ブランパンの「フィフティ ファゾムス バチスカーフ モカラン 限定エディション」と、海洋環境保全活動を追う

FEATUREWatchTime
2022.01.12

限定モデル「フィフティ ファゾムス バチスカーフ モカラン 限定エディション」で新しいカラーが発表されたブランパンの「バチスカーフ」。人気のあるダイバーズモデルからデイト表示が外されたことはひとつのトピックだ。また今回の50本限定モデルは、危機的な状況にあるヒラシュモクザメ保護への取り組みをサポートするもの。WatchTimeでは、今回その時計と海洋環境保全活動の、両面を追ったリポートをお届けする。

「フィフティ ファゾムス バチスカーフ モカラン 限定エディション」

フィフティ ファゾムス バチスカーフ モカラン 限定エディション

Originally published on watchtime.com
Text by Roger Ruegger
Edit by Tsuyoshi Hasegawa
2020年10月11日掲載記事

 ブランパンが1953年に現代的なダイバーズウォッチの「フィフティ ファゾムス」を作り上げて70年近くが経過する。その間、このスイスブランドはダイビングや水中探査だけでなく、海洋生物保護において重要な役割を果たしてきた。

 2014年に始まったブランパン オーシャン コミットメント(Blancpain Ocean Commitment=BOC)は、時計業界においても独自の取り組みであり、すでに多くの環境保全活動に貢献していたのである(その一部はBOCスタート以前に活動を展開していた)。直近の事例はモカラン保護協会が行うミッションへの支援だ。

 これは仏領ポリネシアに生息するヒラシュモクザメ(Sphyrna mokarran)の調査プロジェクトであり、その将来的な保護活動に役立つ研究が含まれているという。このプロジェクトのため「フィフティ ファゾムス バチスカーフ」に、初となるグリーンのダイアル&ベゼルのモデル「フィフティ ファゾムス バチスカーフ モカラン 限定エディション」が用意され、限定本数は50本(Ref.5005-0153-NAB A)。またブランパンの直径43.6mmケースを擁するモデルでは、初めてデイト表示を取り去った仕様となっている。

1953年以来、ダイビングコミュニティのメンバーであったブランパン

 ジャン-ジャック・フィスターは、ブランパンのCEOを1950〜80年まで務め、そしてダイビングの愛好家でもあった。彼はマスク、フィン、デプスゲージ、ダイビングタンクのほか、潜水活動のために開発されたタイミングデバイス、それも一瞥するだけで潜水時間が分かるものが、ダイバーにとって必須であることに早くから気付いていた。

 そこでフィスターは、53年に「フィフティ ファゾムス」となるダイバーズウォッチの開発に着手する。ケースバックには新しいアイデアを、リュウズには継続してかかる水圧から自動巻き機械を保護するガスケットを採用し、どちらのデザインも特許を取得した。

フィフティ ファゾムス バチスカーフ モカラン 限定エディション

熱心なダイバー、先端の科学者達、海底探査を行う冒険家、環境学者、写真家などと緊密に連携することにより、ブランパンの使命は単にダイバーズウォッチを開発すること以上のものとなっていた。

 そして手巻きのクロノグラフは水中では安全に操作できないという時計業界における歴史上の課題から、フィスターとそのチームはアイコニックな逆回転防止ベゼルを導入。これにより水中での潜水時間の把握が容易になったのである。

 その後、数年かけてブランパンの時計はフランス、イスラエル、スペイン、ドイツ、アメリカなどの海軍特殊部隊で実際に何度か使用され、その信頼性と堅牢性を証明していった。そしてフランス海軍のダイバーであるロベール “ボブ” マルビエの要請に従い、軟鉄性耐磁ケースが追加され、それがフランス海軍のダイバー達に供給されることにより、「フィフティ ファゾムス」はその海軍での歴史を刻むこととなったのだ。

 だが海軍での起用は非常に限られた数量であったため、商業的な成功にはレクリエーションダイビング分野でのニーズが欠かせなかった。フィスターは2013年にブランパンが「フィフティ ファゾムス」コレクションの60周年を祝う現在の「バチスカーフ」初期モデルを発表した際、感慨深げにこう語ったという。「バチスカーフは、ダイビングと海中世界への探検を望む新しい顧客層に訴求する次のステップに入った」。そして「60年後の会社のなかに、熱心なダイビングファンを見つけられたのは奇跡のようだ」とも述べたという。

典型的なダイバー、再び

 マーク・A・ハイエックは、自身に選択肢があれば“テーブルを囲んでのミーティングよりも水中にいることを好む気質”を隠そうとしない人物だ。ブランパンのCEOとして、ハイエックは(03年における小規模な50周年記念モデルの後となる)07年に、「フィフティ ファゾムス」の現代版モデルを導入し、同時に約5日間のパワーリザーブを備えた新しい自社製ムーブメント(キャリバー1315)を登場させた。13年における「バチスカーフ」の刷新は、14年のブランパン「オーシャン コミットメント」に続き、「ブランパン オーシャン コミットメント フィフティ ファゾムス バチスカーフ フライバック クロノグラフI」の発表へと続いていく。搭載されるのはキャリバーF385であり、ブランパン初のセラミックス製ケースを備えていたところもポイントだ。

 その成功とポジティブなメッセージに続き、ブランパンは16年に、ブルーセラミックケースの「ブランパン オーシャン コミットメント フィフティ ファゾムス バチスカーフ フライバック クロノグラフⅡ」をリリース。さらに18年には3本目のBOCタイムピースを発表し、その展開を拡張していったのだ。

 3つのエディションはそれぞれ250本の限定品であり、ブランパンにおける通年活動への財政的支援のほか、時計1本の販売ごとに1000ユーロが寄付に充てられたという。これらのリミテッドエディションの購入者には、手書きにてシリアルナンバーがあしらわれた「フィフティ ファゾムス」の本も贈られている。「オーシャン コミットメント」モデルの購入には、ブランパン オーシャン コミットメントのメンバーシップが付属しており、BOCのプライベートイベントやブランパンが財政支援を行っている科学的調査に関するカンファレンス参加などの特典も与えられている。

フィフティ ファゾムス バチスカーフ モカラン 限定エディション

 フィフティ ファゾムス バチスカーフ モカラン リミテッドエディションは、公式にはBOCのエディションではないものの、ブランパンはBOCサークルに参加できるアクセスコードを付与し、1月の探査時の写真も添付している。これは一般ユーザーの関心を高め、ブランドの目標である世界の海洋保全への新たなるステップとなっている。「フィフティ ファゾムス」のオーナーでもあるジャック-イヴ・クストーの言葉どおり、“人間は自分が愛するものを守る”のである。

 過去10年にわたり、ブランパンは19ものメジャーな科学調査の財政的支援を行い、自身が海洋保全を行う範囲を2倍に広げ、受賞歴のあるドキュメンタリー映画の製作や海中で撮影された写真の展覧会などを実施してきた。

 “世界初モダン・ダイバーズウォッチ”の発明者であるブランパンは、ナショナルジオグラフィックが起こした“原子の海プロジェクト”の共同発足者であり、5年(11〜16年)にわたりサポートを続けているのだ。

 また、海洋学者であり水中写真家であるローレン・バレスタが手掛けたゴンベッサ探査でも重要な役割を果たし、非常に希少で観察の難しい海洋生物や海洋現象調査にも携わってきた。また、ザ・エコノミスト主催の“世界海洋サミット”も積極的にサポートし、ニューヨークにあるアメリカ本社で行われる“世界海洋デー”には、「ハンス・ハース・フィフティ ファゾムス・アワード」を実施するなど、多彩な活動を行っているのである。

フィフティ ファゾムス バチスカーフ モカラン 限定エディション

 ブランパンのこのような取り組みがユニークであるのは、ひとえにブランドがどのプロジェクトを支援しているかにおいて、きちんと透明性を確保していることが挙げられる(著名ブランドがリミテッドエディションの売り上げを公表するのは稀であり、この点でブランパンの態度は非常に整然としている)。

 その他にもブランパンのこういったプロジェクトへの取り組みは、単なる財政支援以上のものがあると広く知られているのだ。今回プロジェクトに関しマーク・A・ハイエックは、個人的にモカラン保護協会を数日間実際にサポートし、自身のカメラ機材と再呼吸装置(長時間の潜水と深海への探査を可能とするもの。潜水限界を深く伸ばし、気泡の発生と雑音の発生を抑える意味でこのような探査には必須)を持ち込み、ランギロアでのチームサポートを積極的に行っている。実際、スイス時計会社を代表するCEOが海底200フィートに潜り、カメラを携えヒラシュモクザメが現れるのをじっと待つ姿を目にする機会など、一体どれくらいあるだろうか?(後編に続く)