ハリー・ウィンストン 〝キング・オブ・ダイヤモンド〟 輝きの謎

2016.12.02

(左)創始者が愛したエメラルドカットのシルエットなど、ハリー・ウィンストンは自社の歴史を時計のデザインに採り入れてきたが、この時計においてはベゼルの右側3時位置に配された3つのアーチがそれである。これはニューヨーク5番街本店のファサードを模している。(右)時・分表示とデイト表示、そしてムーンフェイズ表示をオフセンターに配した文字盤。ムーンフェイズはガルバニック加工による鮮やかな発色のブルーが月の背景に彩られている。無機質な月をイメージしたざらりとした質感を採り入れることで、神秘的な月の表情を導き出した。

2015年に発売されたダイヤモンドのないバリエーション。すっきりとした現代的な表情が際立ち、「HW ミッドナイト」シリーズの持ち味であるシンプルな一面が強調されている。自動巻き(Cal.HW3203)。28石。2万8800振動/時。18KWG(直径42mm)。3気圧防水。325万円。

 ハリー・ウィンストンは「ヨンカー」や「ホープ」などの稀少なダイヤモンドに携わり、まさしく〝王〟の名にふさわしい歴史を歩んできたジュエラーだ。1989年の時計業界参入以来、独立時計師を起用した「オーパス」シリーズを掲げるなど時計製作においても新機軸を打ち出してきた。そんなハリー・ウィンストンが3年前、スウォッチ グループの傘下に収まり、注目を浴びたのも記憶に新しい。以降同社は、ブランパンとの共同開発のムーブメントを搭載するなど、先のオーパスのような超絶技巧ばかりではなく、極めて実用性の高いピースの開発にもいそしんできた。そんな昨今の歩みを物語る新作が、「HW ミッドナイト・デイト ムーンフェイズ オートマティック 42㎜」である。同コレクションでは女性用の直径36㎜も展開されており、数ある機構の中でも極めて芸術的な外観のムーンフェイズに焦点を当てているという点も、実にハリー・ウィンストンらしい選択と言えるだろう。

 ハリー・ウィンストンには、「鷹の目」と呼ばれる鑑定士がいる。通常、腕時計に使用されるダイヤモンドは高品質と呼ばれるものでもVS+が多いが、ハリー・ウィンストンにおいてはワンランク上のVVS+と認められたダイヤモンドのみが使用される。こうした既定の基準値に加えて、光の屈折を邪魔する位置への内包物の有無など、独自の基準と厳格な鑑識眼によって、さらに数%が削られていく。こうして選りすぐられたダイヤモンドのみが、最終的に〝ハリー・ウィンストンのダイヤモンド〟を名乗ることができるのだ。

時計の裏側はトランスパレントバック仕様。そこから緩急調整に必要な緩急針を廃したフリースプラングとシリコン製ヒゲゼンマイを用いたブランパンとの共同開発ムーブメントCal.HW3203を見ることができる。スケルトンローターの装飾に加えてブリッジも面取りされるなど、美しい仕上げが施されている。

 しかし輝きの強い宝石を使えばこそ、ダイヤモンドウォッチはときに華美になりやすい。そこで発揮されるのが、ハイジュエラーとしての巧みな感性である。かつて創始者のハリー・ウィンストンがダイヤモンドの溢れるような輝きを導くためにぎりぎりまで地金を排した〝ウィンストニアン・スタイル〟を生み出したように、この時計においても引き算的なバランス感覚が活かされている。輝きに反して、余剰のないオフセンターのレイアウトやざらついた質感で無機質な表情を見せるムーンフェイズ表示、艶を抑えたシルバーダイアルなど、すべての要素を控えめなトーンで仕上げることで、精悍さを際立てているあらゆるディテールが、ダイヤモンドとの新たなコントラストを見せるようになった。

 先に述べたように、この時計においても他の機械式モデル同様、ブランパンとの共同開発ムーブメントが搭載されている点も忘れてはならない。スウォッチ グループ内の各ブランドが積極的に採用してきた緩急針のないフリースプラングとシリコン製ヒゲゼンマイを併用することで高精度と耐久性が約束されている。機能性と審美性を追求するジュエラーの快進撃は続く。

Contact info: ハリー・ウィンストン クライアントインフォメーション Tel.0120-346-376 www.harrywinston.com