2023年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ(W&WG)は新体制に注目せよ!?

FEATURE役に立つ!? 時計業界雑談通信
2023.02.11

いよいよ開催まで2カ月を切った世界唯一にして最大の時計フェア「WATCHES AND WONDERS GENEVA(ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ/略称W&WG)2023」。出展ブランドが増えたことが話題だが、もっと注目したいことがある。それがこのフェアの運営体制だ。実は昨年2022年とは大きく変わっているのだ。

渋谷ヤスヒト:取材・文 Text by Yasuhito Shibuya
(2023年2月11日掲載記事)


出展ブランド数は10増えて48ブランドに

 今年もまた新作時計の季節になった。メインイベントはもちろんスイス・ジュネーブのパレクスポ展示場で開催される「WATCHES AND WONDERS GENEVA」、かつてのSIHH(通称ジュネーブ・サロン)だ。筆者のところにも1月20日にインビテーションのメールが届き、プレス登録を済ませた。

 出展ブランドは昨年2022年の38ブランドからちょうど10ブランド増えて48ブランド。その中ではベル&ロスやフレデリック・コンスタント/アルピナ、クロノスイス、ペキニエ、ハイゼック、U-ボートなど、かつてバーゼルワールドやその時期にバーゼルで展示会を開催していた中堅ブランドに注目したいところ。

 昨年10月の時点では49ブランドと発表されていたが、1月の最新リリースや公式サイトを確認すると最終的には48ブランドになったようだ。着実に規模は拡大している。だが、バーゼルワールドより出展ブランドははるかに少ない。現時点ではまだバーゼルワールドを「吸収した」とは言えない。つまり、フェアに出展して世界に対して製品プロモーションを行いたいと考えても場を得られない時計ブランドがまだまだある困った状況だ。

これがオフィシャルサイトで発表されたW&WG2023に出展する48ブランドである。(公式ウエブサイトより)

 今年もW&WGの期間中に、このフェアに参加できないブランドが参加して、ジュネーブのアートスクールを会場に「Time to Watches 2023」が開催されるが、中堅ブランドにとっては、失礼ながら満足できるものにはならないだろう。


時計業界全体を代表できる新体制に

 だが筆者はW&WGが今後、徐々ではあるだろうが、さらに規模が拡大してバーゼルワールドの役割を果たす可能性があると考えている。なぜなら、昨年10月27日に発表された公式リリースには、運営体制が大きく変わったことが記されていたからだ。

独自の財団設立を伝える2022年10月27日のW&WGのプレスリリース。

 W&WGの前身であるSIHH、そして昨年のこのフェアも主催団体は、高級時計という文化の振興推進を図るFHH(The Fondation de la Haute Horlogerie=高級時計財団)であった。

 だが昨年10月末にフェアの主催団体、つまり運営体制は大きく変わった。ロレックス、リシュモン グループ、パテック フィリップがジュネーブに、このフェアのための非営利財団、ウォッチズ アンド ワンダーズ ジュネーブ財団 (WWGF) を設立したのだ。

 この新財団の使命は時計製造の卓越性を世界中に広めることで、その目的は国境を越えて、時計とジュエリーの展示会を対面またはデジタルで開催すること。財団は理事会によって運営され、ロレックスのCEOジャン-フレデリック・デュフォーが会長、リシュモン グループの時計部門のトップであるエマニュエル・ペランが副会長に就任。さらに参加する時計ブランドの代表者で構成される展示委員会がこのフェアの運営を行うことになっている。

 この体制変更をサラッと報じたメディアはある。しかし、リシュモン グループとスイス時計業界の最強独立系ブランド2社が組織したこの財団はすでに大きな存在だが、スイスの時計業界でさらに確固たる存在になることは間違いない。

 スイスの時計業界はもともとフランス文化圏とドイツ文化圏に分かれ、カルチャー的に違うところが多々あった。フランス文化圏に属する現在のリシュモン(当時はヴァンドーム)グループが1990年代初頭に、ドイツ文化圏のブランドが主体のバーゼル・フェアから分離独立してフェアを始めるなど、スイスの時計業界はひとくくりには語れない。

これが現在のバーゼルワールドのオフィシャルサイト「baselworld.com」のトップページ。もはや復活は不可能だろう。

 スイス時計業界の未来を考えると、やはりバーゼルワールドのような間口の広い時計フェアは必要だと思う。そして、この新たな財団が掲げる「国境を超えて、ジュネーブを世界の時計産業の最終目的地にする」という使命を考えると、やはりこのWWGF財団以外に、そんなグローバルでビッグな時計フェアの主催運営ができる団体は考えられない。スウォッチ グループの存在もあって急には無理だろうが、この財団がより多くの時計ブランドの参加とその支持を受けて、かつてのバーゼルワールドのようにこのフェアがスイス、さらに世界の時計業界が一覧できるフェアに、さらに拡大&成長することを願わずにはいられない。

なにはともあれ、3月27日の開催初日が楽しみだ。


「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ」は「バーゼルワールド」後継イベントになれるか?

https://www.webchronos.net/features/85587/
やっぱりバーゼルワールド2022は中止に! マネージングディレクター、ミシェル・ロリス-メリコフ氏も退任

https://www.webchronos.net/features/72056/
バーゼルワールド「突如復活」の裏事情とは? ―傲慢なノスタルジーの行方―

https://www.webchronos.net/features/69736/