現代におけるパイロットウォッチの在り方を再考する。そんな『クロノス日本版』Vol.98「パイロットウォッチ礼賛」特集を、webChronosに転載。今回から、実際のパイロットにインタビュー。活動内容や現場での現実とともに、彼らの“時”との向き合い方に注目。第二回は、国際オーナーパイロット協会(AOPA)理事の西村博行さんと、彼が愛用するロレックスの話である。
Photographs by Takafumi Okuda
細田雄人(本誌):取材・文
Text by Yuto Hosoda (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2022年1月号掲載記事]
Pilot’s Interview 2 西村博行さん
パイロットとひと口に言っても、操縦する機体のジャンルは多岐にわたる。そして着用者であるパイロットの数だけ、パイロットウォッチの理想形も存在するに違いない。今回は自家用ジェット機を自身で操る、AOPA理事の西村博行さんと、彼が長年愛用するロレックスを紹介しよう。
「針の位置でGMTの計算ができるなど、直感的に使用できる時計が好みです」
パイロットウォッチには厳密な定義が存在しない。その上、それを使うパイロット自体も多種多様だ。個人所有の軽飛行機を操縦する人も、自衛隊でステルス機を操る人も、もちろん打ち上げロケットの乗組員だってパイロットである。そのため最良のパイロットウォッチが何であるかを考える際は、誰が着用するかも重要だ。
国際オーナーパイロット協会(AOPA)の日本支部AOPA-JAPANで理事を務める西村博行さんは、所有するジェット機の操縦を自身で行う、プライベートパイロットだ。まとまった休みを取って、セスナ社のサイテーション・ムスタングでフライトを楽しむ。そんな彼がパートナーに選ぶのは、ロレックスの「オイスター パーペチュアル GMTマスターⅡ」だ。
「フライト前に空港の管制塔へ提出する必要のある飛行計画では、移動開始時刻や帰着時刻などをGMT(UTC)で記入する必要があります。また、飛行中は常時、航空管制とコミュニケーションを取っていますが、この間の時刻のやりとりはすべてGMT。通過予定時刻や到着予定時刻を急に聞かれることがあるのです。そんな時にGMTウォッチがあると便利ですね」


そう、西村さんはGMTマスターⅡのGMT針を協定世界時に合わせた上で時針を日本時間、つまりGMT+9時間に設定している。現在でこそGMTウォッチは時針、GMT針共に居住する国のタイムゾーン(ホームタイム)に合わせておき、異なるタイムゾーンへ移動した場合に時針のみを動かす、トラベルウォッチとしての用途が圧倒的に多い。しかし本来、GMT針はグリニッジ標準時を指すためのもの。忘れがちだが、GMTマスターはパン・アメリカン航空のパイロット向けに開発された、純然たるパイロットウォッチである。GMTマスターⅡを本来の用途で使用する人と初めて会ったが、フライト中にさっと目視でGMTが確認できるのは頼もしい限りだ。
「見ていただいたのでよくお分かりだと思いますが、操縦中はかなり忙しいので、時計付属の航空用回転計算尺などを、操作している暇はないですよね。対して時分針とGMT針が太くて見やすく、文字盤の反射も気にならないGMTマスターⅡは最適です。仲間には夜間の視認性に優れるApple Watchを使う人も多く、自分も一時期使っていましたが、ロレックスに戻ってきてしまいました」
21歳で免許を取るよりも前にカナダで購入し、これまで計2200時間以上にわたるフライトの大半を共に過ごしたGMTマスターⅡ。西村さんにとって、この時計こそが最良のパイロットウォッチなのだ。