やっぱりバーゼルワールド2022は中止に! マネージングディレクター、ミシェル・ロリス-メリコフ氏も退任

FEATURE役に立つ!? 時計業界雑談通信
2021.11.13

ウォッチジャーナリスト渋谷ヤスヒトの役に立つ!? 時計業界雑談通信

2021年10月31日に公開した本コラムの記事「バーゼルよりロンドン!? 示唆に富むイギリス人ジャーナリストの仰天提案」において、イギリスの時計業界専門ウェブメディア「WATCHPRO」の主筆ロブ・コーダー氏によるビックリ提案記事「春に時計フェアをするなら、バーゼルよりはロンドンだ(原題:London preferred to Basel for a global spring watch fair)」を紹介した。

その中で、コーダー氏が「近々、バーゼルワールド事務局から重大発表がある」という噂が時計業界に流れている、と意味深なことを書いていた。その重大発表が11月12日、噂通りに行われた。

渋谷ヤスヒト:写真・文 Photographs & Text by Yasuhito Shibuya
(2021年11月13日掲載記事)

MCHグループのオフィシャルサイトのトップページを下にスクロールすると現れる、バーゼルワールド2022の中止を伝える記事「Baselworld relaunch needs more time」。
https://www.mch-group.com/en/


噂通りの重大発表

「やっぱり」なニュースが飛び込んできた。

 その重大発表とは、去る2021年6月23日、ゾンビのように「復活」を宣言した「バーゼルワールド2022」が中止になる、という主催者MCHグループからの発表だった。8月末の「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ 2021」における、「フェア復活」を時計業界にアピールする目的で行われたポップアップイベントの経験を踏まえて、時計ブランドや小売店とのミーティングを重ねた結果だと、プレスリリースには書かれている。同時に2018年5月末からバーゼルワールドの立て直しに奔走してきたマネージングディレクターのミシェル・ロリス-メリコフ氏の退任も発表された。

 8月末より開催されたジュネーブでのポップアップイベントは、スイスに渡航できず日本に居た筆者は当然ながら取材していない。だが、「バーゼルワールド」復活を宣言してジュネーブ・ウォッチ・デイズ期間中の9月1日に、YouTubeで配信されたバーゼルワールド公式チャンネルのあるコンテンツを視聴して、筆者はその時から「バーゼルワールドは開催不可能なのでは?」と確信していたし、このコラムでもそう書いていた。


動画再生回数の低さからも分かるバーゼルワールドの危機

「Espresso Talk with Jean Christophe Babin and Michel Loris-Melikoff at Baselworld 2021」というタイトルで9月1日にYouTubeで配信された23分30秒の動画。左がミシェル・ロリス-メリコフ氏、右がジャン-クリストフ・ババン氏。
https://www.youtube.com/watch?v=oa6FPF2Bd90

 そのコンテンツとは、「Espresso Talk」と名付けられた対談シリーズの中のひとつ、ブルガリ グループCEOであるジャン-クリストフ・ババン氏とバーゼルワールドのマネージングディレクターであるミシェル・ロリス-メリコフ氏の対談だ。この中でメリコフ氏は終始、ババン氏に明らかに「秋波を送って」いた。

 秋波の内容は「ブルガリだけでも、何とかバーゼルワールドに参加してください。あなたのブランドは特別です。期待していますよ」というということ。だが、そんな「秋波」をババン氏は笑顔で鮮やかにかわしていたのだ。

 ところで、バーゼルワールド公式YouTubeチャンネルの登録者数は、この原稿を書いている時点で1550人。この動画の再生数はわずか120回だ。筆者は4回再生しているから、その人気の無さが分かるだろう。6月23日に最初にアップされ、フェアの復活を宣言した「BASELWORLD is Back」というわずか20秒の告知動画でも、再生数は現在、1200回に届いていない。

 

ブルガリとバーゼルワールドの「特別な関係」

©yasuhito.shibuya
2007年、バーゼルワールドのブルガリ・ブースは会場内でも特別な場所、カンファレンスセンター隣の地下にあった。

 ところで、すでに2年も前のことなので、お気づきの方がどのくらいいるのか分からないが、ババン氏率いるブルガリ グループは、LVMHグループの中で、バーゼルワールドに対して独自の立場をキープしてきた。

 LVMHグループの時計事業、具体的にはタグ・ホイヤー、ゼニス、ウブロを統括するのは、つまりジャン-クロード・ビバー氏の後を継いだのは、弱冠25歳でタグ・ホイヤーのCEOに就任した、同グループ会長兼CEOベルナール・アルノー氏の三男フレデリック・アルノー氏の後見人とも言われるステファノ・ビアンキ氏。ごく近い将来、フレデリック・アルノー氏は、ビアンキ氏の立場、つまりLVMHグループの時計事業全体を統括することになるだろう。

 この3ブランドは2020年4月17日、ロレックスなど5ブランド(パテック フィリップ、シャネル、ショパール、ロレックス、チューダー)のバーゼルワールド離脱(2020年4月14日)を受けて、ビアンキ氏の声明によって「バーゼルワールド離脱」を表明し、さらにその後、2022年3月30日から4月5日まで開催される「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2022」への出展を決めている。

©yasuhito.shibuya
「最後のバーゼル」になる可能性もある2019年のバーゼルワールド。プレスデーにブルガリ・ブースで行われたプレスカンファレンス(左)とスピーチするブルガリ グループCEOのジャン-クリストフ・ババン氏(右)。

 だがブルガリは、この撤退については、3ブランドとは別のスタンスを取った。「2020年は出展を中止します」という、今後の出展参加を匂わせる独自の声明を発表した。そして2020年夏に「ジュネーブ・ウォッチ・デイズ」を、当時は1年限りの臨時イベントとして開催。だが、2021年にもこのイベントを開催し、「ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2022」の出展ブランドには現時点で含まれていない。

 つまりバーゼルワールドに対して、グループの他のブランドとは違う立場、ハッキリ言えば「優しい態度」を取ってきた。これはなぜなのか? 筆者には、その理由について推測できるほどの情報はない。ただ、ブルガリの事業は時計だけでなく、宝飾品やバッグ、香水、さらにホテル事業まで多岐にわたる。つまりLVMHグループの中で、ステファノ・ビアンキ氏の統括が及ばない事業体なのだろう。

 ただ、こうした経緯からバーゼルワールドのマネージングディレクターであるメリコフ氏が「ブルガリならバーゼルワールドに出展してくれるのではないか」という、微かにでも期待していたとしたら、それも無理はない。

 LVMHグループ傘下に収まる以前、ブルガリは一時、独自にジュネーブで展示会を開催していた。それに対してバーゼルワールドは、ブルガリに特別な会場を用意して、バーゼルに迎え入れたという歴史的な事実もある。バーゼルワールド事務局とブルガリは当時、確かに特別な関係にあったと言えるのだ。

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