付属。768万円(上記に加えて18KPG製ブレスレットが付属する場合は944万円、シルバーダイアルのみ)。
星武志:写真 Photographs by Takeshi Hoshi (estrellas)
石川英治:スタイリング Styling by Eiji Ishikawa (TABLE ROCK STUDIO)
鈴木裕之:文 Text by Hiroyuki Suzuki


OVERSEAS

濃密なディテールワークが凝縮されたスポーティラグジュアリーの代表格

 シリーズ初となるトランスパレントバックの採用や、新機軸のインターチェンジャブル式のストラップなどを盛り込んで、第3世代へと進化を遂げた現行の「オーヴァーシーズ」。ラッカーフィニッシュを基調とするダイアルの複雑さは、決して他の追随を許さない。2019年には初のハイコンプリケーションモデルをスティールケースで展開し、大きな話題を呼んだ。

in Singapore
am9:37 | UTC+0800 |

 シンガポール、午前9時37分。ビジネストリップの相棒として連れ出したのは「オーヴァーシーズ」。年間平均気温が26〜27℃に達する高温多湿のこの国では、インターチェンジャブルのストラップが何より有り難い。ヴァシュロン・コンスタンタンの創業222年を祝し、当時新進気鋭のヨルグ・イゼックにデザインワークが託された「222」(1977年発表)を源流とするこのモデルは、1996年に「大海原を越える」という新しい名を与えられると同時に、よりヘビーデューティなスポーティウォッチとして生まれ変わっている。スティール製を含むモノブロックケースにねじ込み式のベゼルを組み合わせた222は、バックケースを独立させた3ピースケースのオーヴァーシーズに至って、スポーティウォッチに相応しいタフネスを身に付けたのだ。しかし同社がオーヴァーシーズに求めたのは、トラベルウォッチとして必要十分なタフさであり、過剰なスペック偏重主義とは無縁の、スポーティラグジュアリーの代表格となっている。その性格は2016年に発表された第3世代オーヴァーシーズにも色濃く受け継がれており、よりソフィスティケートされたケースデザインに、前述したインターチェンジャブルストラップを初めて組み合わせたことで、実用性も大きくアップしている。特筆すべきはダイアルの仕上げで、基本的には全モデルがラッカーフィニッシュとなるが、下地の複雑さは他の追随を許さない。19年にはコレクション初となるペリフェラルローター式の自動巻きトゥールビヨンが、スティールケースで展開開始。スティールケースへの複雑系ムーブメント搭載ということ自体が大きな事件だった。

オーヴァーシーズ

オーヴァーシーズ

2016年初出。クロノグラフのCal.5200と基本設計を共有する、インダイレクトセンターセコンド仕様の3針モデル。同社初となるツインバレルのムーブメントは、ロングパワーリザーブよりも精度の安定に主眼を置いた設計。マルテーゼクロスをアレンジした特徴的なベゼルデザインは、この第3世代から6葉に改められた。自動巻き(Cal.5100)。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。18KPG(直径41.0mm、厚さ11.0mm)。150m防水。アリゲーターストラップの他、ラバーストラップ、18KPG製フォールディングバックルが付属。360万円。

オーヴァーシーズ・デュアルタイム

オーヴァーシーズ・デュアルタイム

2018年初出。センター配置された12時間表示の副時針と、9時位置のAM/PM表示の組み合わせで第2時間帯を表示する。6時位置のインダイアルはポインターデイト表示。2019年に発表されたばかりの新色ブラックダイアルは、ブラックガルバニックに透明ラッカーを重ね、表面を研ぎ出して仕上げる。自動巻き(Cal.5110 DT)。37石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約60時間。SS(直径41.0mm、厚さ12.8mm)。150m防水。SS製ブレスレットの他、アリゲーターストラップ、ラバーストラップ、SS製フォールディングバックルが付属。246万円。

オーヴァーシーズ・トゥールビヨン

オーヴァーシーズ・トゥールビヨン

2019年初出。ペリフェラルローター式のトゥールビヨンを搭載するオーヴァーシーズ初の超複雑系モデル。SSにこうしたムーブメントが搭載されること自体が極めて珍しい。オーヴァーシーズのブルーダイアルは、ブルーガルバニックの上から半透明のブルーラッカーを重ねる。自動巻き(Cal.2160)。30石。1万8000振動/時。パワーリザーブ約80時間。SS(直径42.5mm、厚さ10.39mm)。50m防水。SS製ブレスレットの他、アリゲーターストラップ、ラバーストラップ、SS製フォールディングバックルが付属。時価(取材時の参考価格1136万円)。

オーヴァーシーズ・クロノグラフ

オーヴァーシーズ・クロノグラフ

2016年初出。インダイレクト式のスモールセコンドに垂直クラッチを組み合わせた、野心的な設計の自動巻きクロノグラフを搭載。そのため2番車のオフセット量も大きくなるが、針飛びなどは皆無。しっとりとした質感のシルバーオパーリンダイアルは、銀地のガルバニック加工の上に透明ラッカーを重ねる。自動巻き(Cal.5200)。54石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約52時間。SS(直径42.5mm、厚さ13.7mm)。150m防水。SS製ブレスレットの他、アリゲーターストラップ、ラバーストラップ、SS製フォールディングバックルが付属。292万円。


PATRIMONY

ケースプロポーションの黄金律へと回帰したミニマリズムのアイコン

現行ラインナップの中で、最もプレーンなディテールワークを持つ「パトリモニー」。ミニマルに徹し切ったシンプルな意匠だが、そのプロポーションはアイコニックなヴァシュロン・コンスタンタン以外の何ものでも有り得ない。アーカイブの精査から導き出された、同社独自の黄金律とも呼ぶべきケースプロポーション。それを体現するパトリモニーは、まさしく現代のヴァシュロン・コンスタンタンの象徴だ。

in Athens
am3:37 | UTC+0200 |

 アテネ、午前3時37分。夜通し続くかと思われたパーティーもようやくお開きになり、ホテルの部屋へと帰ってきたそんな時間。静かに時を刻み続けていたのは、薄型2針の「パトリモニー」だ。フォーマルな席で身に着けるドレスウォッチの基本となるのは、無粋な秒針を持たない2針のスタイル。しかしデザイン要素がシンプルなほど、プロダクトに個性を与えることが難しくなってくる。1960年代頃まで、ヴァシュロン・コンスタンタンが作る正調な紳士用腕時計は、やや短めの分針と、ケースに対して幅を絞り込んだラグ位置を特徴としてきた。過剰なディテールでの演出を避け、時計のプロポーションだけで個性を確立してきたのである。しかしそんなメゾンの不文律も、時の流れと共にいつしか忘れられていた。1950年代から封印状態にあったというアーカイブの木箱が開封されて、膨大な文書の整理、分類、分析が始められたのは2002年のこと。その過程で発見された資料を換骨奪胎することで生まれた〝最初の成果〞が、04年に発表されたパトリモニーの2針モデルだったのだ。パトリモニーが同社の象徴的なアイコンとして認識されているのは、こうした経緯によるものだ。ボンベシェイプのベースに、パールドット状のミニッツマーカーと楔形のアワーマーカーを載せたダイアルは、従来は端正なオパーリンシルバーを基調としてきたが、19年から18KPGケース専用のブルーダイアルを追加。「マジェスティックブルー」と呼ばれる鮮やかな専用色は、PVDコーティングによって美しい発色を得ている。ボンベダイアルに施された細やかなサンレイ加工に、独特な青が艶めかしく映えるのだ。

パトリモニー・マニュアルワインディング

パトリモニー・マニュアルワインディング

2004年に発表された手巻きの2針モデル。現行パトリモニーの原点であると同時に、現代のヴァシュロン・コンスタンタンが誇る体系的なデザインコードは、このモデルを出発点として再構築されていった。緩やかなボンベシェイプのダイアルに沿わせて、楔形のインデックスや針先にもカーブが加えられている。19年に追加された新色の「マジェスティックブルー」は、青色のPVDコーティングで仕上げたもの。手巻き(Cal.1400)。20石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径40.0mm、厚さ6.7mm)。3気圧防水。190万4000円。

パトリモニー・ムーンフェイズ&レトログラード・デイト

パトリモニー・ムーンフェイズ&レトログラード・デイト

2017年初出。高精度ムーンフェイズとレトログラードカレンダーを組み合わせたプチコンプリケーション。ほぼ180°に近いレトログラード表示は、最も視認性に優れたカレンダー表示のひとつ。ムーンフェイズの周期は29日と12時間45分に設定されており、再調整が必要となる1日分の誤差を生じるまでに122年を要する。パワーリザーブを絶やさない限り、一生のうちに再調整が必要な場面は訪れないだろう。自動巻き(Cal.2460R31 L)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KWG(直径42.5mm、厚さ9.7mm)。3気圧防水。424万円。

パトリモニー・レトログラード・デイ/デイト

パトリモニー・レトログラード・デイ/デイト

2007年初出。同社自動巻きの中で最もベーシックなCal.2460系ムーブメントに、バイレトログラード式のカレンダーモジュールを重ねたプチコンプリケーション。センター同軸のレトログラード針がポインターデイト表示、6時位置のレトログラード針が曜日表示を受け持つ。パトリモニーの中ではやや大ぶりなケースを持つが、側面からケースバック側にかけて細く絞り込まれているため、装着感も上々。自動巻き(Cal.2460 R31 R7/2)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径42.5mm、厚さ9.7mm)。3気圧防水。448万円。

パトリモニー・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー

パトリモニー・エクストラフラット・パーペチュアルカレンダー

2011年初出。超薄型の自動巻きムーブメントに永久カレンダーモジュールを組み合わせたコンプリケーション。厚さ2.45mmのベースムーブメント(Cal.1120)に対し、QPモジュールを重ねても僅か4.05mmに抑えられている。剛性の高い幅広のレバーとスネイルカムを組み合わせる同社の永久カレンダー機構は、いわゆる“非連続型”の中で最も信頼性が高いもののひとつ。カレンダー表示の配置も非常に読みやすい。自動巻き(Cal.1120QP)。36石。1万9800振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(直径41.0mm、厚さ8.9mm)。3気圧防水。800万円。