H.モーザー 素材×感性×技術が織り成す新感覚FUNウォッチ

2025.06.28

H.モーザーが発表した「ポップ コレクション」は、実に色鮮やかな6シリーズ計18本の腕時計を揃えた、まさにポップアートのイメージを落とし込んだかのような意欲作だ。このコレクションを構築しているのは厳選された素材とそれを文字盤に仕上げるセンス、そして技術力。つまり、ルックスが楽しげなだけではない。高度な製造プロセスとH.モーザー流の遊び心とが融合した、高級腕時計の新しい表現である。

竹石祐三:編集・文
Edited & Text by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2025年7月号掲載記事]


天然素材を文字盤に採用した「ポップ コレクション」

エンデバー・スモールセコンド コンセプト ポップ

徹底した原材料選びと検査により、文字盤にはわずかな欠損や不純物も見られない。さらに、真鍮のベースプレートと貼り合わせる際には、宝石や珊瑚の裏面に不透明のニスを塗っているため真鍮が透けず、天然素材特有の柔らかい艶が楽しめる。また「エンデバー・スモールセコンド コンセプト ポップ」はスモールセコンドにわずかな段差を設け、単調な表情にしないデザインワークにも同社のセンスが感じられる。

 理想的なグラデーションを描くフュメダイアルに象徴されるように、H.モーザーはかねてより文字盤の表現に注力してきた。その一方で、数々のコンセプトモデルが示す通り、時計にユニークな感性を取り入れることも忘れない。「ポップ コレクション」は、こうしたH.モーザーの先鋭的なクリエイティビティを明快に表した作品ではないだろうか。

 2025年5月、新作のプレゼンテーションのために来日したCEOのエドゥアルド・メイラン氏は「アンディ・ウォーホルのポップアート作品がインスピレーションソースのひとつである」と明かした。鮮やかな6種類のカラーコンビネーションで展開される全18モデルのコレクションは確かに、ネーミング通りのポップセンスにあふれている。

 だが、このコレクションの立ち上げにはもうひとつ、大きな影響を与えた要素がある。それが24年に展開された、英国の時計ブランド、スタジオアンダードッグとのコラボレーションだ。それまで、H.モーザーの文字盤は単色での表現を主としてきた。だが、対照的な2色を組み合わせるスタジオアンダードッグの大胆な発想に触れたことで、デザイン表現の新たな境地を切り拓いたという。

エンデバー・トゥールビヨン コンセプト ポップ

「エンデバー・トゥールビヨン コンセプト ポップ」は、隣接する素材にわずかな隙間や段差もなく、2種類の素材を組み合わせたとは思えないほどスムーズに仕上げられている。トゥールビヨンキャリッジが配置された6時位置の窓からは天然素材の断面がわずかに顔をのぞかせるが、これを見ればいかに繊細な宝石細工によって作られているかが分かるはずだ。

 文字盤にグラン フー エナメルを用いたスタジオアンダードッグとのコラボレーションモデルとは異なり、ポップ コレクションには、ビルマ翡翠やトルコ石、ピンクオパール、ラピスラズリ、レモンクリソプレーズといった宝石と珊瑚の6種類が使われている。これら天然の素材を文字盤に成形するにあたり、まずは選び抜いた原材料を1〜1.2mmの厚さにスライス。薄く加工された素材は、光を透過させながら内包物や欠損箇所を見極め、文字盤の形状にカットする位置が慎重に決められる。文字盤の形状に成形された宝石と珊瑚は、CNCフライス盤を駆使して0.6mmの薄さに研削されるのだが、厚さを均一に揃えつつ、しかも各素材特有の輝きが失われないようにするため、加工には高い精度が求められるという。

 また、宝石と珊瑚は極端に薄く仕上げられているため、ベースとなる真鍮板に貼り合わせた際にはその質感が透けて見えてしまう。そのため、文字盤の裏面には特殊なニスを塗布して真鍮が見えないようにするなど、天然石の魅力を高めるための配慮が徹底されている。

エンデバー・スモールセコンド コンセプト ポップ

エンデバー・スモールセコンド コンセプト ポップ
ペルー産のピンクオパールをメインに、6時位置にはビルマ翡翠を組み合わせたスモールセコンドモデル。巻き上げ効率の高いラチェット式の自動巻きムーブメントを搭載し、約3日間のパワーリザーブを実現する。自動巻き(Cal.HMC202)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約3日間。SSケース(直径38mm、厚さ10.4mm)。世界限定28本。予価567万6000円(税込み)。
エンデバー・トゥールビヨン コンセプト ポップ

エンデバー・トゥールビヨン コンセプト ポップ
リング状のビビッドな珊瑚を挟むようにトルコ石を配した、軽快なパターンが目を引く。6時位置には1分間に1回転するスモールセコンドとしての役割も併せ持つフライングトゥールビヨンを配置し、インパクトの強い文字盤の中でも確かな存在感を放つ。自動巻き(Cal.HMC 805)。2万1600振動/時。パワーリザーブ約3日間。SSケース(直径40mm、厚さ13.5mm)。世界限定8本。予価1469万6000円(税込み)。

 繊細な製造工程を経て完成したポップコレクションは、宝石と珊瑚の鮮やかなカラーコンビネーションもさることながら、2種類の天然素材が隙間なく組み合わせられ、高級時計らしい、艶やかかつ滑らかな文字盤を堪能できる。もっとも「エンデバー・ミニッツリピーター トゥールビヨン コンセプト ポップ」だけは、ハンマーとゴングを配置する構造上の理由から、文字盤に使用する天然素材は1種類のみとなり、外周はラッカーで仕上げられている。それでも、宝石や珊瑚とラッカーとの色調を揃えて、シリーズ共通のカラーコンビネーションに仕上げるべく、ラッカーの色調整にも相当の試行錯誤が重ねられたという。

 華やかで眺めているだけでも楽しくなる配色は、多くの人を魅了する、まさしくポップ(=大衆的)なデザインだ。だが、これを宝石や珊瑚といったプレミアムな素材で作り上げたことにより、ポップでありながら〝VERY RARE〞でもあるという、実にH.モーザーらしさあふれる作品と言えるだろう。

エンデバー・ミニッツリピーター トゥールビヨン コンセプト ポップ

エンデバー・ミニッツリピーター トゥールビヨン コンセプト ポップ
南アフリカで採集されたレモンクリソプレーズを用い、外周をラピスラズリの色調をイメージした深みのあるブルーで彩色。フライングトゥールビヨンとミニッツリピーターを搭載した世界限定1本のユニークピース。手巻き(Cal.HMC 904)。35石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約90時間。18KRGケース(直径40mm、厚さ13.5mm)。ユニークピース。5688万1000円(税込み)。



Contact info:エグゼス Tel.03-6274-6120


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