ウブロCEO、ジュリアン・トルナーレにインタビュー。戦略の要はプロダクト

2025.11.06

ウブロCEOにジュリアン・トルナーレが抜擢されたと聞いて、筆者は正直納得した。ゼニスの再編を成功に導いた彼は、今のウブロにはうってつけだろう。

三田村優:写真
Photograph by Yu Mitamura
広田雅将(本誌):取材・文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yukiya Suzuki (Chronos-Japan)
[クロノス日本版 2025年9月号掲載記事]


ウブロはすべてにおいて他ブランドと差別化をしなければならない

ジュリアン・トルナーレ

ジュリアン・トルナーレ
ウブロCEO。1972年、スイス生まれ。ジュネーブ大学を卒業後、経営学の修士号を取得。レイモンド ウェイルを経て、2000年にヴァシュロン・コンスタンタンに入社。スイス市場の責任者を経て、北米マーケットの社長に就任。後にマネージング・ディレクターとして、中国市場の開拓に成功した。17年5月、ゼニスのCEOに就任。24年9月より現職。ウブロの革新性を回復することを命題に掲げる。

「就任後、創業者のカルロ・クロッコと会い、1980年にゴールドとラバーを融合することがいかに革新的だったかを聞きました。ジャン-クロード・ビバーの革新性もよく知られていますが、私はこれをさらに強化したいのです。ウブロは時計業界において特別な役割を持っており、マーケティング、製品、流通のすべてにおいて他ブランドと差別化をしなければなりません」

 彼が強調するのは革新さである。

「ウブロは急成長しましたが、やや普通になってしまったかもしれません。そのため、差別化を加速させたいのです。新しい広告キャンペーンはこれまでとはまったく異なるものになりましたし、スイス本社に建設中の新マニュファクチュールでは、顧客に特別なエクスペリエンスを提供する新たなホスピタリティプログラムを導入します」

 そんな彼の戦略の要はプロダクトだ。ゼニスでラインナップの整理に成功したことを思えば、これは当然だろう。

ウブロ「ビッグ・バン 20th アニバーサリー チタニウム セラミック」

ウブロ「ビッグ・バン 20th アニバーサリー チタニウム セラミック」
ウブロの革新性を象徴するビッグ・バンが今年誕生20周年を迎えた。それを記念したのが、ファーストモデルの復刻版だ。もっとも外装の仕上げは圧倒的に向上し、ムーブメントも自社製のウニコに置き換えられた。定番の打ち出しを強める今のウブロらしい新作だ。自動巻き(Cal.HUB1280)。43石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約72時間。Tiケース(直径43mm、厚さ13.2mm)。100m防水。世界限定500本。284万9000円(税込み)。

「正直、過去には限定モデルが多すぎたと考えています。ですから、今後はベースとなるコレクションをしっかり確立したうえで、厳選された特別な限定モデルを追加していきます。稀少性と高級感を維持するため、年間生産本数も4万〜5万本に抑えたいですね」。続いて彼は、ムーブメントの重要性を語る。

「ウブロはマーケティングや素材分野における革新性で知られていますが、時計製造技術の高さは十分に認識されているとは言えません。そこで、これから私が数カ月から数年をかけて、ウブロのムーブメント戦略を高めていきます。高品質なムーブメントを増やし、3針モデルでも仕上げを向上させます。来年にはクラシック・フュージョンを刷新し、薄くエレガントな魅力を持つ新モデルを導入します」。つまり、今年の「メカ-10」のような魅力的なムーブメントが出てくるということだろう。そして、ウブロの象徴とも言うべきMPシリーズ。

「MPシリーズには無限の可能性があります。来年、有名な現代アーティストと新たにコラボレートした非常に特別で斬新なMPモデルを発表します。今後も年に2〜4モデルほど、非常に創造的で高級感のある特別なMPモデルを発表する予定です」

 大成功の結果、良くも悪くも大人になったウブロ。革新性への回帰を謳い上げるジュリアン・トルナーレの下で、再び破壊的な進化を遂げることを楽しみにしたい。



Contact info:LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン ウブロ Tel.03-5635-7055


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