[ 2016年新作詳報 Part 1]ジュネーブ オート オルロジュリ ー 決戦の火ぶた

2016.04.03

ロトンド ドゥ カルティエ アストロミステリアス
ムーブメントが60分で1回転するミステリアスを、アストロ化したもの。巻き上げと針合わせを、ムーブメントに内蔵したサファイアクリスタルのみで行う仕組みである。非常に複雑な機構だが、巻き上げや針合わせの感触はかなり良質だ。手巻き(Cal.9642MC)。25石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約50時間。パラジウム(直径43.5mm)。30m防水。限定100本。予価2060万円。

「正統派」を揃えた2016年のカルティエ

S.I.H.H.のトレンドを牽引するカルティエ。18KPGやスケルトンのリバイバルなどは
明らかにカルティエがもたらしたものだ。今年は、ドレスウォッチのような気品が漂う
「ドライブ ドゥ カルティエ」をリリース。今時珍しい、オーセンティックなジュエリーウォッチにも力を入れた。

社が新製品を手控えする中、カルティエの姿勢はいっそう際立っていた。質と量でS.I.H.H.を牽引する同社は、オート オルロジュリー、ハイジュエリー、そしてメティエダールという3つの柱を拡大し、メンズ コレクションとして新しく「ドライブ ドゥ カルティエ」も加えた。

 2016年の目玉は、複雑時計らしからぬ複雑時計「ロトンド ドゥ カルティエ アストロミステリアス」だろう。ムーブメントを分針に見立てて1時間に1回転させる設計は、設計者キャロル=フォレスティエ-カザピのもっとも得意とするもの。今回はサファイアディスクを使った針合わせや巻き上げ機構を採用することで、ムーブメント自体の「ミステリアス化」に成功した。トリッキーに見えるが、技術はすでにあるものの応用だ。信頼性は期待してよいだろう。またケースが薄いため、装着感も悪くない。機構も面白く、パッケージングも秀逸。ただし緩急針は筆者の好みでない。
 個人的に惹かれたのは、男性用と銘打った「ドライブ ドゥ カルティエ」コレクションである。マルチパーパスウォッチを好む近年のカルティエだが、この薄いモデルは明確にドレス/ビジネスウォッチを指向している。とはいえ、マッシブで立体的なケースや極端に短いラグ、意図的に芯地を太くしたストラップなど、ドレスウォッチのコードにはない要素がいくつも盛り込まれている。近年、装着感と存在感の両立を試みるカルティエ。本作も、現在のカルティエにしか作り得ない「ドレスウォッチ」といえる。内容を考えれば、価格も妥当だろう。

左:ドライブ ドゥ カルティエ フライング トゥールビヨン
新作のドライブ ドゥ カルティエ。一見オーソドックスだが、そのクッションケースはかなり個性的だ。男性用を意識したのか、文字盤のサテン仕上げも強めだ。薄さと力感を両立させた快作。手巻き(Cal.9452MC)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KPG(縦41×横40mm)。3気圧防水。予価1030万円。5月発売予定。
右:クレ ドゥ カルティエ オートマティック スケルトン
「クレ」に加わったスケルトン。重い22Kの採用で、ローターを大胆に肉抜き。また自動巻き機構の小型化で、自動巻きとスケルトンの両立に成功した。仕上げは申し分なし。また11.45mmと薄いため着け心地も良い。自動巻き(Cal.9621MC)。28石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。30m防水。予価640万円。

 カリブル ドゥ カルティエの「ダイバー ブルー」も、既存モデルのコスメティックチェンジと思いきや、実によく練られたプロダクトだった。文字盤は下地にサンレイ処理、上に青いメッキを施し、その上から薄くツヤ消しのラッカーを載せたものだ。今までの「カリブル」にはなかった複雑なニュアンスを持つ文字盤は、この新作ならではの魅力といえるだろう。今後カルティエは、文字盤のクリエイションに一層力を入れるであろうことは、「ドライブ ドゥ カルティエ」の一部モデルに使われた、金色のアプリックインデックス(カルティエでは珍しい)にも明らかだ。
 加えて本年のカルティエは、ジュエリーウォッチを強く打ち出した。もともとこの分野を得意とするカルティエだが、今年はいっそう顕著だった。意欲作の「セルティ ビブラン」にはレザーストラップが加わったほか、ジュエリーウォッチの「イプノーズ」を大々的に展開した。搭載するのはクォーツのみというから、今時珍しい、典型的なジュエリーウォッチだ。そして最後がお家芸の「スケルトン」。「クレ ドゥ カルティエ オートマティック スケルトン」はローターを肉抜きし、自動巻き機構をマジックレバーからコンパクトな切り換え車に一新することで、自動巻きとスケルトンを両立させた試みだ。
 今年も重厚なコレクションを展開したカルティエ。どのモデルも魅力的だが、中でも久々にドレスウォッチを強く意識したドライブ ドゥ カルティエと、正統派ジュエリーウォッチのイプノーズには注目したい。常にS.I.H.H.のトレンドを作ってきたカルティエ。とりわけこのふたつは、他のメーカーを強く刺激するに違いない。

左:パンテール ミステリアス
ミステリアス用の手巻きムーブメントを、パンテールをあしらったケースでくるんだ新作。中身もさることながら、ケース全面に研ぎ上げたブラックラッカーを用いるのはかなり野心的だ。手巻き(Cal.9981MC)。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KWG(直径40mm)。30m防水。予価1970万円。
中:バロン ブルー ドゥ カルティエ セルティ ビブラン
文字盤上のダイヤモンドが自在に動く「セルティ ビブラン」のストラップ モデル。文字盤にはグレーのNACメッキを採用し、ダイヤモンドとのコントラストを強調する。手巻き(Cal.430MC)。18石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約40時間。18KWG(直径42mm)。30m防水。限定100本。予価1780万円。
右:クラッシュ スケルトン
既存モデルの18KPG版。角を手作業で面取りしたムーブメントも前作に同じ。先端を曲げた長針や、先端を尖らせたブルーサファイア付きリュウズなど、古典的なディテールを持つ。手巻き(Cal.9618MC)。21石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。縦45.32×横28.15mm。30m防水。限定67本。予価785万円。

左:ドライブ ドゥ カルティエ
ドライブ ドゥ カルティエの3針モデル。薄くて立体的なケースや、優れた装着感など、パッケージングの巧みさが光る。インデックスはカルティエでは珍しいアプリック。ツヤを強調した点に、このモデルの性格がうかがえる。自動巻き(Cal.1904-PS MC)。27石。2万8800振動/時。18KPG(縦41×横40mm)。30m防水。220万円。5月発売予定。
左中:カリブル ドゥ カルティエ ダイバー ブルー
ベゼルにブルーサファイアをあしらったモデル。合わせて文字盤色も変更された。下地にサンレイを施したブルー文字盤は、カルティエでは非常に珍しい試みだ。その複雑なニュアンスは大変魅力的だ。自動巻き(Cal.1904-PS MC)。27石。2万8800振動/時。18KPG×SS×セラミック(直径42mm)。300m防水。117万円。6月発売予定。
右中:イプノーズ MM
正統派のジュエリーウォッチ。小ぶりなケースにクォーツムーブメント、そしてエナメル仕上げのアリゲーターストラップと、ジュエリーウォッチの「定石」を手堅く押さえている。レディースウォッチの伝統回帰を予感させる1本。女性用だが”Wonderful Buy”。クォーツ。18KWG(縦30×横26.2 mm)。30m防水。予価465万円。5月発売予定。
右:クレ ドゥ カルティエ パンテール デコール
メティエダールでパンテールを表現した2016年のカルティエ。クレにパンテールをあしらった本作は、ケースの形状が既存モデルと大きく異なる。また磨きももう一段優秀だ。自動巻き(Cal.1847MC)。23石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約42時間。18KWG(直径40mm)。30m防水。予価1140万円。

つづきは雑誌『クロノス日本版』でお楽しみください。

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