【インタビュー】レッセンス創業者「ベノワ・ミンティエンス」

2024.03.19

針ではなく、文字盤全体を回転させるというアイデアで、一躍、時計好きたちの話題をさらったレッセンス。一見、奇抜に見えるが、どの角度からでも直感的に情報を読み取れる高い視認性は、創業者のベノワ・ミンティエンスが工業デザイナーであればこそ。

三田村優:写真
Photograph by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2024年1月号掲載記事]


ユーザーフレンドリーを加速させるレッセンス

ベノワ・ミンティエンス

ベノワ・ミンティエンス
レッセンス創業者。1972年、ベルギー生まれ。98年にアントワープのデザイン学校を卒業した後、エントヴェン&アソシエイツにおいてシニアコンサルタントに就任。在籍中に高速列車、航空機のキャビン、医療機器、狩猟用ライフルのデザインなどを手掛ける。2004年にオリジナルウォッチの製作に取り組むも断念。09年に回転ディスクで時間を表示する、レッセンスの原型を完成させた。

 2010年創業の同社は、「Type 5」や「Type 8」、そしてe-Crownを搭載した「Type 2」でラインナップを完成させた。気になるのは同社のこれからだ。

 ミンティエンスはこう語った。「私たちは今後8年間のポートフォリオ開発を定義しました。現在、そのうちの3つについては答えを出しています。他の3つの詳細は申し上げられませんが、これには時間と一貫性が必要とされますね。また、既存のモデルをより高度な技術でアップグレードしています。例えば、私たちは厚みを減らしたり、潤滑油の使用を避けたりする方法を見つけました」。可能にしたのは、時計メーカーとしての成熟だろう。お世辞にも、かつてのレッセンスは信頼性の高い時計とは言えなかったが、今や別物になった。劇的な進化をもたらしたのは、「R500H」という新しい検査メソッドだ。

Type 1 Round M

レッセンス「Type 1 Round M」
2023年春に登場した「Type 1 Round」の色違い。文字盤全体とインダイアルが回転するシステムはそのままに、それぞれのディスクにカラフルな色をあしらっている。視認性がまったく損なわれていないのはさすがだ。時計メーカーとしての成熟を感じさせるモデルである。自動巻き(ETA 2892A2+ROCS 1.3モジュール)。40石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約36時間。Ti(直径42.7mm、厚さ11mm)。277万2000円。(税込み)。

「レッセンスのすべての時計は、世界中に出荷する前に、アントワープのアトリエでR500Hに合格する必要があります。この手法は2016年に導入しました。そもそもレッセンスの時計は従来のものとはまったく異なる動きをするため、独自に特別な検査を加えています。例えば、オイルを充填した時計の温度耐性テスト。オイルは温度変化によって膨張・収縮するため、オイルを使った時計の内部には、体積変化を補正するベローがあります。すべての時計は60℃で1時間作動させ、その後すぐにマイナス10℃で1時間作動させます。ここで、ベローと文字盤上の温度計がうまく機能しているかどうかをテストします。もっとも、標準的な検査項目でさえ、より細かく行われます。例えば、レッセンスの時計はすべて6ポジションで24時間ずつテストされます。当たり前に思えますが、多くの時計は3ポジションで数秒間しかテストされませんね」。クレイジーと思われるレッセンスだが、そのアプローチは極めてまっとうだ。彼はこう答えた。

「レッセンスのユニークさは、その外見よりも、ユーザーのために何をすべきかを定義するという手法自体にあります。つまり、ユーザーのためのデザインでなければならないし、私たちの時計はユーザーを念頭に置いて作られているのです」

 誠実さが大事だと語る彼が、成功を収めたのは当然だろう。



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レッセンス “時計らしく在り、時計以上の何か”。自分だけの時を刻む「タイプ 8S」

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