永遠に語り継がれるタイムピース #17 チューダー「レンジャー」

1952年に発表されたチューダー「オイスター プリンス」は、その名前とは裏腹に、過酷な環境でも耐え得るだけの性能を持った腕時計だった。その伝統から生まれたのが、より実用性を高めた「レンジャー」である。2022年に発表された本作は、偉大なベーシックと呼べるだけの高い基礎体力を誇る。

チューダー「レンジャー」

自社製自動巻きのCal.MT5402を搭載した新型レンジャー。ケースとブレスレットには、ほぼ全体にマットな質感をもたらすサテン仕上げが施され、ツールウォッチらしい骨太な雰囲気を漂わせる。ブレスレットは丈夫な3連だが、微調整の容易な“T-fit” セーフティーキャッチ付きフォールディングクラスプのおかげで、着ける腕のサイズを選ばない。
奥山栄一:写真
Photographs by Eiichi Okuyama
広田雅将:文
Text by Masayuki Hirota (Chronos-Japan)
Edited by Yuzo Takeishi
[クロノス日本版 2025年11月号掲載記事]


冒険のスピリットを現代、そして未来に伝える堅牢で実用的なツールウォッチの象徴

 現行モデルで、最も「偉大な」実用時計を挙げるとするならば、そのひとつは間違いなく、チューダーの「レンジャー」になるだろう。腕時計としての構成はシンプルだが、使えるツールウォッチとしての完成度は群を抜いている。

 チューダーを創業したのは、ロレックスの創業者であるハンス・ウイルスドルフだった。「私は何年もの間、ロレックスの技術と信頼をもって、確固たる品質と先駆性を備えた腕時計を創りたいと思ってきた」というコメントの通り、彼はロレックスの技術と信頼性を持つ、優れた実用時計を作ろうと試みた。

チューダー「レンジャー」

実用性に良質さを盛り込んだレンジャーのディテール。実用時計らしく全面マットに仕上げられたケース。写真が示す通り、立ったエッジが良質さを感じさせる。普通は角に鏡面仕上げを加えるが、あえて省いたのがレンジャーたるゆえんだ。

 チューダーがウイルスドルフの希望を具現化させたのは1952年のこと。この年、同社は堅牢な防水ケースのオイスターに、優れた汎用ムーブメントを併せた「オイスター プリンス」を発表。その実用性を示すべく、252時間、手作業で採掘を行う炭坑作業員が着用し、30時間、空気ドリルの振動下で使用するテストを行い、その成果を謳い上げた。

 名前とは裏腹の頑強さを誇るオイスター プリンスに、いち早く目を付けたのはイギリス海軍だった。52年から54年にかけて実施された北グリーンランド遠征探検で、イギリス海軍は本作を公式時計に採用。極めて過酷な環境下でも、オイスター プリンスは宣伝文句以上の有用さを発揮してみせた。

 こうした伝統を受け継いで生まれたのが、1960年代の「チューダー オイスター プリンス レンジャー」だった。オイスター プリンスの美点を受け継ぎつつも、より視認性を高めたレンジャーが、長らく同社のアイコンのひとつになったのは当然だろう。

チューダー「レンジャー」

視認性を高めるため、表面を荒らした文字盤。コントラストを強調して視認性を高めているが、荒らし方を抑えることで、上質さを盛り込んでみせた。

 そのレンジャーが再び蘇ったのは2022年のこと。見た目こそ往年のモデルを思わせるが、これは時計としては別物だ。堅牢で正確な時計を作るというウイルスドルフの願いは「ついに成就した」と言ってよいほど、新しいレンジャーはチューダー渾身のモデルだったのである。

 かつてのレンジャーは、オイスター プリンスに同じく、チューダーが手を加えた汎用ムーブメントを採用していた。これらは堅牢で修理しやすかったが、性能には限界があった。対してチューダーは、自社製ムーブメントを開発。この新しいムーブメントはショックに強く、磁気帯びしにくく、加えてデスクワークでも十分に主ゼンマイを巻き上げるほど、優秀な自動巻き機構を持っていた。しかも、あえて文字盤には表示していないが、COSCクロノメーターなのである。

 外装も大きく手直しを受けた。視認性を高めるため、ケースは34mmから39mmに拡大。堅牢さを高めるため、ケースの厚みも増した。ブレスレットも同様で、かつては板を折り曲げて作られていたコマは、ステンレススティール無垢の削り出しに改められた。ブレスレットには外れにくく、微調整の容易なT-fitセーフティーキャッチ付きフォールディングクラスプを加える凝りようだ。旧作と同じような見た目を持つレンジャーは、外装も別物へと脱皮したのである。

チューダー「レンジャー」

チューダーで唯一レンジャーに採用している矢印型の針は、蓄光塗料の面積が広い

 新しいレンジャーにはもうひとつの魅力がある。それが外装の良質さだ。強い光源下でも視認性を確保するため、本作は文字盤も外装もマット仕上げ。部品の加工精度が高いため、いわゆるツールウォッチの枠に留まらない良質さを放つようになった。分かりやすい高級さこそないものの、使うほど分かる良質さは、かつてのレンジャーにはなかった要素だ。

 一見地味だが、使えるツールウォッチとして磨き上げられた新しいレンジャー。これは間違いなく「最も偉大なベーシックのひとつ」と言える。これほど気兼ねなく、しかし愛着を持って使える腕時計はそうはないはずだ。

チューダー「レンジャー」

チューダー「レンジャー」
ストラップでも遊べるのは、腕時計としての高い完成度があればこそ。ブレスレット付きモデルに加えて、レザー&ラバーのハイブリッドストラップ(中)とストライプ入りグリーンファブリックストラップ(右)も選べる。ハイブリッドストラップはラバーの裏打ちのおかげで汗のダメージを受けにくく、ファブリックストラップも適度な厚みと収縮性を持つ。COSC認定クロノメーター。自動巻き。27石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約70時間。SSケース(直径39mm、厚さ12mm)。100m防水。(左)50万7100円(税込み)。(中・右)45万9800円(税込み)。



Contact info:日本ロレックス / チューダー https://www.tudorwatch.com/ja


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