ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2026で発表された、グランドセイコー史上最小径となるダイバーズウォッチ「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A. Diver Ushio 300」。小径で厚みを感じさせず、軽いダイバーズウォッチを探していた方には、見事に刺さったモデルのひとつではないか。ラインナップは2型で、ダイアル色は通称“Ushioブルー”と“Ushioグリーン”だ。どちらも「海」をテーマにしているが、異なる表情が見てとれる。今回はこの2モデルのダイアルに投影された海の表情と色を深掘りすると共に、おすすめのコーディネートを紹介する。

Photographs & Text by Mutsuyo Ito
[2026年6月xx日公開記事]
SLGB023、SLGB025「Ushio 300 Diver」とは

自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RB1)。33石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径40.8mm、厚さ12.9mm)。300m防水。165万円(税込み)

自動巻きスプリングドライブ(Cal.9RB1)。33石。パワーリザーブ約72時間。ブライトチタンケース(直径40.8mm、厚さ12.9mm)。300m防水。165万円(税込み)。
ウォッチズ&ワンダーズ ジュネーブ2026で話題を呼んだ、グランドセイコー製ダイバーズウォッチ史上最小径(40.8mm)、「エボリューション9 コレクション スプリングドライブ U.F.A. Diver Ushio 300」。昨年発表された、年差±20秒という超高精度を誇るスプリングドライブU.F.A.(=Ultra Fine Accuracy )の新ムーブメントであるCal.9RB1を搭載している。
先に発売されたCal.9RB2と今作との違いは3つ。カレンダーの有無、パワーリザーブ表示の位置、回転錘の耐衝撃専用形状だ。一番分かりやすく違いを感じたのは、カレンダー表示を省いた事だろう。これによりすっきりとしたデザインになった。また、全体的にパーツ点数を減らしたことで、ダイバーズウォッチに必要な要素(=防水性や回転ベゼルの確保)を取り入れながらも、小径薄型化が実現できたという。

そして忘れてはならないのが中留の仕様だ。中留にはグランドセイコー初の「微調整機構つきスライドロックエクステンダー方式」のバックルが採用されている。名前が長い……と感じたのは筆者だけだろうか。つまりこのバックルは、2mm×3段階の微調整機構と18mmのダイビング用スライドロック式エクステンダーが付いており、最大で24mmまでの延長を可能にしている。
さらに、バックルのロゴ部分にはダブルロック機能もついた。私ごとではあるが、筆者は時計が好きである。しかし、実はダイバーウオッチとはさほど触れ合ってこなかった。よって、この中留の機構には正直ビックリした。
何がと問われると、お恥ずかしい話なのだが……エクステンダー機能を探すのにかれこれ20分ほどかかったのだ。見つけた時「何これ凄い!」と感動した私の脳内には、おそらくドーパミン的な何かが出ていただろう。公式ホームページに説明動画があることに気付いたのは、撮影が終わった後だった。そこで、この20分間に自力で見つけた情報を、是非共有させてほしい(下記画像参照)。




ダイアルには「Ushioブルー」と「Ushioグリーン」の2色がラインアップされる。「Ushio」という愛称は、島国である日本の豊かな海洋資源を育んだ潮流の「潮(うしお)」に由来しており、どちらのモデルもダイアルに型打ち模様が施される。
着色はSLGB025がエプソン得意の光学多層コーティング、SLGB023がメッキとラッカーによるものだ。この色によって、日本列島を取り巻く広大な海を表現している。
「Ushio 300 Diver」の色を解説

SLGB023、025共にケースとブレスレットに、ブライトチタンを使用している。ブライトチタンというと、軽さや耐食性に注目されがちだが、色も特徴的だ。ステンレススティールと比べると明度(明るさ)が低く、ツヤ感も抑えられている為落ち着いた印象に見える。

このブライトチタン特有の色味により、ダイアルの型打模様や繊細な色の変化をより際立たせている。型打模様に関しては、現行モデルであるSLGA015やSLGA023と同じ、潮パターンを採用している。次に、各モデルのダイアル色を解説していこう。
SLGB023のダイアル色を解説

SLGB023、通称「Ushioブルー」のダイアルは、広大な海の中で深く潜るにつれて徐々に光が届かなくなり、深い色に変わっていく様を表現している。中心から外側へ深みが増していくグラデーションにしたことで、中心部の型打ちが見えやすくなっている。
色味は青といえばこの色! と思いつく方が多いであろう、青色の彩度(鮮やかさ)を低くしたような、派手すぎず地味すぎない青色だ。しかし、ただの青ではない。
照度(明るさを表す単位。単位面積あたりの光量を指し示す)によって色や型打ちの見え方が異なり、海のように時によって違った表情を見ることができる(下記画像参照)。

SLGB023は、強い太陽光下と日陰でダイアル色の変化が大きいモデルと言える。太陽光下では鮮やかさが際立ち、日陰で見ると型打ち模様は身を潜める。まるで静かな深い海を投影しているようだ。ベゼルのセラミック部分の色味もダイアルと同じように変化するが、太陽光下ではベゼルの色味にほんの少しだけ黄みを感じ取れた。
さて、このダイアルが表現した海の青色だが、そもそも海はなぜ青く見えるのか疑問に感じた事はないだろうか。こちらは後ほど解説していこうと思う。
SLGB025のダイアル色を解説

SLGB025、通称「Ushio グリーン」のダイアルは、同じ海でも浅瀬で太陽の光を受けて反射する、水面がゆらぐ様を表現している。こちらもSLGB023と同じく中心から外側へ深みが増していく仕様だが、さらに外周部にグラデーション塗装を追加しているため、中心部の型打ちが見えやすい上、色の幅がSLGB023よりも大きくなっている。
色味はダイアル、ベゼル共に黄みよりの緑で落ち着いた色に見えるが、太陽光下ではダイアル色のみ、黄みが弱くなり鮮やかさが増している。よって、照度による色の変化は、SLGB023より大きい(下記画像参照)。

SLGB025も強い太陽光下と日陰でダイアル色の変化が大きいモデルである。特に強い太陽光下では、グラデーションがより強調された上、中心部には微細なパールのような輝きが現れる。この色の変化の大きさはグラデーションを追加した事による色の濃さだけではなく、光学多層コーティングによるものでもある。この光学多層コーティングとは何か? また浅瀬の水面を表現するにあたり、なぜ緑を使ったのか? は次の章で解説していこう。
同じテーマでもこんなに違う!? 2モデルが投影した海の表情

重ねての説明にはなるが、両モデルともに「海」をテーマにしている。もちろん「海」と言っても色々あるが、海は一部の例外を除けば「青い」ものであるという認識のはずだ。しかし、海の水をバケツで汲むと青くはない。なぜだろう?
まず前提として、人間が見えている世界には「色」という物体は存在しない。存在しているのは光であり、この光の中で人が認識できる範囲を「可視光」という。可視光は、「赤〜橙〜黄〜緑〜青〜藍〜青紫」と虹色のグラデーションになっており、一見白く見える光にもこの全ての色が混ざっている。
この光が物体に当たり、反射した色光のみを眼というレンズで捉えて神経信号に交換する。その信号を脳で捉えて初めて「青い」と感じる=色を認識できるのである。

では本題に戻って、「Ushioブルー」と「Ushioグリーン」が投影した海の表情を色が見える仕組みとともに深掘りしていこう。
Ushio ブルーが表現した海の青。そもそも海はなぜ青いのか

上記で説明したように、人は眼に入ってきた光で色を認識する。では海中ではどうだろうか。海中の水分子には、波長の長い光(赤〜橙〜黄)を吸収しやすい性質がある。よって太陽光が海に差し込むと、この光は吸収される。
一方、波長の短い「青い光」は吸収されずに海中まで入り込み四方八方に散乱することで人の目に青い光が届き、「青い」と感じる。水深が深くなると、最後まで残った青い光も距離が長くなるにつれて徐々に吸収されたり、散乱し尽くし、光量が少なくなったりすることで「暗く深い青」に見えるのだ。
Ushio グリーンが表現した水面の緑。水位が変わると色が変わる不思議

一方で浅瀬はどうだろうか。浅瀬では、光が水分子に吸収される前に海底に到達する事もある。海底が白っぽい砂地だった場合、白い砂は全ての光を反射しようとする。その往復の過程で水分子によって赤〜橙色の波長の長い光は吸収され、青と緑の光が残るため、人の眼には緑がかった青色に見える。
ちなみに日本近海等でも見られる、少し濁りのある緑がかった海は植物プランクトンによるものと言われており、植物プランクトンは光合成をするため、赤と青の光を吸収して、緑の光を反射する。植物プランクトンが「緑」を、水分子が「青」を残すことで、緑がかった海になるそうだ。自然界は本当に面白い。
自然界に学ぶ。光学多層コーティングとは
光学多層コーティングとは、従来の塗装による着色とは異なり、PVD(※1)によってほぼ透明な複数の薄膜を物体の表面に作ることで、光の性質を利用して「色」を出現させる事ができる技法だ。鳥や蝶の羽、魚の鱗など、角度によって見える色の変わる構造色を人工的に作り出すことができるのだ。鳥で例えてみよう。

鳥の羽の表面には、ケラチンというタンパク質が作るナノメートルスケールの層があり、ここに光が当たると一部の光は表面で反射し、残りは内部の層で反射する。この反射した光同士が干渉(※2)という現象を起こすことで、見る角度によって「色」が現れる構造色が生じる。この見る角度を設計次第で自在に変化させられるのが光学多層コーティングである。
※1PVD:Physical Vapor Depositionの略称。高温状態の真空装置で金属をイオン化して蒸着させること。
※2干渉:複数の経路を通ったふたつ以上の光が重なり合った時に、特定の波長の光が強め合う一方で、他の波長の光は打ち消される現象のこと。真珠の表面やシャボン玉にもこの現象が起こる。
この技術はダイアルの凹凸模様をトレースするように薄膜が形成されるため、テクスチャーを美しく残したまま豊かな色表現が可能を可能にした。光学技術で表現したダイアル色。次はそのダイアル色を引き立て、おしゃれを楽しむためのコーディネートを紹介しよう。
時計コーディネートの鉄板!? 「色を拾う」を実践!
今回おすすめするコーディネートは、時計をコーディネートする時の鉄板である「ダイアル色を拾う」という手法を使ってみた。SLGB023には「青色」を、SLGB025には「緑色」を拾うが、ただ単に同じ色を組み合わせるのではなく、色の明度(明るさ)と彩度(鮮やかさ)を変えたコーディネートを2パターンずつ紹介していこう。
SLGB023におすすめのコーディネート

ダイアル色の明度(明るさ)と彩度(鮮やかさ)を若干低くしたようなブルーのパンツと、鮮や可すぎないレッドのトップスを組み合わせた対照色相配色のコーディネート。色相(色味)は大きく違うが、どちらの色も彩度を抑えたことで、全体がまとまり落ち着いた印象になる。逆に活発さを出したい時には、レッドの彩度を上げるといい。

こちらも上記と同じ色味のブルーのトップスと、明るいグレーのパンツを合わせたコーディネート。トップス、パンツ共に、時計から色を拾っている(トップス→ダイアル色、パンツ→バンド色)。服という面積が大きい場所を、時計とお揃いにすることで全身に統一感が出る。
SLGB025におすすめのコーディネート

ダイアル色(特にベゼル色)の明度(明るさ)を高くしたようなカーキベージュのパンツと、グレーのトップスを合わせたコーディネート。こちらもトップス、パンツ共に、時計から色を拾っている(トップス→ダイアル色、パンツ→バンド色)。パンツ色の明度を上げることで、時計を少し目立たせることができ、洗練された大人っぽい印象になる。

こちらは一見色を拾っていないように見えるだろう。若干色相(色味)のずれはあるが、ミントグリーン=ダイアル色の明度、彩度を上げた色であり、ホワイトはバンドのグレーの明度を最大値まで高くした色である。
つまり、トップス、パンツ共に、時計の色を拾ったコーディネートなのだ。上記の「グレー×カーキベージュ」と同じ手法だが、印象は真逆に見えるかもしれない。とにかく爽やかな印象がほしい!という方にはこちらをお勧めしたい。
腕に海の情景をのせて。「青or緑」あなたはどちらを選ぶ?

SLGB023、025両モデルの魅力は伝わっただろうか。今回は時計の内部や外装にも少し触れたが、元時計販売員魂に火がつき、もっと書きたい! と思ってしまうほど、さまざまな魅力があった。
ダイバーというと判読性や視認性が重視されるため、凝ったダイアルにする必要性は感じないかもしれない。しかし、今作はそこにセイコーの意地を感じた。「THE NATURE OF TIME」をブランドフィロソフィーに掲げるグランドセイコーだからこそ、生まれたモデルなのだろう。
これから夏本番。ふたつの海の情景を投影した今作をあなたの腕に載せるなら「青or緑」どちらを選ぶ?
筆者プロフィール
伊藤むつよ
時計メーカーの色彩監修やイメージコンサルティング、催事会場でのパーソナルカラー診断や接客講師など、販売現場の「品・場・人」にまつわる幅広いコンサルティング業務を行う。時計修理技能士2級・J-color認定講師・GIA AJP等多数の資格を保有。株式会社parakeITO代表取締役。HP:https://www.mutsuyo-ito-parakeito.com/



