時計専門誌『クロノス日本版』編集部のメンバーが、決められたお題に沿っておすすめモデルを選ぶ。今回のテーマは、「2025年の新作時計」。時計業界最大の新作見本市であるウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブに限らず、今年発表されたモデルの中から、傑作を2本ずつ選出した。メンバーは編集長の広田雅将、副編集長の鈴木幸也、編集の細田雄人、鶴岡智恵子、大橋洋介である。
『クロノス日本版』編集部が選ぶ、2025年新作モデル10選
4月1日~7日まで、スイスでウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブが開催されていた。この時計業界最大の新作見本市が終了して、通年で新作をリリースする時計ブランドも少なくないとはいえ、ある程度2025年の新作が出そろったと言える。そこで今回、時計専門誌『クロノス日本版』編集部のメンバーが、今年発表された新作モデルのうち、傑作をふたつずつ選出した。
選出メンバーは編集長の広田雅将、副編集長の鈴木幸也、編集部の細田雄人、鶴岡智恵子、大橋洋介だ。なお、「2025年に発表された新作時計」以外の条件は設けていない。ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ発表モデルに限っておらず、また、未発売のモデルであっても選考対象としている。
編集長・広田雅将おすすめの「センスの良い時計」

『クロノス日本版』編集長であり、時計ハカセの愛称でも知られる広田雅将。今年もスイス・ジュネーブでの取材をはじめ、さまざまな新作時計を手にしてきた中で傑作として挙げた2本は、オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」とルイ モネ「1816」だ。
オーデマ ピゲ「ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー」
個人的な推しは、間違いなくグランドセイコーの「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」だ。しかし、鈴木幸也が選んでしまったので、他のモデルからチョイスした。というわけで残ったのが、使い勝手に優れるオーデマ ピゲの永久カレンダーと、野心的な構成と価格で、大メーカーに喧嘩を売る勢いのルイ モネだ。前者は多くの人が納得するはず。しかし後者は、想像以上の出来映えを見せるものだった。

自動巻き(Cal.7138)。41石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約55時間。18Kサンドゴールドケース(直径41mm、厚さ9.5mm)。50m防水。要価格問い合わせ。(問)オーデマ ピゲ ジャパン Tel.03-6830-0000
筆者はIWC「ダ・ヴィンチ パーペチュアル・カレンダー」の熱狂的なファンである。時は戻らない、というコンセプトを具現化しただけでなく、リュウズの操作だけですべてのカレンダーを調整できる機構は、機械式の複雑時計を初めて使えるものとした。
その「使える複雑時計」というあり方を一層推し進めたのが、オーデマ ピゲの新しい永久カレンダーだ。これはリュウズですべてのカレンダーを調整できるだけでなく、例えば曜日や日付といった、個別の表示を切り替えられるものだ。可能にしたのは2段引きの「オールインワンリュウズ」。腕時計に載せるには複雑すぎる機構だが、優れた設計は、今までの永久カレンダーと変わらない厚みと、優れた操作感をもたらした。
正直、この機構を載せても、永久カレンダーのユーザーたちはカレンダーを合わせないかもしれない。にもかかわらず使える機能を盛り込もうとするのは、メーカーの心意気だ。奇抜さと斬新さを求めがちな複雑時計のあり方に一石を投じた新作。おそらくこれは、未来の傑作になるだろう。正直、お金があれば欲しい1本だ。
ルイ モネ「1816」

手巻き(Cal. LM1816)。34石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。Tiケース(直径40.6mm、厚さ14.7mm)。3気圧防水。3万9000スイスフラン。(問)ジーエムインターナショナル Tel.03-5828-9080
あまり期待していなかったが、予想外の出来映えを見せたのがルイ・モネの1816だ。デザインのモチーフは、同社が入手した(現時点では)世界初のクロノグラフ。今回は、その文字盤レイアウトを忠実に再現しただけでなく、ムーブメントも一から起こしたというから気合いが入っている。
ムーブメントはおなじみコンセプト製。しかし、同社のETA7750に倣ったエボーシュを魔改造したものではなく、まったくの別物だ。まだ日本の価格は公表されていないが、3万9000スイスフランという現地価格は、内容を考えるとかなり戦略的だ。
直径は大きいが、腕なじみは良好。また、ケースと一体化されたブレスレットも、もう少し手直しを受ければかなり良くなるだろう。というわけで、期待を込めて選に含めた。ミネルバが好きな人であれば、おそらくは刺さるはず。筆者はかなりこの時計が好きだ。
副編集長・鈴木幸也おすすめの「センスの良い時計」

1990年代からスイスで新作見本市の取材を行ってきた、『クロノス日本版』副編集長の鈴木幸也が選んだふたつのモデルはグランドセイコー「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」とエルメス「アルソー タンシュスポンデュ」である。
グランドセイコー「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」

スプリングドライブ自動巻き(Cal.9RB2)。年差±20秒。34石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径37.0mm、厚さ11.4mm)。10気圧防水。151万8000円(税込み)。(問)セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) Tel.0120-302-617
ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ 2025で発表された新作が搭載する新型ムーブメントのうち、精度に関して注目を集めたムーブメントのひとつが、グランドセイコー「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A.」が搭載するCal.9RB2である。
端的に言えば、このムーブメントは主ゼンマイで駆動する量産型ムーブメントとして、最高峰の高精度である年差±20秒という驚異的な精度を実現しているのだ。駆動方式は、セイコーが誇るスプリングドライブである。
そもそも、グランドセイコーが搭載するムーブメントには大きく3種類がある。クォーツ式のCal.9F系、機械式のCal.9S系、そして、クォーツ式と機械式の利点を併せ持つスプリングドライブ式のCal.9R系である。
グランドセイコーは2020年に、グランドセイコー誕生60周年を祝して、ふたつの革新的なムーブメントを発表して話題をさらった。ひとつが機械式のCal.9SA5、もうひとつがスプリングドライブ式のCal.9RA5である。いずれも精度、仕上げともに、従来のグランドセイコーのムーブメントを一層高みへと導き、世界市場におけるグランドセイコーの評価を不動のものとした。
Cal.9RA5は、その後、Cal.9RA2を経て、今回の年差±20秒の高精度を誇る革新的なCal.9RB2へと至った。
その高精度を実現した革新性は、6月6日発売の次号『クロノス日本版』7月号(第119号)で深掘り解説するので、ぜひ同記事を楽しみにしていただきたい。
とはいえ、このスプリングドライブ U.F.A.の魅力と凄さは、年差±20秒という高精度に加え、その高精度ムーブメントを直径37mmというコンパクトなケースで実現したという点だ。それ以前のCal.9RA系のムーブメント直径は34mmであったのに対し、新型のCal.9RB2は直径30mmまで小型化された。このサイズは、既存のスプリングドライブ式のCal.9R65と同サイズである。実は、高精度化に加え、この小型化にこそ、Cal.9RB2の醍醐味が秘められているのだ。
このCal.9RB2を搭載した新作は、プラチナケースとブライトチタンケースの2モデルが発表されたが、あえてブライトチタンモデルを推すのは、小回りの利く直径37mmというコンパクトなサイズ感が、ケースとブレスレットに採用されたブライトチタンの軽量さによって、一層その軽快さを増しているからだ。
もうひとつ特筆すべきが、グランドセイコーのバックルに微調整機構が初めて採用された点だ。結果、このスプリングドライブ U.F.A.は、ゼンマイ駆動の腕時計として、この上ない精度をかなえ、かつ実用的な装着感も兼ね備えた、グランドセイコー史上最も成熟したモデルとして、2025年の時計市場を賑わせることになるだろう。
エルメス「アルソー タンシュスポンデュ」ブラウン・デゼールダイアルモデル

自動巻き(Cal.H1837)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約45時間。18KWGケース(直径42mm)。3気圧防水。予価663万800円(税込み)。(問)エルメスジャポン Tel.03-3569-3300
もう1モデル、オススメの新作を挙げるとすれば、エルメス「アルソー タンシュスポンデュ」のブラウン・デゼール(サンドゴールド)ダイアルモデルを推したい。
これは、エルメスが本格的に時の哲学を機械式時計の複雑機構として追求しはじめた最初期のモデルである。“タンシュスポンデュ”とは“保留された時”を意味し、9時位置のプッシュボタンを押すと、時分針がともに12時位置を指し示し、4時から7時位置にかけて配されたレトログラード式ポインターデイトも、レトログラード針が4時から5時位置にかけての“せり出し部”に隠れ、日付表示を隠してしまう機構となっている。
すなわち、時間と日付のいずれからも解放され、その瞬間を慈しみ、その時を愛でるという、エルメスの時の哲学そのものを表現しているのだ。まさに、常に職人技を追求してきた同メゾンだからこそたどり着いた、真に卓越したものは決して時に縛られない、という境地である。
2011年に初めて登場した際は、汎用ムーブメントをベースに、アジェノーとの共同開発によるモジュールを搭載することでかなえられたこの“時の異端児”は、14年の歳月を経て、自社開発ムーブメントをベースに替え、一層の成熟を見せている。
2025年、エルメスが“時の哲学”に今一度立ち返ったこの“傑作”を称賛したい。
細田雄人おすすめの「センスの良い時計」

今年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブで、初めて現地取材を行った編集部の細田雄人が選ぶのは、ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・デュオ・スモールセコンド」とパネライ「ルミノール トレジョルニ」だ。
ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・デュオ・スモールセコンド」
手巻き(Cal.854)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(縦47×横28.3mm、厚さ10.34mm)。3気圧防水。212万9600円(税込み)。(問)ジャガー・ルクルト Tel.0120-79-1833
今年のジャガー・ルクルトは個人的にすごく好印象だった。「レベルソ」推しの新作群はどれもツボを突いたモデルで、この中から1本を絞るのが大変なくらいだ。
趣味で言えば、モノフェイスの「レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド」Ref.Q713216Jも悩ましい。しかし、レベルソという時計の起源やキャラクターを考えれば、18KPGよりステンレススティールの方がより妥当かなと思い、今回は「レベルソ・トリビュート・デュオ・スモールセコンド」を挙げさせてもらおう。特にブラックダイアルがイチオシである。
ブラックダイアルモデル最大の魅力は、なんといってもそのルックスだ。バーインデックスとミニッツトラックを持つ「レベルソ・トリビュート」の文字盤デザインにブラックのコンビネーションは、1931年のオリジナルを彷彿とさせる。
個人的には風防を守るために反転ケースを開発したという経緯から、レベルソはデュオよりもモノフェイスを好む傾向にある。ところが今作のデュオは文字盤のキャラクターに合っていて好印象だ。ブラックをベースとしたモノトーンの文字盤を反転すると、シルバーベースのモノトーンに“反転”(厳密には反転していなけど)する演出は、まったく異なるふたつのキャラクターを同時に所有しているようで満足度が高い。確かにデュオが人気なのも頷ける。
ブランドとしてもCEOにジェローム・ランベールが返り咲いて、ますます眼が離せない。
パネライ「ルミノール トレジョルニ」
手巻き(Cal.P.3000)。21石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約3日間。SSケース(直径47mm、厚さ16.4mm)。100m防水。158万4000万円(税込み)。(問)オフィチーネ パネライ Tel.0120-18-7110
この時計を見ての感想はただひと言、「お帰りなさい!」。パネライはやっぱりこうじゃなくちゃいけないよね。ドンツェ・ボームらしい高品質な1950フォルムのケースは立体感にあふれていて、直径47mmのサイズと相まって迫力満点。小径ケースはトレンドだし、自分もご多分に漏れず好きだけど、ここまで振り切った大径ケースは逆に魅力的だ。
パネライには腕なじみよりも、存在感と視認性、そして防水性能が圧倒的に必要だと信じてやまない。だからこそ、この形のルミノールが出てくれたことがうれしくてしょうがない。
また、搭載するムーブメントがCal.P.3000なのもポイントだ。同じ手巻きのCal.P.6000よりも1リーニュ直径が大きく、より堅牢で仕上げが良い。直径47mmのルミノールとの相性は最高だ。個人的にムーブメント径が28.2mmのCal.P.900が至る所で採用されているのは、あまり好ましくなかったために、この抜擢がなによりも喜ばしい。
同じプロトタイプを大元としているから、当然その佇まいは往年の名作、PAM00372に瓜ふたつ。しかし、あえて荒らした表面にグレーグラデーションを与えた文字盤はよりヴィンテージライクだ。もちろんPAM00372ではプラスティックだった風防もサファイアクリスタルになっているし、ケースの質も上がっている。
オリジナルに忠実なPAM00372も魅力的なモデルだったが、2025年にこの時計をこ作るのだから、味付けを変更した点は大英断だろう。間違いなく、購入する価値がある時計だ。
鶴岡智恵子おすすめの「センスの良い時計」

ほうぼうで「今年のウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブの現地取材します!」と言って回っていたにもかかわらず、お留守番となってしまった鶴岡智恵子が選ぶのは、ブルガリ「セルペンティ トゥボガス」とウブロ「ビッグ・バン 20th アニバーサリー チタニウム セラミック」だ(来年は現地取材します)。
ブルガリ「セルペンティ トゥボガス」

自動巻き(Cal.BVS100 レディ ソロテンポ)。28石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。18KPGケース(直径35mm、厚さ10.8mm)。30m防水。808万5000円(税込み)。(問)ブルガリ・ジャパン Tel.0120-030-142
現時点で発表されている2025年新作時計のうち、傑作だと思うモデルを選出する本企画。まだ実機を見られていないものも多いが、良作ぞろいと感じる中で、まず取り上げたいのがレディースウォッチの裾野を広げたブルガリ「セルペンティ」だ。
大きな特徴は、新開発のレディース用自動巻きムーブメント「BVS100 レディ ソロテンポ」を搭載している点だ。このムーブメントの直径は、わずか19mm。厚さも3.90mmと、極小サイズとなっている。

小ぶりのケースを持つことの多いレディースウォッチは、クォーツ式ムーブメントを搭載することがほとんどだった。レディースウォッチ市場が広がり、機械式モデルも増えているものの、ロレックスなどの一部ブランドを除いてその多くは、レディースとしては大きいサイズであったり、メンズモデルと比べてパワーリザーブが短かったりといった点が課題としてあった。しかしブルガリが新たに打ち出したBVS100 レディ ソロテンポは、この極小サイズで自動巻きであることと、パワーリザーブ約50時間であることを実現しているのだ。また、ムーブメントの写真を見るとテンプを支えるツインブリッジや受けはしっかりとしており、耐久性も備えていることが分かる(編集長・広田の受け売りだけど)。
セルペンティには、これまで定番モデルにはクォーツ式ムーブメント、一部のハイジュエリーモデルには手巻き式ムーブメントが載せられてきた。今回の新型自動巻きムーブメント搭載モデルは、「セルペンティ トゥボガス」から2型、「セルペンティ セドゥットーリ」から7型と、初出から多彩なバリエーション展開となっている。シンプルに使えるSSモデルのセルペンティ セドゥットーリも良いが、ここは思い切りゴージャスで、撮影時にはそのきらびやかな輝きに見入ってしまった、セルペンティ トゥボガスの2連ブレスレットのモデルを取り上げる。
なお、蛇モチーフのデザインは従来モデルと大きく変わらないものの、自動巻きムーブメントを搭載している分、ケースにわずかな厚みが出ているが、ほとんど気にならない程度。一方で、主ゼンマイの巻き上げや時刻操作に配慮してか、デザインはそのままに、リュウズの操作性が上がっていることに、ブルガリの技術力の高さがうかがえる。
このムーブメントは今後ゼニスのマニュファクチュールに製造が移管され、LVMHグループ内で共有される予定だという。
個人的には、華奢でかわいらしい腕時計に、無理に機械式ムーブメントを載せなくて良いと思っている。クォーツ式は扱いやすく、またマグネットの留め具を持ったレディース用バッグが多いことを考えれば、磁気帯びの心配をしなくて良いというのも利点だ。しかし、極小サイズと“使える”ことを両立したレディース専用機械式ムーブメントの登場は、現在のレディースウォッチ市場の広がり、そして熟成を示唆しており、女性の一時計愛好家としてはうれしい限りだ。
男性がメインターゲットと考えられてきた機械式時計というジャンルに、今回ブルガリがBVS100 レディ ソロテンポとして投じた一石は大きく(極小ムーブメントなのに)、その波紋がどんどんほかのブランドにも影響していくことを期待したい。
ウブロ「ビッグ・バン 20th アニバーサリー チタニウム セラミック」

自動巻き(Cal.HUB1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。Ti+ブラックセラミックケース(直径43mm)。100m防水。世界限定500本。284万9000円(税込み)。(問)LVMH ウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055
もうひとつ、実機を見た瞬間に「これは良い!」と感じた2025年新作腕時計を取り上げたい。ウブロが「ビッグ・バン」20周年の記念モデルとして発表した、「ビッグ・バン 20th アニバーサリー チタニウム セラミック」だ。
2005年に登場したビッグ・バンが大ヒットを飛ばし、ウブロを代表するコレクションとして成長してきたことはもちろん、“デカ厚”ブームの牽引役のひとつとなったことはよく知られている。私が時計業界に入ったのは2017年。ビッグ・バン誕生時のことや、デカ厚ブーム真っただ中の時代についてリアルタイムで知っているわけではないものの、当時勤めていた時計店ではビッグ・バンが本当によく売れていて、自分自身も「大きくてかっこいい時計」といったイメージを抱いていた。当時はすでに「ウニコ」を搭載したモデルも人気で、2018年に小径用の「ウニコ2」も登場したが、自分の中では「ビッグ・バン オリジナル」が同社のアイコンとなっていた。

2005年に登場した「ビッグ・バン スチール セラミック」。現在は「ビッグ・バン オリジナル」というコレクションで展開されている。自動巻き(Cal.HUB4100)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径44mm)。10気圧防水。201万3000円(税込み)。
そんなアイコンのデザインを踏襲しつつ、ウニコ2を搭載させたのが、今回発表された新作時計だ。全部で5種類のモデルが登場しているが、個人的推しは“スチール セラミック”のデザインを備えたチタン製の「ビッグ・バン 20th アニバーサリー チタニウム セラミック」である。
オリジナルに比べて直径は1mmサイズダウンしていたり、ウニコ2を搭載しているため文字盤のレイアウトがバイコンパックスとなっていたりするなど、多少の変更点はあるものの、その姿はまさに2005年の初代モデル。一方でチタン製となったため軽く、またコンパクトとなったサイズ感も相まって、デカ厚の雰囲気は保ちつつも、軽快な装着感であることを想像させる。
さらにトランスパレントバックとなっているため、ウニコ2を観賞することができる。オリジナルもトランスパレントバックだが、ムーブメントはETA7750ベースであるため、高級機らしい美観は前者の方に軍配が上がる。ウニコ搭載モデルは文字盤がオープンワークとなっており、その文字盤側にクロノグラフ機構が備わっているため本作ではクロノグラフの制御の動きを見ることはかなわないものの、20周年の特別仕様のローターなど、特別感があふれるムーブメントになっていることも特筆すべき点だ。
分かりやすい派手さはないものの、ビッグ・バン20周年という節目にふさわしいアップデートが加えられたアニバーサリーモデルと言える。
大橋洋介おすすめの「センスの良い時計」

ノモス「クラブ・スポーツ ネオマティック ワールドタイマー グレイシャー」

自動巻き(Cal.DUW 3202)。37石。パワーリザーブ約42時間。SSケース(直径40mm、厚さ9.9mm)。10気圧防水。世界限定175本。77万2200円(税込み)。(問)大沢商会 Tel.03-3527-2682
ひゃあ! かなり素敵な配色の腕時計が、ノモス グラスヒュッテから発表されて正直感動した。文字盤にメインで使用されている、ブルーグレーは落ち着きのあるニュアンスカラー。この色を選ぶだけでも脱帽だ。
一方で、インデックスと世界各地の都市名が記された外周部分はやや暗いベージュである。ブルーグレーの暗さに歯止めをかける、よいアクセントとなっているのだ。
それよりも、色彩設計上のアクセントとして大いに注目すべきは、補色的に赤系の色が用いられている3時位置の24時間表示だろう。目盛り、針も合わせると5色も使用されている。ただ単色でインダイアルを構成するのではなく、日が落ちる18時、そして日が昇る6時までを暗くしている点が心憎い。
インデックスの数字にハイライトで白が入れられ、やや立体的に見せているところもポイントだ。私が知る限り、欧米の古風なサインペインティング(看板、広告等でペンキを用いて表現するレタリング)でよく見かけるように思う。この表現を腕時計の文字盤上でするとは、である。
思うに、本作も含めてノモス グラスヒュッテの持ち味は、時計業界の保守的なデザインコードに「縛られない」ところにあるのだろう。それゆえに、時計業界の外にいる人たちの目に触れる機会が増えれば、よりこのデザインが刺さる人が増えるのではないか、と勝手に思っている。
タイメックス「ジョルジオ・ガリ S2 Ti」

自動巻き(セリタ Cal.SW200-1)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約41時間。Tiケース(直径38mm、厚さ12mm)。50m防水。34万3200円(税込み)。(問)株式会社ウエニ貿易 Tel.03-5815-3277
なんだこれは! この腕時計が発表されるやいなや、編集部内ではちょっとした騒ぎとなった。なんだかよく分からないが、とにかくカッコいい腕時計が出てきたのである。そして、そのブランドが、良質でありながら手頃な価格の腕時計を多くの人々に届けてきた、タイメックスであったことが、さらに話題に拍車をかけたのだ。
チタン製のケースとブレスレットを備えたシンプルなデザインの腕時計。にもかかわらず、謎めいた存在感を放っている。ひと目見ただけでは言葉にしづらいその魅力。それこそが、この腕時計を形容するにもっともふさわしい表現だろう。
その秘密を解く鍵が、タイメックスのデザインディレクター、ジョルジオ・ガリ氏にある。ガリ氏は、他社も含めて長年にわたり腕時計のデザインに携わってきた人物であり、本作も含まれる「S」シリーズは、彼が日々の仕事の中で感じてきた「こういうデザインをしてみたい」という願望を具現化したシリーズだ。
その一例が文字盤である。シルバーカラーでモノトーンながら、実に表情豊かだ。文字盤自体はつややかに仕上げられている。他方、ヘアライン仕上げが施されたリング状のインデックスは、光の反射の質感が異なっているのだ。
見返しリングもまた、文字盤同様につややかだ。だが、その形状に注目してほしい。緩やかな曲線を描き、内側へと沈み込むような構造となっている。このため、文字盤とは異なる陰影を帯び、視覚的な奥行きをもたらしているのだ。
こうした光と影の緻密な使い分けが、この腕時計の特異な存在感を際立たせている。
これだけ精魂込められた腕時計であるにもかかわらず、全世界でわずか500本のみの限定生産。日本国内で販売された際には、あっという間に完売してしまったという。限定とするには、あまりにも惜しい1本である。