3000万円超えも納得! オーデマ ピゲのCODE 11.59 トゥールビヨン オープンワークを日本屈指の時計愛好家が語る・くろのぴーすのテレスコープ

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2023.03.14

日本を代表する時計愛好家、くろのぴーすが自身の所有するオーデマ ピゲの「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ トゥールビヨン オープンワーク」の魅力を紹介。スケルトン専用にムーブメントを設計・開発することの凄さや、長年変わらないオーデマ ピゲの仕上げに対する姿勢など、同社の時計を買い支え、そして観察し続けてきた同氏ならではの見識が語られる。

くろのぴーす:文
Text by chronopeace
2023年3月14日掲載記事

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ トゥールビヨン オープンワーク


CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ トゥールビヨン オープンワークをオーナー視点で語る

 ご無沙汰しております。腕時計愛好家のくろのぴーすです。この度、2年前に1回で打ち切りとなっていたwebChronosでの連載「テレスコープ」が見事に復活いたしました。今後は、本来の趣旨をそのままに、手持ちのものを含めてさまざまな時計を紹介して参ります。

 復活記念にあたる今回では、世界で50本限定のこれ。日本には数本しか入っていないため、目にする機会は無に等しいであろうオーデマ ピゲの「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ トゥールビヨン オープンワーク」です。

オーデマ ピゲ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ トゥールビヨン オープンワーク」
手巻き(Cal.2948)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約72時間。18KWG×ブルーセラミックスケース(直径41mm、厚さ10.7mm)。3気圧防水。世界限定50本。価格問い合わせ。


スケルトンとして生まれた左右対称ムーブメント

 CODE 11.59のスケルトン トゥールビヨンは、最大限にシンプルを追い求めつつ、オーデマ ピゲ(以下AP)の温故知新が詰まった傑作だと言えます。普段見かけるようなスケルトン腕時計との大きな違いは、ムーブメント自体がスケルトン用として生まれたという点です。

 汎用ムーブメントをスケルトンにした場合、香箱や輪列の配置を変えるわけにはいきませんから、当然“見せる”ところも“魅せる”手法も限られてくるわけです。ですから、目が肥えてくると、数百万円未満のスケルトン時計は全て「どこかで見たような気がする」という感覚を覚えます。

 しかし、同作が搭載するCal.2948は、最初からスケルトンを想定して開発されたものです。価格は2針の時計にして3000万円を超えてしまいましたが、今日この記事を読み終わる頃には、その金額に納得される方も増えることでしょう。

 2022年6月にオーデマ ピゲのスイス本社に招待された際、複雑機構の開発を手掛けるオーデマ ピゲ ル・ロックル(旧ルノー・エ・パピ)の開発部門にて、幸いこのムーブメントにフライバッククロノグラフが追加されたバージョンであるCal.2952の開発秘話を聞かせていただく機会に恵まれました。

Cal.2948

 開発者曰く、腕時計のムーブメントを左右対称に設計し、まともに動かすことは至極困難であるとのことです。腕時計では香箱を含め4つの歯車を中心とした輪列が存在することが基本ですが、分針や秒針を回すためにはギア比の組み合わせからその配置やサイズには限界があります。

 それを限りなく左右対称に収め、かつスケルトン化された前提で美しく見せるということは、実用性を実現するためにはとてつもない時間がかかるということです。

 パーツ数は標準的なトゥールビヨンと同様の196ですが、Cal.2948では輪列を立体的に配置しつつ薄く仕上げ、ほぼ縦の中心線に美しく収まっているのが見えます。

 それら歯車を支え、配置するためのブリッジには、よく見ると直線がひとつも使われていません。パーツとしては中核をなす香箱とトゥールビヨンを中心に、水面に広がる波紋のように、放射状に広がるようなブリッジが最小数の円弧で構成されています。

 にも関わらず、裏面側のブリッジは表面側のそれとは違う直径の円弧をもって構成されており、お互いが干渉せずに立体的に交差しているかのような表現に魅せられます。

 その上、旧来モデルの「エドワード ピゲ」などにも見られる人の髭を模したかのようなトゥールビヨンブリッジが4時から8時にわたって力強く主張しているのも、これを私がAPの温故知新と革新を両立している象徴的なスケルトン腕時計と言う所以のひとつです。

オーデマ ピゲ ブリッジ


無限の可能性を秘めたCODE 11.59ケース

 実際に過去のAPによるスケルトン腕時計を見てみても、その本質は変わっていないことが分かります。しかし近代の作品が大きく違うのは、惜しむことなく近代的な手法や加工、そして素材を取り入れている点です。

 何よりもこの、CODE 11.59のケースは、AP史上最大と言ってよいであろう可能性を秘めています。近代的な41mm径で厚さ14mm前後の円筒形ケース。すなわち、スペース効率が極めて良いと言えます。

 その証拠に、私も昨年6月の本社訪問時に予約を入れた40もの機能を持つ超複雑時計で、APが「ウルトラ コンプリケーション」と呼ぶ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4」は、たった厚さ15.55mmのCODE 11.59ケースに、1155ものパーツが収まっています。

CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4

オーデマ ピゲ「CODE 11.59 バイ オーデマ ピゲ ウルトラ コンプリケーション ユニヴェルセル RD#4」
自動巻き(Cal.1000)。90石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約64時間。18KWGケース(直径42mm、厚さ15.55mm)。2気圧防水。価格問い合わせ。

 当然その設計にはコンピューターシミュレーションが使われたことでしょうが、どの腕時計専門家が見ても、一般的な腕時計サイズにあの機構が、日付の巻き戻しなどを含めあらゆる実用性とフェイルセーフ機構を備えて実現していることは、驚異以外の何ものでもないでしょう。

 故に、CODE 11.59のケースはAPにとって自由な絵が描ける最高なキャンバスであると考えていた私の予想は、ユニヴェルセルの発表をもって正しかったのだと実感しています。

 写真では伝わりにくいのですが、ケースだけでなく風防も12時側から6時側に向けてアーチを描くように湾曲しており、実物は少し堅苦しさを緩めた、優しささえも感じさせます。

 3層で挟むサンドイッチ構造が採用されていますが、これもなかなか写真では分からない、ロイヤル オークオマージュとなる八角形のミドルケースを採用しています。側面からの写真でミドルケースに縦線が見えるのがそれです。

CODE 11.59 ケースサイド

 特にこのモデルでは、ミドルケースの素材にブルーセラミックスを採用していますが、それにもきっちりと職人の手によってヘアライン加工が施されています。しかしAPの方針か、角を最小限に取ってあり、ミドルケース自体も面取りされているために、所有されていても八角形であることさえ知らない方もいらっしゃるのではないでしょうか?

 ケース内容量が大きければ、先述のようにさまざまな機構が搭載できるのもありますが、ほとんどの人が気付いていないメリットとして高い音響効果が挙げられます。

 現にCODE 11.59の中でもこのモデルが最も音響空間が広く、トゥールビヨンの硬い角のあるティック音が澄んだ状態で鳴り響きます。断言しますが、このモデルがCODE 11.59ではティック音が最も明確に、かつ美しく聞こえます。