「黒色×金色」、通称“黒金(くろきん)”。この2色の組み合わせは時計愛好家のみならず、多くの人々を魅了してやまない特別な魅力を持つ。黒色のシックな佇まいに金色が加わると、華やかさの中にも重厚感があり、他を寄せ付けない特別な魅力が生まれ、時計は圧倒的な存在感を放ち始める。王道の組み合わせだからこそ、各ブランドがこの2色で「どんな世界を表現するか」に、私たちは興味を持つのかもしれない。その一例として紹介したいのが、グランドセイコー「エボリューション9スプリングドライブ U.F.A. SLGB006」だ。今回は同作の魅力と、SLGB006が文字盤に込めた世界観を解説していこう。さらに「黒金」が持つ色のメッセージ性から、おすすめのコーディネート、印象をガラリと変える替えストラップの選び方までを伝授する。

Photographs & Text by Mutsuyo Ito
[2026年8月19日公開記事]
グランドセイコー「SLGB006」の全体的な色を解説

ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2026で発表された、スプリングドライブ U.F.A.(Ultra Fine Accuracy)を搭載した限定モデル「エボリューション9スプリングドライブ U.F.A. SLGB006」。ダイアルと革ストラップは黒色、ケースやバックル、インデックス、針は金色という普遍的な色の組み合わせだ。デイトディスクもこれに併せて黒になったことで、ダイアル全体と調和している。
「金色」というと光り輝くイメージが強いが、ヘアライン仕上げによってツヤが抑えられ、上品な輝きを感じられる(本記事作成の為にお借りしたモデルはサンプルの為、実際の製品とは若干見え方が変わることをご了承いただきたい)。ダイアルはただの黒色ではない。室内の弱い光源下では、ダイヤモンドダストのような微細な模様がインデックス付近でほのかに見られる。しかしこれだけで終わらせないのは「THE NATURE OF TIME」をブランドフィロソフィーに掲げるグランドセイコーならではだろう。
では、その手が込んだダイアルをクローズアップして解説していこう。
“ただの黒”ではない文字盤を見ていく

SLBG006のダイアルは、光源によってかなり表情が変化するうえ、周りの景色が映り込みやすい為、撮影が非常に難しいモデルであった。弱い光源から強い光源に変わるにつれて変化していくダイアルの見え方を、順に解説していこう。
弱い光源下での文字盤の見え方

まずは、弱い光源下での表情。ダイアルはしっとりとした質感の黒色で、外周のインデックス付近にわずかに微細な、まるで星屑やダイヤモンドダストを彷彿とさせる模様が見える。黒色の部分が主張せず、落ち着いた印象のままなのに対して、金色の部分が少し強く輝いているようにも見えた。
強い光源下での文字盤の見え方

上記よりも強い光源下での表情。微細な模様がダイアル全体に広がった。この模様は中心から外周にかけて多くなっている。光が強くなったため、黒色の部分にも艶が出て見える。
太陽光下での文字盤の見え方

太陽光による強い光源下での表情。黒が静かに息を潜めると、樹氷をモチーフとした模様が浮かび上がった。さらに、弱い光源下でもきらめいていた模様が、まるで樹氷の周りを舞う雪のように重なり合う。そこに生まれた奥ゆきによって、ダイアルはまったく別の表情へと変化を遂げる。太陽光を浴びて輝くケースの金色に決して引けを取らない、圧倒的な存在感が目を引いた。
この樹氷モチーフ自体は、U.F.A.を搭載した初期モデルであるSLGB003と同じパターンを使用しているが、ダイアルに投影された自然現象は異なる。SLGB006のダイアルには樹林できらめく樹氷に加えて、「サンピラー」という自然現象を表現しているという。筆者も今作をテーマに原稿を書くまで知らなかった。いや、書かなければ知ることがなかったであろう。では、SLGB006の文字盤に意匠として込められた、幻想的な現象について解説していこう。
ダイアルに投影された「サンピラー」現象とは
サンピラー(太陽柱)とは、日の出や日の入りの時間帯、つまり太陽が低い位置にある時に、光の柱が垂直に伸びているように見える大気光学現象だ。この現象は、大気中に浮かぶ六角板状の小さな氷の結晶によって引き起こされる。
上空の気温が氷点下まで下がり、かつ風が穏やかな日、これらの氷の結晶は空気抵抗を受けながら、平らな面を地面に対してほぼ水平に保った状態で、ゆっくりとそろって落下する。このとき、地平線の近くにある、低い角度からの太陽光が差し込むと、水平に並んだ無数の結晶の表面が鏡の役割を果たし、その部分で跳ね返った光が地上にいる人間の目に届くことで、それらの光がつながって、光の柱として映し出される仕組みだ。

上空の十分な寒さ、結晶の向きを乱さない無風状態、そして太陽の高度が低いという要素がそろった時にしか見ることのできない、幻想的な自然現象である。条件が合致して初めて見ることができる美しい現象は、まさに限られた光源下でしか見ることのできない表情を持つ文字盤と重なった。
「黒金」がもたらす、色のメッセージ性

そもそも、なぜ人はこの「黒金」の組み合わせに強く引かれるのだろうか。伝統工芸の漆器や蒔絵、お神輿がそうであるように、日本においてこの2色は、古くから「ハレの日」を彩ってきた色だからだろうか。静かに佇む黒色が、金色という「光」を上品に引き立たせる。この対比美を大切にしてきたからゆえに、私たちは今も特別な感覚を覚えてしまうのかもしれない。
この2色は、色の性質(光をすべて吸収する黒と、光を強く反射する金)としては正反対だが、人の心理に与える「重みや、高級感・特別感というメッセージ性においては、驚くほど似た影響力を持っていると言える。だからこそ、これを身に着けた時の高揚感や満足度が高くなるのだろう。
お勧めしたいコーディネート3選
「黒金」の時計は他を寄せ付けない圧倒的な存在感があるゆえに、コーディネートが難しいとも言える。よって、色を多用せず、時計そのものの色を活かす配色が基本になってくる。ダークな色合いのスーツに合わせるのは鉄板であるため、今回はカジュアルな素材感の服に合わせて撮影してみた。

王道中の王道。全身黒に「黒金」時計のコーディネート。時計を愛する方なら、大きく頷いてくれることだろう……などと思いつつ、時計を主役にしたい! と考えるとまずはこれになる。アクセントとして白スニーカーにしたい気持ちをグッと抑えて、靴や鞄ももちろん黒色で。時計以外のアクセサリーを金色のもので合わせるのも素敵だが、時計を主役にと考えると、他は盛りすぎないほうがお勧めだ。

こちらは、少し色で遊んだコーディネート。シャツの金色の柄とパンツのダークブラウンは時計の金色を拾っている(ダークブラウンは「金=黄色」の明度を下げた色)。よって、色として加えたのは、シャツの「カーキ=緑色」だけだ。こちらに関しては、時計を主役に、というよりも全身に時計が溶け込むようなコーディネートになっている。

最後は、時計の「黒金」、服の「白T×デニム」という王道&王道の組み合わせだ。時計のラグジュアリー感に負けてしまうかな、という懸念を持ちつつ撮影に臨んだが、予想外に「あら、素敵」という仕上がりになった。ちなみにこの組み合わせでは白色は黒色の明度を最大値まで高くした色であるため、新たに加えた色はデニムの青だけである。つまり、ひとつ前で提案したコーディネートと同じく、足す色はひとつまでになっている。こうすることで、全体のバランスがとりやすくなる。
服ではなくて、時計自体にオシャレをさせたいのだよ、という方はここからが本番!
時計のコーディネートといえば、革ストラップの交換。次はその際の選び方を伝授しよう。
サードパーティーでベルトを変えるなら? お勧めカラーを3色提案!

革バンドモデルには、バンドの色や素材を変えるという楽しみ方もある。もちろん、販売時に付いているストラップが、各メーカーが選んだ最適解な色ではあるだろう。しかし、「たまには気分を変えて、違う色を合わせてみたい」と思うこともあるはずだ。ただ、いざ自分で選ぼうとすると、悩んでしまうことも少なくない。そこで今回は時計の魅力を引き立てる、お勧めの色を提案しよう。なお、画像は筆者が悪戦苦闘しつつ作ったコラージュゆえ、若干の違和感を感じるかもしれないが、そこは多めにみてほしい。

まずは黄み寄りのブラウン。ダイアルが強い光源に当たった時に現れる色をさらに高明度(明るく)にしたような色だ。金色部分を低明度(暗く)にしてもこの色に近くなる。全体のイメージは、黒という重厚感のある色の面積が減った分、軽やかに感じられ、肌なじみも良くなる。時計自体の力強さを、少し優しいイメージにしたい時にお勧めしたい。

次に、明るめのカーキベージュ。「金=黄色」と「カーキ=緑色」は、色相環(虹のように連続的に色をリング状に並べた図)でほぼ隣同士の色である。よって色としてのコントラストは低いためケースからストラップにかけて、色自体が変化してもケンカする事なく調和する。洗練されたアーバンスタイルに仕上げたい時にお勧めしたい。

最後は、バーガンディーだ。ダークトーンの為、全体で見ると元の黒革ストラップの印象に近くなる。バーガンディーは、端的に説明すると「紫みのある赤色と、黒色を足した色」だ。この色に変えると色っぽさに拍車がかかる。「バーガンディー」という名前の由来であるブルゴーニュワインや、ルージュの色を連想していただければ、色っぽさの根源が浮かぶかもしれない。言わずもがな大人の色気を演出したい時にお勧めしたい。
光源の違いで2倍楽しめる黒金モデル。その違いは一見の価値あり!

光源の移り変わりによって表情をガラリと変え、2倍楽しませてくれるSLGB006。「黒金」時計の王道かつ普遍的な魅力を持ちながらも、環境によってもうひとつの顔をのぞかせるのがこの時計の魅力のひとつだ。光が差し込んだとき、ダイアルには幻想的な美しさが姿を現す。その変化に思わず目を奪われるような体験は、やはり実機を見てこそ味わえるものだろう。写真だけでは決して伝えきれないもうひとつの表情を、ぜひ一度店頭で確かめてみてほしい。
筆者プロフィール
伊藤むつよ
時計メーカーの色彩監修やイメージコンサルティング、催事会場でのパーソナルカラー診断や接客講師など、販売現場の「品・場・人」にまつわる幅広いコンサルティング業務を行う。時計修理技能士2級・J-color認定講師・GIA AJP等多数の資格を保有。株式会社parakeITO代表取締役。HP:https://www.mutsuyo-ito-parakeito.com/



